第2話 男前オカン

 僕は猫が好きだ。でも、犬も好きだし、小さな生き物も好きだよ。けど、虫は嫌い。大嫌い。脚が異常に多いか、逆に全く無いかは特にムリ。エイ○アンとかプ○デター……それくらい気持ち悪い。(好きな人ごめんなさい。)



「あんたね〜、虫にだって命があるんだよ?

 簡単に嫌ったり殺しちゃダメだかんね! 触りたくなきゃこうすればいいんだよ……見ててみ?」

 そう言って紙で掬いとるように小さな蜘蛛を乗せる。ゆっくりとそれを持ち上げ、窓の外に逃がして優しい笑顔で「もう入って来ちゃダメだからね〜」と静かに窓を閉めた。


 この母親の行動力にはいつも頭が上がらない。ベランダに迷い込んだ蝉が大鳴きして暴れていても指先でヒョイっと掴み、「ばいばい!」と笑顔で指をひらひらと振った。この人に苦手な物はあるのかと、一度聞いたことがある。


 すると、「うめぼし! 食えって言われたら死んだほうがマシ! あれだけは昔から無理なんだよ!」キシシと僕を見て歯を出して笑った。


 なんでも平気そうなのに苦手なのあるんだと、何故か僕はホッとした。


 母親の右太腿に15センチほどの大きな傷があり、極力脚を出したがらない。「それどうしたの?」と僕は小首を傾げた。


「特別に教えてあげよう! これは名誉の勲章! っておまえは知りたがりだな〜人には言いたくないこともあるんだぞ?

 とくに女の子や女性には何でもかんでも、根掘り葉掘り聞くもんじゃないよ! 」そういつもの笑顔で言って僕の頭を少し撫でて髪をくしゃくしゃにした。


 この人のこういう所は見習いたいと僕は思った。こういうのなんだろうね、すごく強いと思うんだ。かっこいいと思うんだ。

(絶対に伝えない。照れ笑いして背中をバンバン叩くからだ。あれ痛いんだよね。)

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