第22話 「神界」に潜む「魔王」
魔人に僕が調合した自白剤を飲ませたことによって、この「神界」に「魔王」が潜んでいることが発覚した。
しかし、恐らく「魔王」もここまでは想定していただろう。でなければ魔人をあそこまで派手に動かさない。
ということは何らかの対応策を講じている可能性が高い。
僕はあまり無闇に動かずに大人しくしていた方がいいだろう。そうすれば「神」達がどうにかしてくれる……多分。
勿論「神」達に対する策も「魔王」は持っているのだろうが、それを言い始めても仕方がない。少なくとも僕が動くよりは良い結果が得られるだろう。
「精鋭の天使達で構成された警備隊が出るから問題ないと思うよ~」
「時神」に相談するとそう言っていた。
「時神」はこの気の抜ける口調からは考えられない程強力な力を持っているし、人や物事を見て考察する能力もなかなかに高い。
彼女がこう言っているのなら問題はないだろう。
僕達は結局この件には手を出さず、観光を楽しむことにした。
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「神界」に来てから一週間、「魔王」が潜伏していると発覚してから6日が経過した。
「神界」の警備を担当する警備隊に加え、「時神」や「破壊神」と言った「神」達も参加して捜索しているにも関わらず、いまだに「魔王」の手掛かりが何一つ掴めないでいる。
そして僕達は一通り観光を楽しみ、これ以上居ても意味がないと思ったので帰ることにした。
下に降りれるようになっているのは街から離れた神殿近くだ。
僕はパーティーメンバーの面々に加えて「時神」を引き連れてそこへ向かう。
「――ッ!!」
神殿の前を横切ったとき、僕は常時発動している「索敵」に強力な気配を感じ、勢い良く神殿の方を向く。
「時神」を含む全員が僕の唐突の行動に驚いている。
その時、神殿の入り口のドアがゆっくりと開かれる。
「やあやあ、まさか私の『存在』が気取られるなんて驚きだよ」
その中から出てきたのは紫がかった黒の目と髪を持つ美男子だった。
「私は『魔王』。存在を知られたからには仕方がないから出てきてあげたよ」
戦いが始まる前に「鑑定」しておこうと思い、スキルを発動する。
しかし、それは失敗に終わった。
いつも「神」や「魔王」を「鑑定」したときに表示されるような「読み取り不能」ではない。
そもそも|何も表示されない(・・・・・・・・)のだ。
「……?」
僕は起こったことが理解できずに何度も「鑑定」を繰り返す。
しかし結果は変わらない。
流石に不審に思い、自身を「鑑定」した。
―――――――――
名 前:アーツ・バスラ
性 別:男
年 齢:14
種 族:神
職 業:創造神、冒険者[剣士]
スキル:「創造」
―――――――――
「……んなっ」
「創造」以外の全てのスキルが消えている。
「悪いけどスキルは消させてもらったよ。流石に素のスキルは消せなかったけどね」
何でもないかのように「魔王」は言う。
今までスキルを消されたことなんてなかった。
それだけに僕は自分の持つ数々のスキルに絶対的な信頼を置いていた。
そのスキルが突然ひとつを残して全て消えてしまった。僕の動揺は大きい。
僕はキーと初めてパーティーを組んだ日に造り、久しく使っていなかった剣を取り出した。
そして、それを振りかぶりながら「魔王」に突っ込んでいく。
「オォォォォオオオオオオッッッ!!!」
大きく雄叫びを上げながら思いきり振り下ろす。
しかし、それを「魔王」はあっさりといなす。
何回繰り返そうとも当たらない。
それもそのはず。僕はスキルを奪われた。それは「武術適正(全)」も例外ではなく、剣術は僕のものではなくこのスキルに頼りきりだ。
しばらくそれを繰り返していたが、それは唐突に終わりを迎えた。
突然僕の剣が霧散したのだ。
「何っ?」
そして、その決定的な隙をついて「魔王」は剣を僕に向かって振る。
僕は首が飛ぶ数秒先の未来を想像した。
しかし、そうはならなかった。
凄まじいスピードで迫った植物が僕と「魔王」の間に入り込み、何とか受け止めたのだ。
「ありがとう!フェラリー!」
僕はお礼を言いながら全力で距離を取る。
そして、それと同時にキーの精霊が、レヴィの短剣が、フェラリーの植物が「魔王」に迫り――消えた。
精霊術士であるキーは契約精霊が消され、レヴィも武器をなくした。もう戦うことはできない。
「時神」が「時」を止め、そこにフェラリーが先の尖った植物をかなりのスピードで叩き込む。
しかしそれが「魔王」に届くことはなかった。
あっという間に「時神」の背後を取り無効化。さらにそのままフェラリーの意識も刈り取る。
最早戦える物は残されていない。
このまま全員殺されるのだろ――
「私を好きにしていいのでこの人達を殺さないでもう帰って下さい!」
僕な後ろ向きだった思考はアレシスの一言によって停止した。
「私ならどうなっても良いですから!」
元々可愛いアレシスが「魅了」を全力で発動してそう叫ぶ。
流石の「魔王」もこの言葉を無視できない。
「ならば私について来てくださ――」
その言葉が最後まで紡がれる前に僕の体は勝手に動いていた。
「ウオアアアアアアアアアア!!!!!」
僕の拳が「魔王」の頬に食い込み、そして「魔王」は吹き飛ぶ。
ガラガラガラ―――……。
連なっていた建物が瓦解する。
そして、その衝撃によって「時神」が目を覚ます。
「あっ……」
その短い悲鳴は、今まで聞いた「時神」の声で最も必死さの伺える声だった。
「何してるんだよ!ここの重要性は『破壊神』がこないだ説明し――」
――ゴゴゴゴゴ……。
「時神」が必死に喋っていた言葉は、地響きにかき消された。
僕のパンチに吹き飛ばされた「魔王」がぶつかったことによって「神界」を制御する装置は壊れた。
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