第28話 「創造神」の落胆、「破壊神」の心変わり
「ぐううううううううううぁっ!」
私は苦しさに喘ぐ。
でも、とうとうやろうとしていたことができるようになった。
苦しさよりも嬉しさの方が大きい。
これでアーくんのスキル復活に一歩前進だ。
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「ぎいいいいいいいいいっ!」
魔力を限界まで絞り出す。
今までで一番長時間発動できた。
順調にタイムを延ばしている。
これならアーツのスキルを復活させられるかもしれない。
▼
「破壊神」の拳が迫る。
それを間一髪で避け、距離を取る。
反撃はしない。
一回でも触れれば「破壊」される。
反撃をできるほどの余裕はない。
躱し、いなし、避ける。
時折危ないところをフェラリーに助けられながら、何とか避け続ける。
しかし、段々押され始める。
避けるのが辛くなってくる。
それでも紙一重で避ける。
頭めがけて放たれた拳をしゃがんで避け、その直後に放たれた脚への蹴りをフェラリーに弾いて貰い、反対の足での回し蹴りを跳んで避ける。
そんな調子で一分程戦闘が続く。
しかし、変化が訪れた。
今までパンチやキックしか使っていなかった「破壊神」が別の手を使い始めたのだ。
僕の足元の地面を「破壊」したり、いきなりアレシスを狙ったり。「神」である僕や人であるフェラリー、アレシスを「破壊」するには触れなければならないが、地面くらいなら触れずとも「破壊」できるらしい。
単純な戦闘でも押されていた僕がこんな手を使われて対応しきれる訳もなく、見る見るうちに差が開き始める。
とうとうやられる――と思った瞬間、大きな盾が飛んできた。
フェラリーの魔法で創られた盾だ。
その盾が「破壊神」の攻撃を受け止める。
そして、次々とフェラリーは木魔法で小さな刃物をつくり、それを「植物操作」で一寸の狂いもなく「破壊神」に投げる。
端を尖らせている為、そのまま受けると切られる。そう判断した「破壊神」はこの盾に対応しないわけにはいかない。
フェラリーが盾を次々と投げ、それを全て「破壊神」が落とす。
そういった構図ができあがっていた。
しかし、それも長くは続かない。
元々魔力切れが近く、結界の破壊にも参加しなかったフェラリーだ。
いくら小さなものとはいえ、すぐに刃物を作り出せなくなる。
すると、「破壊神」は再び僕への攻撃を開始しようとして――。
「そこまでじゃっ!」
「創世神」が止めに入る。
フェラリーの時間稼ぎのお陰でどうにか「創世神」が来るまでの時間を稼げたようだ。
「『破壊神』! 何をしておる! 独断行動は許さぬぞ!」
やはり「破壊神」の独断だったようだ。
これで「創造」を戻してもらえる可能性は高くなる。
「破壊神」は別の「神」に連れ去られていった。
「取りあえずわしの家まで案内しよう。付いてこい」
「創世神」にそう言われ、僕は大人しく従ってついて行った。
▼
僕達は「創世神」の家に案内された。
そこはかなり広く、思ったよりも片付いていた。というよりも生活必需品以外のものが全くと言っていいほどなかった。
客間の椅子に座らされ、天使のメイドがお茶を持ってくると「創世神」は口を開く。
「で、今日は何の用でこっちにきたのじゃ?」
いきなり用件をストレートに聞いてきた。
僕もストレートに答えることにする。
「単刀直入に言うと、『創造』を戻して貰いたくて来ました。『破壊神』に『破壊』されてしまって……」
一応目上なので慣れない敬語を使う。
「ほぅ、あいつがそんなことをしたのか……。後でまた罰せなければな」
そこで一息付き、次の言葉を口にする。
「それは申し訳ないと思うが、残念ながらお前の願いは聞けない」
「なぜ!?」
「わしはもうスキルを使えないからじゃ」
「んなっ」
「わしでも戻せない以上恐らくどうしようもない。諦めるべきじゃ」
「創世神」がスキルを使えないなんて完全に予想外だった。
もし断られても……と思っていくつか口説き文句を用意してたのだが、使えないだなんて思ってもみなかった。
「もう帰るんじゃな。『破壊神』はしっかり罰しておくから安心せい」
スキルを使えないのならここにこれ以上留まる意味はない。
「……ありがとうございました」
スキルを失ったときほどではなかったが、やはりがっかりはするものだ。
メイドに見送られながら、沈んだ気持ちで僕は「創世神」の家を出た。
▼
「どうして俺がこんな目に遭ってんだよ! この『神界』を汚すあいつがこうなるべきだろうが!」
「神界」の牢屋の中、「破壊神」はそう叫んでいた。
「諦めろ。いくらあの行為に正当性があったところでお前のやったことはただの独断だ。」
看守をやっている「神」が「破壊神」を完全に見下した目でみていた。
結局「破壊神」は「創世神」の判断で腕一本を持っていかれ釈放されたのだった。
「破壊神」が「創造神」を襲ったのは「神界」を思ってのことだった。
しかし、「破壊神」は今回のことで「神界」を恨むようになった。
心変わりが早いと思われるかもしれないが、「神界」の為を思ってやったことで「神界」に罰を与えられたのは、「神界」を恨むようになるには十分な理由だ。その罰が腕一本という大きなものなら尚更。
しかし、そのことに気付いている者はいなかった。
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