サツマイモのせい


 ~ 十月十三日(金) お昼休み 十八センチ ~


   サツマイモの花言葉 乙女の純情



 原作小説からのスピンオフマンガですら顔が黒く塗りつぶされたキャラクター。

 俺がそれに似ていると今朝になっても言い続ける面倒くさいこいつは藍川あいかわ穂咲ほさき


 腹いせに朝から相手をしないでいたら、キューピットの矢で散々攻撃されて、しかも魔王からの雷を俺が一身に受けて立たされた。

 …………小説に、似たような事が書いてあったのを思い出してぞっとした。


 さて、秋の味覚週間最終日だというのに、おばさんは自分で企画しておいて飽きた御様子。

 今日の穂咲は、軽い色に染めたゆるふわロング髪をお皿の形に結い上げて、その上にサツマイモを三つ乗せている。

 バイトが終わったらまたおばさんに説教だ。


 そんな教授は、カレー事件に続きまたもやクラス中から非難を浴びている。

 秋に入ったとはいえ、まだまだ暑いのに。

 これはない。



「うう、暑いの……」

「自業自得でしょう。というかみんなに迷惑……、あっちい……。でも美味い……」


 机の上には煙がもくもく。

 ふかし器なんてどこから持って来たのさ。


 今日のお昼はふかし芋。

 ……オンザ目玉焼き。


 もちろん別々に食べますけどね。


 季節先取りのストーブを囲むのは神尾さんに渡さん。

 あと、六本木君も穂咲お手製の招待状で顔をぱたぱた扇いでる。


「俺たちまで『お芋パーティーなの』に出席させてもらっていいのか?」

「そのバカ丸出しな招待状をよく見るがいい。『お芋パーテーィなの』だ」

「うん、みんなで食べるの。いっぱい持って来たから」

「俺がね。ほんと重かった」

「じゃあ遠慮なく」


 六本木君があつあつ言いながらサツマイモを半分に割って紙皿に置くと、それを渡さんは平気な顔で手に取ってかじり付いた。


「すごいね、渡さん」

「料理する女の子は熱いの平気になるものよ?」

「あはは、それは人によるよ。あたしも料理するけど、持てないもん」


 俺が半分に割ったお芋をフォークでぱくつく神尾さんは、さっきから教授と編み物の話で盛り上がっている。

 話の感じでは、穂咲は二本目のマフラーに挑み始めたようだ。


「教授、二本目作り始めてるんだ。自分用のだから妥協を許さないんだね」


 俺が声をかけると、穂咲はなにやら六本木君とアイコンタクト。

 なにさ、その意味深なの。


「今のなんだよ? マフラーを……」

「そんなことより道久。サツマイモを食うと音が鳴るって知ってたか?」

「音って言い方あるか。それに、食事中に何てこと言い出すのさ」

「美味いって声が出るだけじゃねえか。他に何を想像したんだ? なあ、香澄」


 六本木君が渡さんに振り向くと同時に、なにやら可愛らしい音がした。


 びっくりするほどタイミングぴったり。

 そんな返事あるかーい!


 突っ込みたいのをなんとか我慢。

 すると六本木君は、真っ赤になって俯いた渡さんに手を合わせて、


「わりい! 今のは俺だ! でも芋のせいだからさ、笑って許してくれねえか?」


 苦笑いと共に頭をかいた。


 ……おお、スマート。

 六本木君はかっこいいって女子が口をそろえて言うけれど。

 すっと、こういうことが出来るの凄いって思う。


「犯人は六本木君なの?」

「きょうじゅー。台無しですよー」


 呆れて突っ込むと、みんなが笑い出す。

 そして一番楽しそうに笑っていた渡さんが、俺を小さく指差した。


「今、隼人がお手本見せたでしょ? ダメよ秋山君。もっと優しさを持たないと」

「そんなこと言われてもなあ……」


 何の話をしているか、理解できていないんだろうな。

 お芋を一本平らげた教授が、手をぱんぱんと払ってる。


 ……こんなのに気を使ってもねえ?


 溜息をついた俺に、いつものようにきょとんと首をひねった教授。

 そして何もなかったかのように水筒のほうじ茶を紙コップに注いで、みんなに配り始めた。


 机を一回り。

 自分の椅子に戻って、よっこいしょと座った瞬間。



 音がした。



「教授。今の、随分面白い音したね」

「そうだったの。面白い音になったの」


 このやり取りに、急に目くじらを立てた渡さんと六本木君。


「ちょっと! 今、さんざん教えたじゃない!」

「道久ぁ。お前はどうしてそうなんだよ……」


 ん?

 どうしたのさ二人して?


「座った時、太ももが鳴ったんだろ? なあ教授」

「うん」


 凄い剣幕で立ち上がっていた二人が、今度は一気にクールダウン。

 なんなのさ。


「急に固まっちゃって。どうしたんだよ?」

「…………いや、お前の、気遣い? …………変」

「なんだよ気遣いって」

「これはこれで……、優しいのかしら?」

「だから、何の話だよ」


 すっごい複雑な表情で俺を見る二人。

 そして、負けじと複雑な笑顔であははと笑う神尾さん。


「俺、なんか変なことした?」


 さっぱり分からないまま教授を見たら、小さく舌を出して意味深に笑っていた。


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