第3話 心乙女と心男前

 僕はホラー映画が好きだ。「13日の○曜日」とか「○ンビ」とか、そういうのが好み。怖いっていうよりツッコミどころが多くて好きなのだ。最近では海外ドラマの「ウォーキン○・デッド」もとても面白いと思う。

(あえての伏せ文字、伏せれてないとか言わないでいいよ?)


 レンタルに行く時、僕は必ず金魚のフンのようにくっついて行っては勝手にカゴに入れていく。


「またこういうの観るの?」と父親に呆れた顔をされる。こういうのが苦手なのか、とても嫌そうな顔をあからさまに出すから面白がる母親と僕。ちなみに母親もホラーが好きで二人で休みの時には飲み物や食べ物を買い込んで、寒いと困るからと毛布も用意するほどだ。そうしてリビングは小さなホラーシアター化する。


 そんな中、父親はリビングから少し離れ、猫と遊ぶ。どうしても嫌なのだろう。まあ、無理に観るものでもないし、僕らは強制はしない。


「ねえ、どうしてそんなに怖いものばかり観たがるの?」と、キッチンに猫缶を片しに来た父親は僕らに声をかけてきた。


「ん〜ストレス発散?」と、母親は笑う。


「そんな理由!?」と、父親は困り顔になった。ここから二人の会話に僕は耳を傾ける。


「パパちゃん、どったのよ?」

「だって人いっぱい死ぬじゃん……ママちゃん平気なの?」

「……あ〜そういうことね〜」

「……うん。そういうこと」

「だけどさ〜よーく考えてみ? 結局のところ実際は誰でも死んでもいんじゃない? それが例えば主人公でもヒロインでも」

「えー! どうして? どうしてそういうこと平気で言うの〜」

「だってホントに死んじゃいないっしょ!

 これ全部フェイク、フェイク! 」

「ああー!」

「うわ、びっくりした……なに大きな声出してんのさ!」

 母親は一瞬驚いた顔をしたが状況を把握したのか吹き出すようにすぐに笑い出した。父親は目を輝かせて感心したかのような表情でティーカップに紅茶を注ぎ入れる。


「んあ〜目からウロコ!」

 テーブルにコトリと音を立て、三客分のティーセットを用意する。その両手を頬にあて大袈裟にリアクションをとった。


「娯楽だからね、ホラーは〜」

 と、母親が暖かい紅茶を飲み、ふっと力を抜いたように笑った。


 なんです? このふたり。

 なに、この夫婦? それを横目にミルクの多めのミルクティを僕は口に含んだ。


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