第20話 母親の入院 カルテ そのいち
重い内容だけど、重くない内容でお送りします。(僕語りですから、いつもの如く)
「たっくん、ママちゃんね〜もうすぐ入院するよ〜」
母親は身体が丈夫ではない。と、僕に笑って言った。
骨張った首筋から鎖骨にかけて青白く美しいシルエット。父親はそれを綺麗だと言う。母親はその言葉に困った様な笑顔で、少し照れたように僕には見えた。母親の右側の鎖骨は子どもの頃の事故で少し普通より前に飛び出ている。だからといって母親はそれを隠したりはしなかった。これも自分お勲章のようなものだと指でなぞってドヤ顔をする。最近はそれが寒いとたまに痛むのだという。
母親曰く、内側に骨を押し込むだけの簡単な手術なんだそうだ。(本人が言うんだから、僕はそれ以上のツッコミも質問もしなかった)
しばらくして、入院をするからと母親がカバンにいそいそと荷物をつめ込みはじめた。
「ママちゃんがいない間、どうすればいいの?」
それを扉にもたれて黙って見ていたお姉ちゃんが、ぽつりと言った。
「少しの間だよ! 一生会えないわけじゃないよ。大袈裟だな。お姉ちゃんは!」
そう言って母親は大きな華奢な手でお姉ちゃんの顔を包み込むように触った。
「それよりも、アタシがいない間に家のことをちゃんとしてよ? にゃ〜達にも寂しい思いさせないちょうだいね?」
そう言って明日の為にと、母親は早めの就寝をする。あっという間に、寂しい気持ちになったのは言うまでもない。
次の朝、母親は病院にひとりで荷物を持ち行ってしまった。見送りも、すべて母親は断った。
らしいと言えば、らしいのである。
今日から大変な事になる前触れは、追い風のように僕らに近づいてくるのであった。
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