第6話 エルフの村

 今回の依頼は、エルフの村にあるものを届けるというものだ。

 それは何かの手紙のようだが、僕にはそれが何かわからない。ギルドの受付嬢も知らないらしいから何か重要なものなのだろう。


 僕達はエルフの村を目指して森の中を歩く。

 途中、BやCランクの魔物が何度も襲いかかってくるが、僕達にかかればそんなのは雑魚に等しい。瞬殺だ瞬殺。


 半日ほど歩いた。

 そろそろ昼の時間なので街で買ってきた組み立て式の椅子と机を出す。

 これがなかなかに重いのだが、床に座るのは嫌いなのでこんな物をわざわざ持ってくる。


「ふぅ」


 レヴィがため息をつく。

 冒険者になる前からそこそこ訓練をしていた僕とキーとは違い、「魔法適性(時空)」にばかり頼っていたレヴィは半日の移動で相当に疲れたらしい。

 寧ろよくそんなやつが森の中を半日も歩けたなと感心する。


 早速昼食の準備に取りかかる。

 ここまでの道のりで仕留めた熊をバラして焼く。

 熊特有の臭さを消すべく、香辛料をたくさん振りかける。

 シンプルな調理法だが焼いて、香辛料で味をつければ大抵は何とかなる。

 因みに魔物を食べないのは不味いからだ。魔力を体に宿している為に、食べれば魔力が回復するが魔力は大して消費していないのでわざわざ食べることはない。


 飯を平らげ、残った肉を薫製にしたところで椅子と机を片付けて出発。


 レヴィはまだ休みたいと文句を言っていたが、あまり休んでばかりいるわけにも行かない。

 少し可哀想だが無視して出発する。


 そこからさらに三時間ほど歩いた頃、金属と金属がこすれあう音が聞こえてきた。

 恐らく誰かが戦っているのだろう。僕は武器を抜き、3人で警戒しながら音のする方に近付いていく。


「あっ……」


 キーが声を上げる。


 僕の視線の先ではどこかの兵士とエルフが戦っていたのだが、兵士がエルフを斬る直前にキーがその光景を目にしたのだ。


 キーの声を聞き、兵士はピタリと動きを止める。

 ……と思ったらいきなりこっちに斬りかかってきた。

 このまま殺されるのもいやなので僕も剣を抜き、兵士の剣を受け止める。

 その剣にはキレがなかった。

 恐らく先の戦いで疲弊していたのだろう。

 あっさりと僕は兵士を斬り伏せることができた。慈悲はない。


 僕達は三人でエルフの方に駆け寄る。

 エルフの意識は既に落ちていた。

 見た限り命に影響はなさそうだ。ホッとした。


 少し早いが、エルフのこともあるのでここらで適当にテントを設置して早めに休憩することにする。


 僕達は飯を食べ、エルフにも水分を口付けで与える。寝ている者に水を飲ませるのには一番手っ取り早い。

 ……キーとレヴィが顔を朱くしていた。レヴィは121歳にもなって純情らしい。

 流石に体を拭くのはキーに任せた。


 結局、その日のうちにエルフが起きることはなかった。


 ▼


 僕は誰かに叩かれた痛みで目を覚ました。

 ゆっくり開けた目の先にはエルフの顔があった。


「……うわっ!?」


 予想外に近くて、意識の覚醒と共に飛び退く。

 外を見るとまだ暗い。


「……こんな時間にどうしたんだ?」

「お願いします……助けてください……エルフの村が……」


 エルフの顔は酷く歪んで、今にも涙が溢れてきそうだった。


「何があったんだ?」

「どこかの兵士達が村をいきなり襲ってきて……それで私は逃げてきたのですが……」


 さっきこのエルフが戦っていたのがその中のひとりか。


「わかった、助けよう。僕も依頼でエルフの村には用があるからね」

「ありがとうございます! 早く行きましょう!」

「でもまだダメだ。休息をしっかりとらなければ重要なところで力尽きてしまうからね」


 エルフの村はここからさらに半日ほど歩いたところにある。

 途中で倒れたら助けるどころじゃなくなってしまう。


「……うぅ、わかりました」


 物分かりが良くて良いな。


 僕は寝直そうと横になる。

 エルフの寝息はすぐに聞こえてきた。やはりエルフも疲れていたのだ。


 ……そういえば名前聞いてなかったな……。敵対しない人に許可なく使うのは気が引けるけど「鑑定」を使うか……。

 急ぎって訳でもないけど何となく気になる。


―――――――――

名 前:フェラリー・イリア

性 別:女

年 齢:15

種 族:エルフ

職 業:未設定

スキル:「魔法適性(木)」

種族スキル:「植物操作」

―――――――――


 スキル「魔法適性(木)」と種族スキル「植物操作」の相性は良さそうだな。


 ▼


 お日さまがこんにちはした。


 僕は全員が起きたのを確認してから朝食を作り始める。

 あの後、結局寝直すことができなかった僕は、みんなが起きるまでの一時間ほどでその辺にいた狼を食用に仕留めてきた。

 これも昨日の熊と同じように香辛料を適当に振って焼く。

 予想よりも美味しくいただくことができた。


 食事を終えた僕達は再びエルフの村へと歩き出した。


 ▼


 さらに半日ほど歩くと、予想通りにエルフの村へと到達できた。

 まあ、エルフであるフェラリーがいたからこそこの時間でついたのであってフェラリーと出会わなければ予想通りの時刻でつくことはできなかっただろうが。


 そして、エルフの村に入って僕は唖然とした。

 そこら中に血や精液が飛び散っていたのだ。


 確かにエルフは平均的に見て、見た目が良い。襲いたくなるやつもいるだろう。

 しかし、兵士としてこの村に来た以上それを実行に移すとは思っていなかった。

 血についてもそうだ。わざわざこんな量の血が出るほど惨殺することはない。


 フェラリーがその悲惨さに目を見開いていた。

 そしてみるみるうちにその目に涙がたまっていく。


 僕は「過去視」を使う。

 そしてあることに気付く。それは――


「みんな、誰もこの村の人達は殺されていない」


 僕の気付いたこと、それは暴力を加えたり犯したりしながらも誰も殺していないということ。

 それもそのはず、エルフは奴隷として高く売れるのだ。


 僕の見立てによるとこの襲撃には3つの意図がある。

 1つ目に捕まえたエルフを奴隷として売ること。エルフは平均的に見て美しい顔をしているので奴隷として非常に高く売れる。


 2つ目に兵士のストレス発散。兵士として訓練を受けていると、どうしてもストレスが溜まってしまう。そこで、このような小さな村を襲撃してストレス発散をするのだろう。暴力を振るい、美人を犯せば大抵のストレスは吹っ飛んでいく。


 3つ目に兵士の訓練。この村の襲撃自体の難易度は決して高くないだろうが、この村に辿り着くまでには危険な森を抜けてこなければならない。これは十分に兵士の訓練になる。


 僕は「過去視」を使って、エルフ達が集められている場所を目指す。

 しかし、それで見つけられるほど現実は甘くなかった。


 ――既にエルフ達はこの村の外に連れ去られていたのだ。


 いや、これは逆にチャンスなのか?

 これを追跡すれば、この村を襲った兵士達がどこの国のものなのかわかる。国と直接交渉すれば今後このようなことが起きないようにしてくれるかもしれない。


 とりあえず僕達はこの兵士達を追うことにした。

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