第34話 「破壊」の渦
戦いは先手必勝だ。
僕は「身体能力強化」を使い、「存在の魔王」に駆ける。
「破壊神」は確かに手強いが、底の見えない「存在の魔王」の方が僕にとっては脅威だ。
だから先にこっちを潰しておきたい。
僕は自分でも驚異的だと思うほどの速さで駆ける。
しかし、僕の拳は「存在の魔王」に届かずあっさりと避けられてしまう。
だが、まだ一発目だ。僕は再び「存在の魔王」を狙って動く。
そんなとき、突然「身体能力強化」が解除される。
恐らく「存在の魔王」に|スキルという(・・・・・・)「
だが、ある程度予想はしていたし、スキルが解けたときのことも考えて動いていたので対応には困らない。
既に一度スキルを消されているのだ。警戒しないわけがない。
若干スピードの落ちた拳で「存在の魔王」を付け狙う。
しかしあっさりと「存在の魔王」はこれを避けると、目に見えて動きが鈍くなった僕を見てチャンスと思ったのか、今度は一気に強気な攻撃に出る。
「存在の魔王」は触れることによって発動する何らかの技を発動させようとしているのか、やたらと僕に触ることに拘ってくる。
――そして遂に僕に触れた。
そのときのことだ、「存在の魔王」は床に崩れ落ちた。
僕以外の全員が目を見開き、何が起きたかわからないという顔をした。
当然だ。僕の「身体能力強化」が解けたことで、全員僕がスキルを使えなくなったと思い込んでいる。
しかし、実際は違う。
これは戦いながら「創造」の精霊と、心の中で交わした会話だ。
(「創造」の精霊、スキルが消される度にできるだけ早くスキルを創り直してくれ)
(めんどくさいが仕方ないのう……)
「創造」の精霊には自意識がある。
スキルの創り直しなど容易いことだろう。
そして、この絶妙なバランスで保たれている攻防中に、いくら
同じスキルとはいえ自ら想像力を働かせて「創造」を発動させることはできない。
だからできるだけ素早く、隙を見て「創造」の精霊に頼んだ。
それに、彼女なら再びスキルが消されてもすぐに対応できる。
……「存在の魔王」は一回スキルを消したお陰で安心しきって再び僕の「存在」を確かめようとは思わなかったようだが。
そして僕は攻防を続けて「創造」の精霊がスキルを創り出すのを待ち、スキルが創られてから攻撃を受ける振りをして触れ、「存在の魔王」を殺したのだ。
かなりキツい戦いだった。
相手の戦闘力は半端ない。
今回は「創造」の精霊に頼ることができ避けることに徹することができたが、スキルを創りながら戦わなければいけない状況、あるいは自らの力でトドメを刺さなければいけない状況であればあっさりと負けていたかもしれない。
しかし、これで残るは「破壊神」だけだ。
「存在の魔王」との戦闘中に割り込んでこなかったのが不思議だが、タイミングが見つからなかったといったところだろう。
しかし、「破壊神」の方を見てその考えは変わる。
こいつは僕を倒すための力を練っていたのだ。
――それは「破壊」の渦。
「破壊神」の手の中にはすべてを「破壊」し尽くす黒い渦が渦巻いていた。
「ハハハハハ! これに『破壊』できないものはない! 全部まとめて塵に返れ!」
「なっ!? そんなことすればこの世界ごと消えてなくなるぞ!?」
恐らく「破壊神」が全ての力を注いで創りだした技。
この技を用いれば世界すらも「破壊」し尽くすことができるだろう。
さすがに次元を越えて「破壊」したり、この世界を概念ごと消すことはできないだろうが……。
「それでもいいんだよ! お前さえ殺せればなぁ!!!」
完全に僕のことしか見ていない。あとのことを何も考えていない。
しかし、威力は本物だ。
これには僕も本気で対応しなければならないだろう。
そして解き放たれる破壊の渦。
何よりも禍々しいそれは、どんどん世界を飲み込んでいく。
それが通ったところは、最早塵すら残さずに「破壊」し尽くされる。
本当に凄まじい威力だ。
僕はこれに対抗するために、本気で「創造」の力を練る。
「ハァァアアアアアアア!」
僕がこの技をどうにかして止めなければ、この世界は崩壊するだろう。
僕は「創造」の力を練り、全ての力を注いで「破壊」されたところを順々に直していく。
いや、直していくという表現は正しくない。
全く同じ物を創っていくのだ。
「破壊」されたものをそのまま「創造」で創り出す。
それによってこの世が崩壊することなく、何とか耐え続けている。
僕はこのままでは「破壊」に勝てないと判断し、「身体能力強化」を発動する。
僕が操っている「創造」の勢いが増す。
しかし、「破壊神」が全てを注ぎ込んだ「破壊」の渦には依然として勝てない。
直すよりも早く「破壊」されていく。
僕は「破壊」が進む先に時空魔法を発動する。
これで異次元に飛ばすことができれば全て解決だ。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
時空魔法すら「破壊」して、そのまま勢いを落とすことなく「破壊」の渦は進んでいく。
恐らく何かで渦の勢いを止めようとしても、全てを飲み込んでいくだろう。
……ならばどうする?
簡単なことだ。
渦が進む先に物を置いて間接的に止めようとしても勢いが削がれないならなら、渦そのものに直接干渉して勢いを削ぐ。
僕の中にはひとつのアイデアがある。
僕はそれを試す。
次の瞬間、渦は進みながらも何も「破壊」しなくなった。
それを見て僕はアイデアの成功を察する。
「ふぅ……」
かなり疲れた。
こんなにも本気で「創造」を使ったのは初めてかもしれない。
僕がしたこと。
それは、「破壊」の渦そのもののステータスに「外部干渉不可」のスキルを「創造」した。
「鑑定」は「あらゆるものを詳細に見ることができる」スキルである。
勿論あらゆるものには「破壊」の渦も含まれる。
僕が今まで人しか「鑑定」していなかっただけなのだ。
―――――――――
名称:「破壊」の渦
分類:「破壊神」の技
効果:あらゆるものを「破壊」し尽くす。
―――――――――
僕が「鑑定」したときはこうだった。
これを、
―――――――――
名 称:「破壊」の渦
分 類:「破壊神」の技
効 果:あらゆるものを「破壊」し尽くす。
スキル:「外部干渉不可」
―――――――――
こうしてやったのだ。
僕のスキル「外部干渉不可」は、完全に干渉を絶つわけではない。触ろうと思ったものには触れるし、呼吸だってできる。
だが、今回「破壊」の渦に植え付けたものはあらゆる干渉を絶つ。正真正銘の「外部干渉不可」だ。
これでもう何かが「破壊」されることはないだろう。
僕は「破壊神」を見る。
彼は全ての力を使い果たして倒れていた。
しばらくは動けないだろう。
念の為「スキル使用不可」というスキルを「創造」し、僕はそこから立ち去った。
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