第37話 参戦

 レヴィの母である「破滅の竜」リヴィア・ドラゴニア、フェラリーの父である「風神」ウィンデッド・イリア、アレシスの父が国王を務めるテラリア王国の兵士である「最強の人」ライオット・ヒューストン。

 人間界に住みながら、「神界」や「魔界」の天使や魔族、さらには「神」や「魔王」にも迫る強さを持つ三人。


 僕が彼らへ送った手紙に記した場所に行くと、何故かウィンデッドとライオットが戦い、リヴィアが止めていた。

 僕は何が起きているのか分からないまま、呆れの声を出す。


「何やってんだか……」


 その声に三人はようやく僕に気付き、手を止める。

 むしろ声をかけるまで気付かなかったのが驚きだ。

 彼らほどの強者になると、常に周りに気を配り、その気配で人の接近に気付く筈なのだ。

 それに気付かないほどに熱くなっているなんて、本当に何があったのだろうか……。


「……何してたの?」


 僕はジト目で三人を見ながら問い掛ける。


 そして、二人の訴えを、リヴィアの客観的な意見も交えながら聞いて唸る。

 話が予想以上に重かったのだ。

 僕が二人を集めたとはいえ、僕が口を挟むようなことでもない気がするので、結局このことについては放置することにした。


「まぁ、取りあえず作戦を伝えるよ……」


 作戦というほど丁寧なものでもないが、僕は不意打ちのことを伝えた。

 しかし……。


「おい、俺は正々堂々と戦いたいんだが……」


 ウィンデッドが口を挟んだ。

 そして……。


「はぁ? 戦争に正々堂々もあるかよ。どんな手を使っても勝ちに行くのが戦争だろ?」


 僕より早くライオットが食い付いた。

 そして、口論になり、さらには武力行使まで始めた。

 すぐに武力に頼ろうとするのは、流石強者とでも言うべきか……。


 ――バキャ!


 ライオットの蹴りが炸裂し、


 ――ズバッ!


 ウィンデッドの剣が肩口を浅く切り、


 ――ドガッ!


 リヴィアの拳が突き刺さった。


「「ギャンッ……。痛ぇ……」」


 二人は拳が刺さった頭をさすりながらうずくまる。


 それを見て、僕は本当にこんなメンバーで戦えるのか疑問に感じた……。

 が、取りあえずウィンデッドは不意打ち時にぜひほしいので説得を試みる。


「ライオット達が恨めしいのも、正々堂々戦いたいのも分かった。でも、そしたらフェラリーが「わかった、その作戦でいい!」ありがとうございます」


 今の反応といい、妻を貶されたことに対する反応といい、どうやらこいつは身内を大切にする質らしい。

 いや、それが普通なのかもしれないけれども、なかなかに尊敬できる人格者だと思う。


「まあ、取りあえず、出発するか……」


 ▼


「ゴルァ!」

「ギャアアアアアア!」

「ひぃ!」

「いやぁぁああああ!」


 「隠密」をかけた上で、時空魔法を使って「神界」に出る。

 そこには地獄絵図が広がっていた。

 次々と天使や魔族の命が果て、強力な力を持つ「神」や「魔王」すら少なくない人数が命を落としている。


 僕は皆に合図をする。

 そして一気に敵の背後から飛び出す。

 僕によって強力なスキルを与えられた化け物達が、「魔界」軍を滅ぼしにかかる。


 全員のステータス上に「無限体力」と「外部干渉不可」を創ってある。

 どんな攻撃も通さず、体力が無尽蔵なので時間をかけても倒せない。

 そんな相手に勝つ方法はもはやないだろう。


 後ろの方は「魔界」軍の奴らしかいないので、最初は大技を放って纏めて殲滅する。

 「魔法適性(全)」で生み出せるすべての魔法。それを纏めて放つ。

 火が、水が、風が、木が、光が、闇が、敵の固まっていた一点に吸い込まれていき……


 ――直後、大爆発が起きた。


 後ろの方でたむろしていた魔族達はそのほとんどが塵すら残さずに爆ぜ、生き残ったものも火傷やら部位欠損やらで瀕死状態だ。


「うお……恐ろしいな……」


 味方であるはずのウィンデッドにそう言われた。少し悲しい。


 そして、この爆発によってようやく前に攻めることに必死だった「魔界」軍が僕達の存在に気付いたようだ。

 悲鳴やらなにやらがあちこちから聞こえてくる。


 そんな「魔界」軍に対して、「神界」軍は恐怖に顔を歪めながらも、悲鳴を上げる元気もないほどに満身創痍だった。

 さっき情報を集めに来たときは互角だったはずだが、僕がウィンデッド達を迎えに行っている間にかなり押されてしまったらしい。


 僕は、敵が僕を無視して、力ずくで長の方に押し込まれると対応ができないと判断した。

 とは言っても具体的な対抗策があるわけでもないので、取りあえず急いで敵勢力を削っていく。


 不死魔法を使って一人ずつ確実に命を奪っていき、たまに先程と同じ全属性魔法で殲滅しながら長の方に近づく。

 その間、僕の仲間達もいい働きをしてくれたおかげで敵は次々と減っていく。


「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 僕達が「魔界」軍しか攻撃していないことに気付くと、「神界」軍の連中は、まだ勝っていないのにも関わらず歓声を上げた。

 それほどに僕達の力は規格外だったのだ。

 ……てか最初怯えた表情をしてたけど何だと思ったのかな……。


 ▼


 僕達が援軍としてやってきたお陰で「魔界」軍の殲滅は順調に進んでいたが、しばらくして問題が起きた。


 ――ドォォオオオオオオオ!!!


 後方から爆発の音がする。


「「「きゃあああああああああ!!!」」」


 続いて悲鳴も。


 何が起きたのか分からなかった僕は時空魔法で後ろに顔を出し、状況を確認する。

 果たして、そこではウィンデッドとライオットが戦っていた。

 そして、さっき二人を止めていたリヴィアもそこにはいない。


 何より質が悪いのは、二人とも「外部干渉不可」を持っていることだ。

 二人はお互いにダメージを通さず、止まることなく周りに死をもたらしていた。


 元々仲の悪い二人だったが、戦争中に味方を攻撃し、周りを巻き込みながらも目標には攻撃が通らない状況で攻撃を続けるほど愚かだっただろうか。

 そんな疑問が僕の中に生まれる。


 そして、二人がこうなってしまった原因が現れる。


「僕は『憤怒の魔王』だよ」


 そいつは、自軍が押されている状況なのにも関わらず、余裕の微笑を浮かべながらやってきた。

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