第36話 集った強者
僕がいろいろと動いている間に、この戦争の戦況もいろいろと動いていた。
まず、空間を操れる「神」と「魔王」によってそれぞれの長への不意打ちが決行された。
しかしこれは自分達がやろうとしていただけあり、どちらも警戒していた為に不発に終わった。
返り討ちにされて逃げる際に、どちらも空間操作系の味方を守りながら逃げた。
その為ただただ逃げ帰るよりも多くの被害者が出てしまったのだが、これは単純な数だけでなく強さや汎用性などで見れば、空間操作系のスキルを使える者を失うよりもマシな選択だったと言えるだろう。
空間操作系の者がいれば再び不意打ちをするなり、一気に大量の味方を敵サイドに送るなり、使える手が増える。
しかし、逆にこれを失ってしまうと不意打ちされ、一方的に敵を送り込まれ、常に守りに回らなければいけなくなり、結局力で押し切られてしまう可能性が高い。
どんなゲームでも負けている状況をひっくり返すのは難しい。
実力がほぼ拮抗しているこの状況では重要な手駒をひとつ失うだけで負ける確率が各段に高くなってしまうのだ。
そして次に両軍がしたことと言えば、やはり空間操作系のスキルを使って敵側に味方を送り込むことだった。
空間操作を使えるのに使わない理由がない。
「神界」にも「魔界」にも結界が張られており、これをわざわざ多大な魔力を使って突破するのは得策とはいえないし、任意の場所に転移できる空間操作系のスキルを使わずに正規の入り口という限られた位置から入るメリットもない。
こんな訳で現在、両軍は互いの長の前で奮闘中である。
両軍の精鋭達が自分達の長を守るようにして戦っている。
両軍は一見拮抗しているが、「魔界」側が若干優勢だろう。
長である「創世神」がスキルを使えず、守りを突破されたら終わりの「神界」側に対し、「魔界」側は長自身が最強の最終兵器だ。
ただし、どちらもまだ崩れる気配はない。
僕は拮抗が崩れる前に援軍を呼んで、「神界」を攻めている「魔界」軍に背後から不意打ちをかけ、そのまま挟み撃ちにして倒す。さらに残った全員を連れて「魔界」を攻める。
そういう計画を立てた。
取りあえずその為には早々に援軍を確保しなければならない。
その援軍に僕が選んだのは三人。
フェラリーの父であり、Sランク冒険者でもある「風神」ウィンデッド・イリア。
レヴィの母であり、「破滅の竜」と呼ばれるリヴィア・ドラゴニア。
アレシスの父が国王を務めるテラリア王国の兵士である「最強の人」ライオット・ヒューストン。
この三人なら実力もあり、人望もあるので多くの戦力を確保できると践んだのだ。
……「魔界」に攻めいっている「神」や天使が引いてくれれば纏めて敵を殲滅することもできるが、ここまで白熱している戦いでそれは無理なことだろう。
流石に人を選びながら一人一人倒していくのは骨が折れる。
というわけでやはり数には数で対抗することにした。
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~テラリア王国国王・ドゴーン視点~
「ハァ、仕方がない……。これもアレシスの為だ……」
儂は娘を預けたアーツからの手紙を読んで、そう呟いた。
この話に確証がない以上かなり動きにくいが、もし戦争が劣勢になれば、真っ先に死ぬのは戦闘系のスキルを持っていないアレシスだろう(アーツが「創造」で「武術適性(剣)」を与えていることをドゴーンは知らない)。
そうなってから後悔しても遅い。
儂はすぐに王国兵のうち精鋭を数人用意することにした。勿論その中には「最強の人」という二つ名を持ち、その二つ名の通り人類最強の人物もいる。
「神」やら「魔王」やらが何かは知らぬが、こいつならいい働きをしてくれるはずじゃ。
儂はアーツに指定された場所を部下の精鋭達に伝えた。
▼
~「破滅の竜」リヴィア・ドラゴニア視点~
わらわはひとりで、娘を連れ出したアーツに指定された場所に向かっていた。
「はぁ、めんどくさいのぅ……。しかし娘の男の頼みとなれば断れん……。レヴィは何て厄介な男を選んだんじゃ……」
ついつい文句を言ってしまう。
「神」やら「魔王」やら知らない単語がつらつらと書き連ねられた手紙を懐から取り出して読み、盛大な溜め息をつく。
面倒事の予感しかしない。
わらわは悪い予感を振り払うように首を横に振ると、娘の為だと割り切って足を動かすスピードを上げたのだった。
▼
~「風神」ウィンデッド・イリア視点~
「ふぅ、ようやく到着かぁ……」
一晩をマイブレ大森林の中で明かし、ようやくアーツに指定された場所に俺はついた。
エルフは種族として森に愛され、しかも俺はSランク冒険者になれる程度には鍛えている。二日間歩いてきた程度では疲れない。
連れてきた仲間達と床に座って談笑していると、横から声が聞こえた。
「ようやくだな……」
「やっと到着じゃ……」
俺は声が聞こえた方を振り返る。
そこには王国を表す印が刻まれた鎧を着た兵士達と、胸元が大きく開いた和服を着た妖艶で美人なひとりの女がいた。
王国の兵士を見た瞬間、俺は自分から殺意が湧くのを感じた。
愛しい妻を強姦したこの国の兵士を殺してやりたい……。
しかし、仲間のうちのひとりが俺に耳打ちをする。
「一応話はついているんだ、面倒事は起こさないでくれ……」
そう言われてしまえば俺はあいつらに手を出すことはできない。
なぜならその仲間も悔しそうな顔をしながら、それでもエルフ全体の為に必死に感情を抑えつけ、あまつさえ手を出そうとした俺に注意までしたのだから。
「……あぁ」
一応納得したということを示すために返事をする。
しかし、怒りは増す一方だ。
そして、火に油を注いだ者がいた。
「おい、あそこにエルフがいるぜ」
「こないだ襲ったやつの男だったりして……」
「寝取られるってどんな気持ちなんだろうな」
「「ギャハハハハハハハハ」」
件の王国の兵士、その中でも最近になって精鋭部隊の一員として認められた者だ。
エルフの村を襲ったのは訓練も兼ねていたので、十分な力がある精鋭達は基本的に不参加だ。
しかし今この場にいる精鋭の中には最近になって認められた者も存在し、そいつらは前までは精鋭部隊に在籍していなかったためにエルフの村へ侵略したときにもそこへ参加していた。
因みにこのことは今の俺は知らないが、後にアーツに聞かされることになる。
俺は二人の兵士の会話を聞いたとき、怒りに身を委ねて兵士達に飛びかかっていた。
「ふざっけるなぁあああああああああああああ!!!」
俺の雄叫びが周りに木霊する。
俺は剣を抜くと同時に地面を蹴る。
「がああああああああああああああああああああああああ!!!」
思い切り俺は剣を振り回した。
そしてそれと同時にそこら辺に生えていた植物を操作し、大きな鞭を作り出す。
剣と鞭がそれぞれ、先刻話をしていた二人の兵士の顔と胸に突き刺さる。
「「ぐぅああ……」」
二人の兵士は同時に力尽き、辺りに剣呑な雰囲気が充満する。
そして、遂に一番強そうな兵士が飛びかかってくる。いや、もしかしたら先に飛びかかったのは俺だったかもしれない。
――届くッ!
そう確信したところで、割り込んでくる者がいた。
胸元が大きく開いた和服を着た、艶やかな長い黒髪を持つ女だ。
「「んなっ……」」
まさか止められるとは思わず、俺と兵士は驚きの声をあげる。
「何やってんだか……」
そして、そこへようやくアーツがやってきた。
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