第39話 「創世神」の過去
悲鳴が聞こえた方に行くと、そこには長に向かって「時斬剣」を振り抜いた姿勢の「時神」と血を流す長、既に息絶えたひとりの「魔王」がいた。
「おい、これは……?」
僕は「時神」に、何があったのか尋ねる。
「それより先に治療を頼むよ」
それもそうかと、僕は回復魔法を長に掛ける。
「ありがとう、じゃあ話すよ」
「時神」は説明を始めた。
▼
~三人称~
「創世神」は、この世界を創り出した張本人だ。
「創世神」として生まれた彼は、世界を創ることだけをしていた。
しかし、あるとき自分の死期が近いことを悟る。
死期が近いとは言っても人間の一生に比べれば全然長い、約1000年程度はまだ生きれるが、悠久の時を生きてきた彼にとってその時間はあまりにも短かった。
彼は、この世界を創り出した自分でも死ぬのだということに驚いたが、不思議とそのことが本当のことなのだと思った。
そこで、彼はあることを思い付く。
自分が死んでもこの「創世」の力を失わせない為に、誰かにこの力を引き継がせるのだ。
彼はその実験の為に、「創世」を使ってひとりの人間を創った。
「創世神」が以前に創ったアダムとイヴよりも力を注いだ人間。それに「創世」を引き継がせようとしたのだが、この膨大なデータ量をひとりの人に全て刻み込むことはできなかった。
そこで、彼は一つの「創世」という力を幾つかに分けて引き継がせることにした。
方向性は間違っていなかったが、実験の難易度から「創世神」は失敗に失敗を重ねた。
詰まるところ、「創世」という力が巨大過ぎたのだ。
その実験は約900年のうちに数千回も行われた。
そして、ようやく成功したその試みの成功例が「神」及び天使なのだ。
その能力がはっきり分かるほど色濃く受け継がれたものが「神」、何の能力かはっきりしないが、常人よりは強力な力を持っているものが天使という違いがある。
しかし、さらに問題が発生した。
元が人間である「神」や天使にも当然ながら寿命は存在した。
しかも、強力な能力を持っている分、常人よりも寿命が尽きるのも早い。
子供に能力を引き継がせようとすると、ひとりの子供に父母二人分の能力が引き継がれることになり、容量がオーバーして死んでしまう。
何か策を取ろうにも、能力を引き継いだ為に彼の能力は失われていた。
アーツのように
そのせいで策らしい策を取ることもできなかった。
そんなある日、「生命神」という神がいたことを思い出した。
「創世神」は彼女に頼んで、妊娠している「神」に働きかけて生まれてくる子供が双子になるようにしてもらった。
それによって、親のスキルはふたつに分かれて双子に宿った。
ようやく1000年近くもかけた実験が成功したのだ。
しかし、
何が狂ったのか、双子のうちの片方は「神」ではなく「魔王」という別種族になったのだ。
これの原因はわからなかったが、彼はこれを差別したりするつもりはなかった。
しかし、異物を嫌うのが人であり、それは「神」も同様だった。
いくら「創世神」がそれを止めても差別は起こり、最終的に「魔王」達は、「神」に対する恨みだけを持ってぞろぞろと地下に創った空間へと行ってしまった。
話がそれた。
取りあえず、この世を創り出せるほどの究極の力の片鱗。
それが「神」と「魔王」の持つスキルなのだ。
だから、アーツが「時」を「創造」したとき、彼は冷や汗を流した。
究極の力がその一部とはいえ創られるなんて有り得ない、と。
本人は気付いていないが、よくよく見たら劣化版だったのでホッとしたのだが……。
そして、戦争中。
アーツ達が「憤怒の魔王」に時間稼ぎをされている間。
「創世神」は「魔王」の毒牙にかかろうとしていた。
その「魔王」は、「創世神」が「創世」を使えないことを知っていた。
その上、その場には戦えない「創世神」と、疲弊しきった「時神」しかいなかった。
そんな絶望的な状況、二人は必死に抵抗する。
しかし、二人の全力の抵抗は虚しく、「魔王」によって殺される。
そう思ったとき。
――「時神」が「創世神」を斬りつけた。
周りにいた誰もが目を見開いたその瞬間。
「創世神」に、最盛期の力が戻ってきた。全ての「神」と「魔王」の力を足したのと同じだけの力が。
そして、「創世神」は最強の力を振るって、その「魔王」を瞬殺した。
何故こんなことができたのか。
その理由は「時神」の持つ「時斬剣」の力にある。
「時斬剣」はその名の通り「時」を「斬」る「剣」なのだ。
つまり、過去の時を切り取ることによって都合の悪い事実を消し去ることもできる。
この場合、「創世」を他の「神」全員に分け与えたという事実を消し去った。
ただし、だからといって「神」達のスキルが失われる訳ではない。あくまでも効果対象は「創世神」だけなのだ。
こんなことをできたのはひとえに「時神」の技量のお陰だろう。
実際、「創世神」は今までの「時神」で、こんなにも「時斬剣」をうまく使いこなせていた者を見たことがない。
そしてここに、最強の「神」が復活した。
▼
そこまで聞き、僕は「創世神」を見た。
彼がいれば一瞬で戦争は片付くかと思ったが、現実はそんな簡単ではないらしい。
「創世神」は「時斬剣」に斬られた傷で未だに意識を手放していた。
「まぁ仕方ないよ~、単純な体の傷だけじゃなくて、もっと深いところまで斬っちゃってるからね~。しばらくは起きないと思うよ~」
「時神」曰わく、「時斬剣」は体内の「時」を全て書き換えるので、体にも心にも――記憶まで書き換えられる為――かなりの負担をかけるらしい。
あのときはこれしかなかったから使ったが、本当はあまり使いたくない技だったという。
その代わり、敵に使った場合に与える効果は絶大だ。
傷が大きくなるので殺すのも容易いし、これを敵に使ったら記憶改竄をできるので、その敵を自軍に加えられるのではないか……。
そのことを「時神」に伝えると、彼女は目を光らせながら「そんな手があったか!」なんて言ってたので本当にやりそうだ。
取りあえず、「創世神」を守ることはできたが、劣勢が覆った訳ではないので、再び暴れることにした。
「時神」にも「無限体力」と「外部干渉不可」を創ると、僕達は再び戦場に向かう。
数時間後、「神界」に攻めいっていた「魔界」軍は全滅した。
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