第13話 街の危機

「ではまた頼むぞ」

「……はい」


 エルフの暴走を止めた僕は、国王に見送られながら「魔法適性(時空)」のスキルを使用して街へと続く空間の歪みを生み出した。


 そして、そこに入ろうとして空間と空間を繋ぐ時空魔法の渦の先にあるものを見て僕は言葉を失っていた。


 ――そこは地獄だった。


 猛火に焼き尽くされた街は、大量の水に流された街でもあり、草木が生い茂った街でもあった。


 数時間前までは何の問題もなく建っていた建物の中には、光線で貫通された跡が残るものや影の空間――闇魔法の中には空間に干渉できるものもある。ただし時空魔法ほど自由度は高くない――に半分飲み込まれた建物まであった。


 僕達は驚きつつも全力で冒険者ギルドに走る。


 倒壊した建物が道を塞いでいた為に遠回りしながら走り、ようやくたどり着いた冒険者ギルドには誰もいなかった。

 いや、それどころかよくよく考えれば走ってくる途中にも誰もいなかった。


「くそっ!」


 まさか住民全員が死に絶えてしまったのではないか。

 ネガティブな感情がどんどん頭の中を駆け巡る。

 死に絶えたにしても死体や跡がひとつもないのは不自然なのだが、今の僕にはそのことを考える余裕もなかった。


 ゴンッ!


 もともと弱っていたギルドの柱が崩れる。

 苛立った僕がそこにあった柱を殴ったのだ。


「まだ諦めちゃだめだよ!」


 それを見たキーが、僕に向かってで力強く、それでいて優しくそう言ってくれる。


「そうじゃ、まだみんなが死んだとは限らないぞ」

「きっとどこかに避難したんですよ」

「とりあえず探してみましょう」


 僕は仲間達の励ましを受け入れ、全員で一斉にギルドを出て街中を走り回る。


「おーい! みんないないのかー!?」


 僕の必死の問い掛けに答える者はいない。


 走って、走って、走る。

 僕は先程の仲間達の言葉を信じて諦めずに走り続けた。

 街全体を隈無く走り回り、しかし日が暮れる頃になっても誰ひとり見つかることはなかった。


 取りあえずは諦めて、一旦家に戻る。

 家も酷い状態だった。

 一部が焼け落ち、濡れた建物に蔦が這っていた。


 そして、辛うじて原型を留めていた僕の部屋の机には手紙と思しきものが置いてあった。


『北の平原にいます』


 恐らくキーの親辺りがが置いていってくれたのだろう。

 自分達も必死だっただろうに面倒見のいい人達だ。


 心遣いに感謝しながら家を出て走る。


「ハァッ! ハァッ!ハァッ……」


 後先考えずに最初から全力で走り始めたせいですぐに息が苦しくなる。

 それでも僕は走り続ける。

 この街は僕にとって掛け替えのないものなのだ。

 生まれ育ち、愛着のあるこの街をそう簡単に壊されてたまるか。まだ見ない敵に向かって僕は心の中でそう言う。


「アーツ! 時空魔法を使った方が早いのじゃ!」


 隣を走るレヴィにそう言われてようやく、僕はそのスキルの存在を思い出した。

 どうやらそんなことも考えられないほどに慌てていたらしい。

 ダメだ。冷静にならなければ。そうでないと失わないで良いはずのものまで失ってしまう。


 僕は「魔法適性(時空)」を使い、時空魔法を僕の少し手前に展開する。

 そして、走ってきた勢いを殺さないまま、時空魔法の渦の中に入る。


「うわっぶ……」


 転移した瞬間、僕は何かに躓いて転んでしまう。


「ひぃっ……」


 果たして僕が躓いたものの正体は、焼け焦げた死体だった。


 周りを見渡すと、そこら中に死体が転がっていた。

 そして、生きているのは二人のみ。


 ひとりは、僕のパーティーを除けばこの街一番の女冒険者。

 こんな状況でも逃げ出さずに戦う度胸はすごいものだと思う。

 心の中で素直に賞賛する。


 もうひとりは先日見かけた「魔法適性(全)」を持つ赤ん坊だ。

 風魔法でも使っているのか、空中にふわふわと浮いている。


―――――――――

名 前:ルイ・クルトゥス

性 別:男

年 齢:0

種 族:魔人

職 業:魔人

スキル:「魔法適性(全)」

種族スキル:「魔力増加」「魔王忠誠」

―――――――――


 「鑑定」すると、ステータスがこの前とところどころ変わっている。


―――――――――

名 前:ルイ・クルトゥス

性 別:男

年 齢:1

種 族:人間

職 業:未設定

スキル:「魔法適性(全)」

―――――――――


 僕はこの前見たときのステータスを頭に思い浮かべる。

 種族が人間から魔人に変わり、職業も種族と同様の魔人になっている。そして、魔人になったことによってか、種族スキルが2つ追加されている。


 僕は周りに転がっている人達の敵討ちを果たし、世界に害を及ぼす存在を消すために剣を抜いて走り出す。

 走りながら剣に火魔法を付与し、「魔法剣」にすることも忘れない。


 しかし、ルイはそんな僕を全く気にせず、女冒険者にトドメを刺すべく空中に無数の氷の槍を魔法で作り出す。

 超スピードで放たれたそれを、女冒険者は最初のうちは全て捌いていたが、徐々にそれが掠るようになっていく。


 僕は無数に放たれる氷の槍を纏めて火魔法で焼き払うと、ルイに「魔法剣」で斬りかかる。

 そこにキーの精霊術による支援が加わり、さらには逃げようとしたルイを追随するようにレヴィの短剣が迫る。


 流石にこの人数、この強さはまずいと判断したのか、ルイは時空魔法を展開すると、即座に逃げていった。


 女冒険者(名前をクロロというらしい)が安堵したのか、僕に抱きついてきた。

 僕はパーティーメンバー達から冷たい視線を感じた。


 ▼


 僕は久しぶりに新たなスキルを取得した。


―――――――――

蘇生:死んだ生物に命を戻す。

―――――――――


 流石に魔法には命を扱うようなものはなく、仕方がないので新たなスキルを「創造」した。


 全員分の「蘇生」を終える頃には、夜が明けていた。


 僕はもうひとつ新しいスキルを「創造」すると、早速それを使う。


―――――――――

巻き戻し:指定した範囲内にあるものを全て任意の時間まで戻す。

―――――――――


 これをソアール全域に指定し、一日前の状態まで戻す。


 こんな大掛かりなことをやったらスキルのことがバレてしまうが、もうどうでもいいかという諦めの思いの方が強かった。


 街並みが完全に王都に向かう前と同じに戻ったことを確認すると、僕は住民達に感謝されながら家に戻った。


 ベッドに入ったのは完全に朝日が顔を出してからだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る