第38話 「憤怒」

 僕は「憤怒の魔王」と向かい合う。


 横には多くの被害を出しながら未だに戦っているウィンデッドとライオットがいる。

 「憤怒の魔王」のせいでウィンデッドとライオットがこんなことになってしまった。

 そのことに僕は、今までにないほどの怒りが沸き上がってくるのを感じる。


 ……っ、早速「憤怒の魔王」に影響を受けている。


 しかし、そうと理解しても怒りは鎮まらない。


 僕は即死魔法を「憤怒の魔王」に当てようと、手や足を無造作に突き出す。

 しかし、かすりもしない。

 いくら強いスキルとはいえ、当たらないことには意味がない。


「んん~? どうしたのかな?」


 わざわざ怒りを煽るような言い方をしてくる。

 僕はそれをできる限り無視しようとする。

 しかし、それがあからさまな挑発だと頭で理解しても、イライラが止められない。

 怒りに攻撃が単調になっていき、当たらなくなり、そのことに怒りは高まるという負のループに巻き込まれる。


「全然当たんないね~、当てる気あるの~? ゲラゲラ」


 怒りによって思考を放棄し、新たなスキルを創ればいいという単純な解決法すら思い浮かばない。


 そのときだった。


 ――どぉぉおおおおん!


 いきなり横から吹っ飛んできたライオットの体が僕にぶつかったことによって僕の体は宙を舞う。


ってぇな!」


 怒りに我を忘れていた僕は、普段には有り得ないような暴言を吐きながらライオットを殴り飛ばす。


「ケラケラケラ、無様だねぇ」


 それを見て「憤怒の魔王」はさらに僕を嘲笑う。

 そして「憤怒の魔王」の挑発に僕の怒りは募っていく。


 さらにそのとき……。


 ――ガコォォオオオオオン!


 今度はウィンデッドが吹き飛んできた。


 ――許せない。


 許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。


 僕の中から、今まで感じたことのないような真っ黒い怒りが吹き出してきて、それが最高潮に達した。


 理性は吹き飛び僕は本能のままに、戦いを続行していたウィンデッドとライオットに飛びかかっていく。

 持っている全ての戦闘系のスキルを使った正真正銘の本気だ。

 戦闘系だけでなく、「目覚まし」なんかも使っていればこの怒りから解放されたのかもしれないが、残念なことに僕が使ったのは戦闘系だけだった。


 僕を含む化け物三人は、思いきり周りを巻き込みながらの戦闘を開始する。

 しかも、周りには死を撒き散らす癖して、「外部干渉不可」を持つ自分たちにはほとんど何の被害もないのだ。


 僕は「身体能力強化」を使用した拳で隣にいたウィンデッドを殴りつける。ウィンデッドは吹き飛ぶ。

 「最強の人」ライオットは、その二つ名の通りの最強っぷりを披露して僕に蹴りを入れる。僕は吹き飛ぶ。


 そして、そこへウィンデッドが駆けてくる。

 ウィンデッドが操るのは剣と植物だ。それなのに「風神」などと呼ばれている訳。

 それは、光の如き速さで振るわれる剣が、物凄い風を巻き起こすからだ。

 それは、風を固めて剣にしたのだといっても相違ない。


 今までのウィンデッドは、全然本気なんて出していなかった。

 本気を出したウィンデッドは、剣一振りで魔物の棲む魔窟を土に還したという逸話が残されているほどだ。


 そして、それがライオット目掛けて振るわれる。


 死の嵐がライオットに迫り、ライオットはそれを蹴り一つで迎え撃つ。


 ドォォオオオオオオオ!!!


 この世の物ではないと思えるほどの巨大な音が鳴り響き、その余波で、直径一キロはあろうかと思うほど巨大なクレーターが出来上がり、その内部にいた人間はクレーターの外まで勢い良く吹き飛ばされた。

 死者も負傷者も敵味方関わらず凄い人数だ。


 しかし、そのクレーターの中に立っている人が合計四人いた。

 最初の二人は言わずもがな、クレーターを作り出した本人であるウィンデッドとライオット。

 そして残りの二人のうち片方は僕。最後の一人は呑気な顔で僕達の戦いを鑑賞していた「憤怒の魔王」だ。


 ウィンデッドは自身の最強の技を止められたことに対して更に怒り、ライオットは「風神」の技を片足で受け止めた為にその足が丸々消え去り、そのことについてやはり怒り、最後に僕も仲間外れにされたことに対して怒っていた。


 ライオットが「外部干渉不可」を持っているにも関わらず足をなくしたのにはスキルの性質が関係している。


 このスキルは僕が作ったものである。

 そこで、スキルを創る際に僕の主観によってほぼ無意識的に通すものと通さないものを判断したのだ。


 全て遮断していたら、勿論歩くこともできないし、吹き飛ぶこともできない。

 僕が作ったスキルは、完全に外界との接続を断つのではなく、僕の主観によって通すものと通さないものを判断しているのだ。


 そして、今回攻撃が通ったのは、攻撃の道具が「剣」ではなく「風」だったからだ。

 風は自然の現象だ。これはこのスキルの適用対象外である。

 例えそれが人を殺し得るほどに強力な風であったとしても。


 怒る僕達とは裏腹にニコニコしながら僕たちの戦いを見ているやつが一人。

 三人の苛立ちの矛先は自然に「憤怒の魔王」に向いた。


 僕は時空魔法で「憤怒の魔王」の首元に手を持って行き、そして思いっきりしめる。


「「「……へ?」」」


 そして僕達は驚く。

 「憤怒の魔王」は避けようとする素振りを見せずに、一瞬でそれを受け入れると力尽きた。


「どうゆうことだ……?」


 そんな疑問を頭に浮かべたときだった。


「グァァァアアアアアアアアア!!!」


 自軍達の方から老人の悲鳴が聞こえた。


 そして僕は怒りのなくなった頭で理解した。

 「憤怒の魔王」の役目は単なる時間稼ぎであるのだと。


 こいつによって僕達が足止めされている隙に、直接長の首を取りに行くという作戦だったのだろう。


 僕は長のところに全力で向かう。

 仲間も敵も関係なく押しのけて進み、ようやくたどり着く。


 そこには、長の方を向いて「時斬剣」を振り抜いた体勢ので「時神」と血を垂れ流した「創世神」、既に息絶えたひとりの「魔王」がいた。

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