最終話 ムラサキシキブのせい


 ~ 十月二十日(金)   誕生パーティー ~


   ムラサキシキブの花言葉  賢さ



 今日は、ワンコ・バーガーを貸し切っての盛大なパーティー。

 クラスの半分くらい、十四、五人ほどが集まってくれるとか。

 感謝してもしきれない。


 主賓である俺と穂咲もウキウキと…………、したいところなのだが、事情があって首を垂れている。

 いや、俺がプレゼントを準備できずにがっくりしているのは当然として、君は何をしょぼくれているの?


 そんな俺たちのせいで、みんなは困り顔。

 いかんいかん、せっかくの好意を台無しにするわけには。


 でも、俺が明るくお礼を言いかけたのと同時に、厨房から罵声が上がって全員がすくみ上ってしまった。


「このあほんだら! なんで空調入れてねえんだ! わりいなみんな。あったまるまで待っててくれ。あと、食い物ももうちょっとかかる」


 そう、お昼のピークが過ぎたところで閉店にしてくれて、店内を飾り付けてくれたことには感謝だ。


 でもさすがは店長。

 いつも通り、きめるところは、びしっとしくじる。


 おかげで、お店の中なのにみんな揃って上着を着たまんま。

 それでも寒いので、俺と穂咲は二人してマフラーを巻いている。


 そんな、ちょっとしたお通夜ムードの中、司会進行役の六本木君が困り顔のまま威勢よく声をあげた。


「えっと……、そ、それではみんな! 藍川と秋山の誕生日だ! 今日は盛大に二人を祝ってやるついでに、大騒ぎしようぜ!」


 いぇーいと乗っかって来る声に、覇気がない。

 やれやれ、どうしたものか。


「隼人は盛り上げるのヘタね、あたしに任せなさい。いきなり! クライマックス! 宴たけなわでもなんでもないのに、プレゼントたーいむ!」

「おかしいだろ香澄!? どんな段取りなんだよ!」


 渡さんの機転に、爆笑とツッコミで会場が湧いた。

 でもそれ、俺にとっては十三段あったはずの階段を十二段飛ばしで登らされたようなものなんですけど。


「そしていきなり! 穂咲と秋山君のプレゼント交換です! さあさあ、何が飛び出すのかな?」

「片っぽはまるで分からねえけど、藍川の方はみんな知ってるじゃねえごふっ!?」

「黙りなさい! じゃあ、穂咲から秋山君へのプレゼントをどうぞ!」


 みんな知ってるってなにさ。

 沸きに沸いた会場の面々が見つめる先、どういう訳やら朝から元気のなかった穂咲が、とうとう鼻をすすり出してしまった。


 そして鞄から取り出したのは、ボロボロになってしまったマフラー。

 それを見たみんなは、口に手を当ててざわつきはじめた。


「それ……。昨日、子猫を拭いてあげたやつか」

「うん。だから、プレゼントを準備できなかったの。ごめんなさいなの」

「既製品だと思ってたのに、凄いじゃないか。……最初は、そんなのしか編めなかったくせに」


 そう、穂咲が首に巻いているマフラーは、こいつの部屋で見たものだ。

 端っこ、つまり編み始めのあたりなんかよれよれに捻じれている。


「これもね、道久君にあげようと思って編み始めたんだけど、下手くそだから自分用にしたの。……でも、道久君ひどいの。マフラー持ってるし……」

「ああ、これはね。穂咲にあげようと思って買ったんだよ。でも、穂咲は自分用にマフラー編み始めたって聞いたから、商品券を買ったんだけど……、昨日、川に流しちゃった」

「……うそ。あの時、無くしちゃったの?」

「うん……」


 あまりの展開に、みんな揃って寂しそうな顔。

 しんと静まり返るパーティー会場。

 重たい空気。


 そんな中、俺と穂咲はお互いに見つめ合って。




 …………そして、大声で笑った。




「あははは! やれやれ、とんだ賢者の贈り物だ!」

「ほんとなの。……あれ? みんなはどうして面白くないの?」


 穂咲の疑問に、みんなは困った顔で返事も出来ない様子。


「だって……、プレゼント、無くなっちゃったんでしょ? なんでおかしいの?」

「神尾さん、何言ってるの?」

「そうなの。こうすればいいの」


 穂咲の頭に揺れる花、ムラサキシキブ。

 その花言葉は、『賢さ』。


 俺たちは、自分のマフラーを外してお互いの首に巻き合った。


 その瞬間。

 店内はいつもの教室と同じ雰囲気に包まれて。


 優しさと楽しさで満ちた、みんなからの温かい拍手が鳴り響いた。



 そんなマフラーからは、優しい穂咲の香りがした。




 おしまい♪




 ……

 …………

 ………………


「編み物、面白いの。もっとやるの」


 俺の前にケーキが置かれた瞬間、当たり前のようにイチゴを横取りした穂咲に驚きの目が集まる。


「へえ。今更だけど、部活入ってみる?」


 それを気にすることなく、当たり前のようにケーキへフォークを入れる俺に、驚きの目がそのままスライドする。


「それ! 採用! でも、他の部活も見てみたいの」

「見るだけなら付き合ってやるよ」

「なに言ってるの? 道久君も入りたいとこじゃないといけないの」

「…………君こそ何言ってるの?」

「一緒に入るの」

「ほんと! なに言ってるの!?」



 次回、23日(月)より、

「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 5冊目♪

 スタートです!


 もう十月だというのに今更部活探し。

 と言いますか、俺もなの!?



 泣くな道久! お楽しみに!


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「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 4冊目!!!! 如月 仁成 @hitomi_aki

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