カタナンケのせい
~ 九月二十五日(月) お昼休み 十三センチ ~
カタナンケの花言葉 心は思いのまま
不吉な数字という物がある。
四とか九とか、あるいは十三とか。
そんな不穏な距離をあけた席に腰かけるのは、仮に天災に襲われても全部俺に投げつけてきそうな
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日はまるでギリシャ神話の女神さまのように緩い編み込みにして後ろで縛り、清楚なティアラ風の髪留めなどしている。
そこに飾られたカタナンケ。
白から薄紫へのグラデーションが見事な花は、朝の記憶では五つほど咲いていたような気がするのだが、今は三輪しか見当たらない。
どこに落っことしてきたのやら。
さて、今日のお昼はコース料理。
教授がこんな変な事をやり出したのにはもちろん理由があって、昨日俺の家でグルメマンガなど読んだせいなのです。
でもね、前菜と言われてアーモンドチョコを三粒渡されましても。
スープと言われて水筒からほうじ茶を注がれましても。
どちらも食後に下さいな。
まあ、文句はあれど今日の教授はなぜやら綺麗に輝いているようで。
ついつい甘やかしてしまうのです。
なんでかな、ちょっと変わった風味のサラダを食べた辺りからぽーっとする。
こっそり香辛料でも混ぜましたか? また何かの実験ですか?
「さあ、メインディッシュが焼きあがったぞ、ロード君!」
メインのお肉料理。目玉焼きハンバーグ。
俺、昨日の晩メシとその余りのせいで二食続けてハンバーグなんですけど。
これだけ続くとどんな絶品料理でも飽き飽きです。
「おお、こりゃうまそうだ。さっそくいただこう」
……ん?
思ってもいないことが口を突いた。
まあいいや、我慢していただきますよ。
ちょっとげんなりしながらハンバーグへ箸を入れると、ちょびっとだけ残っていた食欲が一気に消え失せた。
黄身が崩れた直後に聞こえたもの。
ハンバーグから鳴ってはいけない、焦げがバリバリと割れる音。
「ちょっと焼きすぎちゃったの。目玉焼きと違う料理は火加減が難しいの」
ちょっとじゃないです。
なにさ今の音。
焦げが層になってます。
これは体に悪そうだ。
せめて焦げを剥がしてから……????
またもや意志に反して体が勝手に動き出す。
しかも焦げバーグをばりばりもしゃもしゃと食べた後、口にした言葉は。
「うん。今日もすごくおいしいよ」
あれれれれ???
「見た目は微妙なの」
「とんでもない。綺麗で食べちゃうのがもったいないほどさ。……でも、君の方がもっと綺麗だよ」
ちょっとまてい!
俺の体、何が起きてるの?
さすがにざわつくギャラリーの皆さん。
せめてもの救いは、言葉が棒読みになってるからなにか怪しいと感じてくれていることか。
それにしてもこれは。…………ん?
まさか! さっきのサラダにカタナンケの花びら混ぜたのか!?
カタナンケ、和名は
昔のギリシャでは惚れ薬の材料として使っていた花。
別名を、キューピットの矢という。
でも、いくらなんでもそんな惚れ効果が……、
「美味しいなら一安心なの。あんまり失敗続きだと嫌われちゃうの」
「はっはっは、バカだなあ。料理なんかなくったって、俺は君に夢中さ」
惚れ効果というか、何の呪いだよこれ!
このままだと大騒ぎになる!
なんとか止めてもらわないと!
……そうだ!
「神尾さん助けて! こんな展開、見てて恥ずかしいよね! 俺を叩いてでも正気に戻して!」
恥ずかしがり屋キャラが判明した神尾さんにひっぱたいて止めてもらおう。
そう思って振り向いてみたものの、そこには目の座った、いつぞや壊れてしまった時の委員長が妖艶な笑みを浮かべていた。
「続けなさいな。いえ、むしろ食べさせあいっこしなさい。いつも二人でやってるんでしょ? ほら、あーんって」
「うそでしょ!? そんなこと言う人じゃなかったよね!」
教室中を満たす黄色い叫び声。
ああもう、しばらくからかわれ続けるの確定だよ。
頭を抱えながら見つめる先。
最悪の事態を生んだ悪女の机の上。
そこには、薄紫の花びらが入った食べかけのサラダが置いてあった。
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