第22話 母の入院 いざ★退院
早く帰ってきて……
みんながそう思いだす。
嵐が今まさに、なリビング。
出し忘れたゴミ。
空っぽの冷蔵庫。
居場所を忘れた迷子の食器たち。
ありえない光景。
ありえない。ありえない。
母親が入院して数日、我が家は見事無惨に崩れた。
別に母親が偉大とか、そんなことを言うつもりはない。
(いや、どうかな? ちょっとある?)
―――ついに母親が退院する日。
「ただいま〜! おお! 我が家! かぐわしき我が家!」
いつもどおりの母親の元気な声が玄関で聞こえた。一目散に飛び出したのは猫たちで、スルスルと体を擦り付け甘く喉を鳴らす。出遅れて父親がエプロンの端で手を拭きながら玄関に向かう。お姉ちゃんは部活でまだ帰ってなくて、お兄ちゃんはお仕事で今日は帰れない。
僕はといえば……こんな時に限ってトイレだったりする。本当にある意味、ナイスタイミングである。神様さすがだね!
(別に褒めてません)
リビングへ繋がる扉を開ける音がして、母親の声が裏返るのがトイレの中の僕にもはっきりと聞こえた。
やばくないか? この状況。
「あの〜……ママちゃん、これには、ふかーいワケが……」
父親が母親にバツ悪そうに言い訳をする声も、トイレの中の僕にはっきりと聞こえてきた。
「ぷは……こりゃ傑作だよ! これでこそ我が家だね! うん、間違いないわ!」
「へ? ママちゃん?」
「いやいや、これぞ、我が家でしょ!」
母親は怒るよりも呆れるよりも何よりも、吹き出すようにして笑いながらその言葉を言い切った。スパッと! ビシッと!
「ジャングルみたいで、珍獣揃いで、これぞ我が家よ!」
まるで何処かの戦場で戦いを終えた後のように、首と肩に包帯を巻いた母は高らかに笑い、トイレの中の僕に声をかける。
「たっくん! ただいま! 母さんのお帰りだよ!」
母は強し! こりゃ、この家の誰も勝てないね! うん。
「あー、うんうん! お母さん、おかえりなさい!」
僕はトイレの中だというのに、満面の笑みで返事をしたよ。
これでこそ、うちの家族なのだ。
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