カキのせい


 ~ 九月二十六日(火) 五時間目 五センチ ~


   カキの花言葉 私を永遠に眠らせて



 昨日の実験は故意か偶然か。

 どれだけ問いただしても口を割ることのないこいつは藍川あいかわ穂咲ほさき

 でも、机の距離が全てを物語る。

 君が満足した分、どんだけ周りが迷惑してると思ってるのさ。


 俺と共に被害を被った神尾さん。

 そんな彼女の机が、いつもの位置から五十センチばかり遠ざかっている。


 君のせいじゃないから。

 気にしないでいいから。

 全部こいつが悪いんだから。


 そんな迷惑千万な穂咲の髪だが、今日のはちょっと、いくら何でも。

 軽い色に染めたゆるふわロング髪を木のように高く頭の上に縛り、そこから生えた枝にカキの実を四つ程ぶら下げている。


 ……さすがに今日は、コメントを控えさせていただきます。



 さて昨日、お昼からずーっとクラスのみんなに冷やかされ続けた俺は、逆に珍しいメリットを手にした。

 一緒にからかわれた穂咲が、授業中に話しかけてこなかったのだ。


 おかげで昨日の午後は授業に集中。

 しかもその勢いに任せて随分遅くまで勉強できた。


 ここのところ授業のレベルが上がってきて、置いて行かれ気味だったので挽回できた感じ。

 でも、さすがに明るくなるまで机に向かってたのはやり過ぎた。


 今日は大変ねむいのです。



「ふわあぁぁぁぁむにゅ」

「随分と眠たそうなの。そんなに遊んでちゃいけないの。あたしみたいにしゃきっとするの」

「しゃきっとしてる穂咲は、昨日家で何時間勉強しましたか?」

「家で勉強なんて無意味なことはしないの。勉強は学校でするものなの」


 してないじゃない、学校でも。


 それにしても、夜更かしして勉強するのと、勉強もせず決まった時間に眠るの。

 どっちが悪い子なんだろううね。


「ふあぁ。……眠いのに寝ちゃいけないって、一番辛いよね」

「そういう事なら、差し入れをあげるの」


 変な事を言いながら、頭からカキをもいで渡してくる穂咲。

 どういう意味なんだそれ?


「眠気覚まし?」

「ううん? おなか一杯になればすっきり眠れるの」

「そっちか~い」


 白雪姫に毒リンゴを差し出した魔女のどや顔。

 俺はお妃様に力なくツッコミを入れながらも、なんとなく柿をガブリと齧る。

 すると口の中一杯に電流が走って、脳天まで痺れが突き抜けた。


「しぶっ! にぎゃあああっ!」

「失敗なの。目が覚めちゃったの」

「いや、助かったよ。これで授業に集中でき……、やあ先生。どうなさいました?」


 怖い顔してにらみなさんな。

 やっと集中できたので、授業の続きをお願いします。


「秋山、なんだ今の奇声は? やかましいぞ。立ってろ」


 ……まあ、言いたいことは分からないでもない。

 でも、ひとがせっかく真面目になったのにそれは無い。


「先生。その言葉、渋いです」

「ん? おべっかか? どういう意味だ」

「こんな顔になるってこと」


 俺が浮かべた、クレーム代わりの渋い顔。

 そのまま教卓の前を通り抜けようとしたら首根っこを掴まれた。


「誰か。こいつから渋みが抜けるまで窓の外に吊るしとけ」


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