ススキのせい
~ 九月二十二日(金) お昼休み 二十センチ ~
ススキの花言葉 悔いのない青春
もも、パンパン。
筋肉痛でまともに動けない俺の隣、徐々に遠ざかる席に腰かけるのは、文化祭お疲れさまでしたキャンペーン中の
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日は大量の編み込みにして頭の周りを巻きに巻き、そこにこれでもかとススキを挿している。
長い穂がゆらりゆらり。
ススキは黄色い花を咲かせるのだが、これはいわゆる、ザ・ススキ。
真っ白な穂が非常に邪魔な有様で揺れている。
バカ丸出しだ。
さて、ここでキャンペーンの内容のお知らせです。
お昼休みが始まるなり、三台のバーナーに鍋をかけた教授は、その中に水飴を投入して煮詰め始めた。
そして熱くなった水飴をクッキングシートにあけて、赤い食紅を振りかけたかと思うと伸ばして折って伸ばして折って。
俺も手伝わされて、伸ばして折って伸ばして折って。
さらに渡さんまで駆り出されて伸ばして折って伸ばして折って。
そのうち水飴がキラキラツヤツヤし始めたところで、少し千切って平たく丸く。
それを何枚も重ねて、あっという間にバラの飴細工をいくつもこさえていった。
お弁当用のホイルカップに入った飴細工。
これを、クラスのみんなは驚嘆と共に受け取っていく。
このスキルは初めて見たので、俺もびっくりだ。
「穂咲、凄いわよね。いますぐでも食べていけそう」
俺の隣では、渡さんが不格好なバラしか作れずに水飴を直接舐めていた。
酷いよ六本木君。
君が指差して笑ったりするから貴重な戦力がそがれちゃったじゃない。
「そうだね。確かに裁縫とか絵とか、いくらでも食っていけそうなんだけど……」
「自分の好きな事がお仕事になるんだから、いい事じゃない。違うの?」
「うん。あいつの夢には調理士免許とか必要だろうし、ちゃんと勉強して欲しいんだけど。……絶対後で後悔するに決まってる」
割り箸をぱきりと割った渡さんが、水飴をこねながら目を丸くさせた。
「え? 穂咲、料理人になりたいの?」
「世界一の目玉焼き屋になるのが夢なんだって」
「ああ、そんなこと言ってたわね。じゃあ、ちゃんと勉強しなきゃ」
「料理の資格試験って、難しいの?」
「その前に、ここを卒業できるかどうかあやしいじゃない」
うわあ、それは確かに。
あいつ入学してからまともに勉強してないもんな。
たしか次の期末であまりにもひどい点を取ると留年になるはず。
「…………無理やりにでも勉強させなきゃ」
「うん、一石二鳥じゃない。家庭教師って名目で毎晩穂咲の部屋に行けるわよ?」
「ひうっ!?」
「……渡さん。神尾さんの前では気を付けて発言してね? 今日の俺は、スクワットどころかスキップすら困難なのです」
真っ赤な顔をして俯いたままの神尾さんがとっても不憫。
そんな彼女にごめんねと声をかけた渡さんが、楽しそうに飴細工を配る教授を見つめながら再び割り箸をくるくるさせ始めた。
…………あ。
「それだ! 思い出したよ!」
「え? 家庭教師?」
「その発想は捨ててください。教授が欲しいって言ってたやつ、渡さんのおかげで思い出せた」
きょとんとしたまま水飴をこねる渡さん。
君が両手に棒を持ってくれたおかげだ。
ありがとう。
でも、どこで売ってるんだろ?
来週には買っておきたいな。
……母ちゃんにでも聞いてみるか。
心配事が一つ消えた安心感。
ほっと息をついていたら、みんなに感謝の気持ちを配り終えた教授がとてとて寄って来た。
「ロード君! みんなにはデザートな量だけど、君にはお昼ご飯だから特別製だ!」
「ん? まさかお昼ご飯、飴細工なんですか!?」
勘弁してくださいよ、水飴なんてそんなに食べられるはずないじゃない。
横から渡さんが、このこのーとか肘で突いてくるけども。
嬉しくないです。
でも、たまに登場するゲテモノよりはましか。
それにグロテスクな見た目ならともかく、あんなに綺麗な飴細工なら十分。
俺が咳払いなどして席に着くと、教授はスキップしながらご飯を持って。
そして、机を覆い尽くさんばかりの赤い花細工をででんと置いた。
「さあ、召し上がれ♪」
「ラフレシアかーい!」
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