ヒメリンゴのせい


 ~ 十月十一日(水)  藍川700、秋山600 ~


   ヒメリンゴの花言葉 名声



 昨日の夜のことだ。

 ちょんまげスタイルについて穂咲のおばさんをさんざん叱りつけたら、明日は任せておいてと肩を叩かれた。


 嫌な予感を胸に一夜を過ごし、明けた朝には、やはりがっくりとうなだれた。

 そうね、こっちに頑張っちゃう気がしてましたよ。


 おばさん会心の傑作。

 まるで絵本から飛び出してきたような可愛らしさ。


 真っ赤なフードを頭からかぶり、肘にはおばあさんにあげるためのリンゴが詰まった籠を下げた女の子。

 その名はもちろん、赤穂あこうずきんちゃん。


 ……後は刀を持たせれば、討ち入りに行きそうな名前なのです。


 白のブラウスに真っ赤なスカート。

 赤い木靴とか、実に懲っていて。

 素晴らしいクオリティーですけど、一つだけ文句があります。


 なんでリンゴが籠の中じゃなくてずきんの上に乗ってるの?

 これじゃおばあさんが思わず弓矢で射抜いてしまいます。



 さて、この赤穂ずきんちゃん。

 学校ではやはりと言うかどうしてなのか、こっぴどく俺が叱られ。

 いつものように廊下へ追いやられ。


 バイト先に来たら、当然とばかりに赤穂ずきんちゃん自身がもてはやされ。

 いつものように行列ができて。


 こいつばかりがいい目を見て、なんだか憎らしいのにちょっと可愛いから許せてしまうという実に複雑男心。


 でも、この大人気が赤穂ずきんちゃん的には不満なようです。



「うう、いつもよりカメラ向けられるの」

「我慢なさい。おかげで大盛況なんだから」


 情報化社会、万歳。


 赤穂ずきんちゃんがレジに入って一人目のお客様がすぐにネットにあげてくれたおかげで、たったの三十分で大賑わい。

 カンナさんもめまぐるしくバーガーを焼きつつも、鼻歌など聞こえてくるほどご機嫌な様子。


 昨日とは打って変わって大忙し。

 新製品を開発している余裕など……。

 そんな余裕なんかどこにも……。


「赤穂ずきんちゃん、いねえっ! どこに消えやがった!」

「秋山! ちょっと一人で頑張れ! バカ穂咲が写真の撮られ過ぎで精神的にヤられちまってる! ちょっと気晴らしさせてからそっちに返すから!」


 うそでしょ!?

 だってお客さん、赤穂ずきんちゃん目当てで来てるのに!


 どうしよう、どうしたら。

 慌てる俺の目に飛び込んできたのは、隣のレジにかけられた赤いフード。



 くそう! やむなし!



 俺は覚悟を決めて、いや、やけくそになってフードをかぶりながらレジを叩くと穂咲よりたくさんのフラッシュを浴びることになった。


「お待たせしましたなの! 新製品、あつあつアップルパイなの!」

「…………そんなのいいから、レジをおねがいしますよ赤穂ずきんちゃん」

「道久君、なんでそんなのかぶってるの? 頭おかしくなっちゃったの?」


 今度は俺が精神的にやられたので、調理場に引っ込んだ。


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