第5話 冒険者ランク上昇試験
僕はBランクの冒険者と向かい合っていた。
僕たちの間には剣呑な雰囲気が漂っている。
今、僕は冒険者ランクの上昇試験を受けている。
冒険者は必ず誰でもDランクから始まり、上のランクの冒険者との決闘で勝利すると勝った冒険者のランクまで自分のランクを上げることができる。
決闘というのはギルド承認のもとで公式に行われる模擬試合のことで、これの勝ち負けにランク上げを賭けることは公式に認められている。
僕が今向かい合ってる冒険者はBランクだから、この人に勝てば俺はDからBに二つランクを上げられるということだ。
ちなみに、決闘は冒険者ランク以外を賭けて行うこともできるが、ランク上げが目的の決闘で戦う冒険者はギルドがランダムで決める。
相手は大剣使いだ。
僕は表向きは剣使いということになっているので剣で戦わなければならない。まあ別にギルドの職員には「創造」のことバレてるから使っちゃっても良いんだけど。
あの受付嬢め……。バラされたこと思い出したら腹が立ってきた。
そして決闘が始まる。
僕の集中力は限界まで高まり、野次馬の声は最早耳に入ってこない。
相手は物凄い重さがあるはずの大剣を持ちながらも恐ろしいまでの速さでこちらへ向かってくる。
速さと重さがあり、さらに技術もある。強敵だ。
しかし、かわすことができれば勝機はある。
僕は相手が大剣を振るタイミングに合わせて、その下をくぐる。
しかし、向こうも手練れ。こんなことで勝てるほど甘くない。
両手持ちの剣を片手で持ち直したと思ったら、剣を持っていない方の手を使って、突っ込んできたときよりもさらに数倍はあるであろう速さの拳を腹に向かって打ち込んでくる。
とっさに僕は床を横に蹴って避ける。
これで相手が渾身の一撃を自分に向かって打ち込むという構図が出来上がった。
流石にあれほどの威力のパンチを自分に打ち込んだら相手も倒れるだろう。
そこで勝ちを確信して油断した僕に、もう片方の手が迫ってくる。このとき既に両手とも剣から離されている。そして自爆するかと思われた拳は寸前で止められている。
これは明らかにおかしい。こんなことをできるのはスキルか?
―――――――――
加減速:自分あるいは自分に触れているものの速度を調節できる。
―――――――――
なるほど、これなら大剣を持ちながらもあの速度で向かってこれたことも、拳の急停止も納得がいく。
そしてこのパワーでこのスキルは恐ろしい。
やはり敵の攻撃をかわし続けて隙が生まれるのを待つしかない。
そこから数分間、激闘が繰り広げられていた。
相手が攻め、僕は避ける。
しかしそれももう終わりだ。
僕は相手の拳をかわすと、遂にがら空きになった相手の懐に忍び込み、本気でハラパンを打ち込んでやる。
相手はそれだけで気絶した。
僕の勝ちだ。
こうして僕は晴れてBランク冒険者の仲間入りを果たした。
▼
パーティーメンバーであるキーとレヴィも危なげなく勝利を掴んでいた。
キーは早速高位精霊の力を駆使して相手を叩きのめし、レヴィはちょくちょくと「魔法適性(時空)」を使いながら竜族の力で相手を翻弄していた。
「精霊術適性」の難点は契約精霊の発見と契約の成功確率にある。
この二つを達成しなければ、「精霊術適性」はないにも等しいのだ。
しかし逆に言うと、必ずスキルの基本スペックが同じなのでデメリットがあった分のメリットもある。
契約さえ結んでしまえば超強力な技が使えるということだ。使用難易度の高さは技の威力の強さで補われている。
つまり、高位精霊との契約に成功したキーはもはやかなりの強者だ。キーさんマジ最強。
そして、「魔法適性(時空)」は強力なだけあって魔力消費が激しいが、これだけに頼らずにうまく立ち回ればとても強力な武器になる。
したがってこのスキルに加えて竜族としての力も持っているレヴィもかなりの強者だ。レヴィさんもマジ最強。
こんなチート二人が負けるはずもなく、あっさりとBランクへと上がることができた。
「アーくん、どうだった?」
「どうじゃ? わらわもすごかったじゃろ?」
僕は頑張った二人の頭を撫でてやる。
キーはデレデレとし、レヴィは
「ふ、ふん、嬉しくなんかないぞ」
などとツンデレ発言を何度も繰り返した。
121歳が14歳に撫でられて喜ぶってのはどうなのか……。
まあ、竜族は長寿だからレヴィはまだ子供なのだということにしておこう。
何はともあれこうして僕のパーティーメンバー三人は全員二段階ずつ冒険者ランクが上がり、Bランクへとなった。
▼
僕達は試しに受けたBランク依頼で近くにある高難易度の森林、マイブレ大森林に行くことになり、その準備をする。
こないだの森とは比べ物にならないくらい大きい森だ。勿論1日で帰ってこれるはずがない。
大概のことは僕の「創造」でどうにかなるが、それだとどうにも味気ない。……もう既に鎧とか剣とか作っちゃってるけど。
とりあえずこういう理由で僕達は旅支度をしていた。
数日分の食料、テントなどを大量に買い込むと、僕達は家へ帰った。
因みにキーは僕の家の隣にある彼女の実家に住んでいて、レヴィは僕の家に寝泊まりしている。
別に男女が夜中ひとつ屋根の下とは言え、何かが起きるわけではない。
……僕もロリ体型なんかには欲情しないからな。
「アーツ、何か失礼なことを考えてないか?」
「いいえ、そんなことありえませぬ。あはは」
またも鋭いロリババア。
ともかく旅支度を整えた僕達は、翌日に家の前で待ち合わせるとマイブレ大森林へと出発した。
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