第19話 ホットケーキ狂想曲(カプリチオ) 最終楽章 「甘いモノは別腹です」
甘い香りは、不穏な空気に押しつぶされる。
「ホットケーキ?」
「うん、ホットケーキ!」
「いらない……」
「えええ! お兄ちゃん、どうしてえ?」
「……どうしても」
「理由になってなああい!」
二人の無駄な会話がリビングとキッチンで行ったり来たりする。
「理由は……」
お兄ちゃんがとても面倒くさそうな表情になる。
「ねえ、もう良くない?」
そこに、お姉ちゃんが横入りしてくる。
「お姉ちゃんまで、なあに?」
父親は本当に困った顔で首をかしげた。
「お兄ちゃんが最近あんまり帰って来ないのも、あれだけ甘党のバカがホットケーキを拒否すんのよ? パパちゃん……空気清浄機でも買おうか?」
お姉ちゃんは、いやにニヤけた表情を浮かべて父親に言った。僕もここでは気がつかなかった。そこにバスルームの掃除が終了した母親が手をタオルで拭きリビングに入ってきた。
「それはもう美味しい美味しい、ハワイアンパンケーキを食べてきたんでしょ?」
母親はしれっと言葉を吐いて、ウォーターサーバーから水をグラスに注ぐ。
「なんで、それ知ってんの……」
「お母様にはすべてお見通しなんだよ……息子くんよ」
驚いた顔のお兄ちゃんをよそ目に、母親はお姉ちゃんの隣でソファーにどっしりと座った。
「さては俺のTw○tter見たな!」
「あらら……ママちゃんデリカシーないことを……」
「Twi○ter? そんなの見てないよ? 先週のお休みに渋谷でお姉ちゃんが見たんだよね〜」
「ねえ〜」
「それ余計にタチが悪いよ……見かけたなら声かけてよ」
お兄ちゃんは額に手をあてて、お姉ちゃんを見てから呆れた顔をした。
ここで僕からの解説ね〜。
(面倒くさいので)
要するにお兄ちゃんに彼女が出来て、彼女に毎回のように甘いモノを食べに連れて行かれて、甘党バカのお兄ちゃんはホットケーキを「食べたい」とならなかったらしい。
はい。それはそれは、ごちそうさまでございました。(え? 悪口なんて微塵も言ってないよ?)
そこから、母親やお姉ちゃんが父親にやんわりと「ホットケーキは程々にして」と注意されていました。
難しいよね。人付き合いも人生って。
(しみじみ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます