第40話 戦いを終わらせる戦い
「神界」での戦いは、僕達の活躍によって勝利に終わった。
しかし、まだ戦争自体に勝ったわけではない。
むしろ今すぐ「魔界」に乗り込まないと、攻めに行っていた「神界」軍は負けてしまいそうなくらいに押されている。
周りを見渡す。
「ハァァアア、疲れたぁ……」
「ハハッ、勝ったぞ……。俺達の勝ちだ……」
「早く帰って嫁に癒されたい。ハァハァ……」
「魔界」軍を退けたことによって、ひとりの例外なく完全に気が緩んでいた。
「はぁ、仕方ない……。喜びに水を差すのも悪いし、何よりこんなんじゃ足手まといになるだけだ……。一人で行こう……」
そう一人ごちる。
こんな気のゆるんだやつらを援軍に連れて行っても全く使い物にならないだろうし、喜んでいるところに水を差すのも無粋だ。
そう思った僕はひとりで「魔界」に乗り込むことにする。
しかし、いちいち即死魔法を使うのも疲れてきた。
というわけで「創造」を使う。
「……我を呼び出すのは本当に必要な時だけと言ったはずだが……」
「創造」の精霊に怒られてしまった。
しかし……
「……まぁ、今回だけは許してやろう」
何だかんだ言って甘いのが「創造」の精霊である。
―――――――――
自動標準:使用者の深層意識に入り込み、魔法の標的を対象範囲に存在し使用者の感知する生物から自動で選別、標準する。
―――――――――
分かりにくいが、取りあえず敵と味方を勝手に判別してくれると言うことだ。
これに即死魔法を組み合わせると、敵の
今とっさに考えたスキルだが、もっと早くから創っておけば良かった。
……まあいい、取りあえず「魔界」へ行こう。
僕は時空魔法のゲートを開き……
「アーくん、私もついてくよ!」
ゲートに入る直前に、声が聞こえた。
「わらわを置いていくでない」
「そうですよ、アーツさん!」
「置いてくなんて酷いです……」
仲間達の声が。
「さっきは全然良いところ見せられなかったからな、今度こそは活躍してやるよ」
「
「わらわも行こう」
仲間(?)達の声が。
それを聞いた僕は、「ありがとう」とだけ言うと、ゲートの向こう側に足を踏み入れた。
▼
空間を越えた先には、「神界」での戦いを生ぬるく感じるほどの地獄が広がっていた。
それはもはや戦争ではない。
この世のどこを探しても、味方を積極的に虐殺していく戦争なんてないだろう。
そう、僕の目の前には、敵味方構わず攻撃を繰り出している悪魔がいたのだ。
「ヴォォォオオオオオアオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
圧倒的な破壊を振りまきながら雄叫びを上げているこれも「魔王」のはずなのだ。
その姿は「凶悪」の一言に尽きる。
元々、人をベースに創られたという「魔王」だが、これを見ているとそれが本当なのか疑わしくなる。
身長は三メートル程もあり、ヤギのような曲がりくねった太い角を頭からはやし、筋肉隆々としたボディを惜しげもなく晒している。
そして、足元に転がる山のような死体と返り血が、元々の凶悪な姿をより凶悪に見せている。
望んでこの姿になったのか、それとも望まずにこの姿になってしまったのかはわからない。
ただ、その雄叫びは確かな威圧感を孕みながらも、どこか寂しげであった。
「鑑定」によると、これは「終世の魔王」という「魔王」らしい。
「創世」と「終世」は対の言葉なので、恐らくはかなりの力を持っているのだろう。もしかしたら「魔界」軍の長はこいつなのかもしれない。
何となくだが、こいつを殺してしまえば戦争は終わりを告げる気がする。
――そして、最後の戦いが始まった。
▼
「ハァァアアアアアアアアアア!」
気合いを入れた声と共に、「風神」ウィンデッドがその二つ名にもなっている「風神」を繰り出す。
あまりにも早く振るわれる剣によって、斬撃の嵐が吹き荒れる。
しかし。
「風神」本気の一撃は、「終世の魔王」の表面に薄い傷を付けるだけに止まった。
「……チッ」
傷つけられないと判断したウィンデッドは地面を力強く蹴って一瞬でその場から飛び退く。
「ヒァァアアアアアアアアアア!」
そしてウィンデッドが飛び退くと同時に、ライオットが先程のウィンデッドと同じくらい鬼気迫った表情で、連続蹴りをぶち込む。
恐らくこの威力のキックを地面に打ち込めば、一発で半径十メートルほどのクレーターができてしまうだろう。
そう思えるほどの、渾身の一撃を悪魔に見舞う。
しかし。
ガキンッ……という音が聞こえると、「最強の人」渾身の一撃も悪魔の表皮だけに弾かれてしまった。
キーが高位の精霊の力を借りて大技を放ち、その場を地獄の炎が支配する。
レヴィがほぼ全魔力を費やして化け物の足元に巨大な時空魔法を創り出す。
フェラリーが先の尖った大樹を勢い良く化け物に向かって飛ばす。
そして、それらの攻撃を当てるためにアレシスが「魅了」を発動させて化け物の注意を引く。
僕の目には、体を木に貫かれながら焼かれ、時空の彼方に飛んでいく「終世の魔王」が見えたようだった。
しかし。
化け物は相変わらず表皮だけでキー会心の一撃を受け止め、レヴィが創り出した異空間を自身のスキルだと思われるもので滅ぼし、大樹をいとも簡単に弾いた。
全力を止められた三人は一様に悔しそうな表情を浮かべ、さらに、相手のスキルの規格外さを見て絶望的な顔をする。
だがみんなは僕のことを忘れている。
僕は気配を殺して敵の背後に近付く。
そして手を触れ……。
「『魔法適性(即死)』!!!」
僕は勝利を確信して、走り去る。
しかし。
しばらく走ってから首を曲げて状況を確認すると、そこにはほぼ無傷のままこちらを凝視している悪魔がいた。
「……な……ぜ……?」
即死魔法は必ず相手を殺す技だ。
「死」というものを必ず与えるので、防御力などは関係ないはず。
この魔法を防ぐ
敵の表面がボロボロになっていることから、スキル自体が効かなかったというのは考えにくい。
ならば考えられることは一つ。
「……途中で止められた?」
僕は「鑑定」を発動する。
「鑑定」はステータスを見るスキルではない。
物事を詳しく見るスキルだ。
ステータスというのは、それを僕がわかりやすいように文字で表した、物事を表すひとつの形でしかない。
つまり、このスキルを使えば相手の体内で何が起きているのかを理解することができるのだ。
そして理解する。
この巨体の中では数々の細胞が蠢いている。
そしてそれら一つ一つが「生物」として認識されてしまい、即死魔法が、僕が触れている部分にあった細胞にしか作用しなかったのだ。
本来なら有り得ないこと。
恐らく体が巨大化したときに、細胞は増えたのではなくてそのまま大きくなったのだろう。
だからこそ、大きくなった細胞一つ一つが「生物」だと認識されてしまった。
「『終世の魔王』の一細胞」から「一体の生物」に進化したのだ。
「……くそっ、くそっ……」
僕がどうすればいいのか悩んでいる間にも、戦いは続いている。
仲間達が攻撃をし、それを化け物が防ぐ。
今は人数の優位性と相手の遅さのおかげで相手の攻撃を全て防ぐことができているが、それはこちらの体力が落ちると共にこちらが劣勢になっていき、いつか負けが確定するということだ。
僕は相手にちょこまかと攻撃を繰り返しながら、策を練る。
その間にも味方の体力と精神力はどんどん削れていき……。
ドガンッ!
遂に、遠方から精霊術でサポートに徹していたキーが「終世の魔王」の攻撃によって吹き飛ばされてしまう。
そして、それを皮切りに、拮抗状態からどんどん劣勢になっていく……。
それを横目で見、「終世の魔王」に相変わらず通らない攻撃を続けながら、考える。
――何か無いのか……、何か無いのか……、何か無いのか、何か無いのか、何か無いのか何か無いのか何か何か何か何か…………。
ぐんぐん加速していく思考の中、思い出すのは先刻「創造」したばかりのスキルと、初めて「創造」したスキル。
――「自動標準」と「鑑定」。
僕は閃いた。
これらがあれば、即死魔法で相手を確実に仕留められる。
「ごめんっ、時間を稼いで!」
策が思い浮かんだ瞬間、僕は必死に戦う仲間達にそう叫ぶ。
そして、誰一人それに嫌な顔をしないまま、黙って頷く。
僕はそんなみんなに全力で感謝しながら「鑑定」を発動し、「終世の魔王」の巨体を順々に見ていく。
一、五、十……。
そしてあるものの数を数えていくが、このままでは数え終わる前に味方が全滅してしまう。
――もっと早く!
心の中でそう叫びながら、思考を加速させていく。
二十、五十、百……。
まだ足りない。
百五十、三百、五百……
千、一万、二万……
十万、百万、千万……
次々と加速していく思考。
一億、十億、百億……
千億、一兆、十兆……
膨大なデータ量に、脳が頭痛という警笛を鳴らす。
しかし、まだ止められない。
もう少しだ……。
――そして、遂に全ての数を数え終わった。
総数三十七兆二千万個。
人間の持つ細胞の総数だ。
見ると、味方全員が地面にはいつくばっている。
今まで見たこともなかった竜の姿をレヴィが晒している。それでも尚倒せないほどにキツい戦いだったのだろう。
唯一立っているキーが、必死に「終世の魔王」の攻撃を止めている。
僕はみんなにもう一度心の中で感謝を告げると……
「『自動標準』!!! からの『魔法適性(即死)』ィィイ!!!!!」
全身全霊を込めた技を、さっき数えて位置を把握した三十七兆二千万カ所に、同時に叩き込んだ。
音もなく、「終世の魔王」を形作っていた全ての
直後、僕は意識を手放した。
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