カイジュウ・ハザード ――災厄ヲ齎セシ者達――

ミレニあん

プロローグ

 ――こいつは、いてはならないんだ。



 月に照らされた闇の空。その空に抱かれるように、一つの都市が広がっていた。

 あらゆる建物が入り組んでおり、まさに『人工的な迷路』と言わんばかりの様相を呈している。人間が数十年掛けて築き上げた居場所であり、大規模な人間の住処とも言える。


 その都市が、無残にも崩壊されている。ビルは何かに押し倒された様に崩れており、亀裂の間から紙やデスクがしきりに落ちている。自動車や自転車も瓦礫によって潰されており、車からは引火でもしたのか火の手が上がっていた。

 道路もまた例外ではない。亀裂が蜘蛛の巣のような有様を思わせ、問題なく歩ける場所などほとんどない。


 破滅の光景と言うべき光景。それ故かいるはずの人間など、を除けばいない。



 ――こいつは、あってならないんだ。



 破滅の時を迎えたこの都市だが、音が聞こえてくる。


 それは激しく、暴れていると形容してもいい轟音だった。発生源は都市の真ん中――そこにある巨大な建物の中で、巨大な影が蠢いている。

 その姿はまさしく獣その物。ビルよりも高く、異形を成しているそれらが、爪や牙などを使って相手に傷を与えている。

 殺し合っているのだ。傷口から血ではなくエネルギーのような何かを噴出させながら、相手を滅ぼそうとしている。互いにあるのは、相手を認めないという殺意だけ。


 ――ギャアアアアアアアアア!!


 一体の影が、相手によって吹っ飛ばされる。

 背後にあったビルへと激突し、散乱する瓦礫。舞い上がる粉塵が影を埋め尽くすのだが、それがすぐに眼光伴う瞳を動かしていく。


 瞳が見据える先は、攻撃の手を加えた相手――ではない。その奥に見える、矮小わいしょうな生物。


「お前には悪いと思っている……」


 人間で、少年だった。その少年の瞳もまた、睨んできた巨大な影を見つめている。




「それでも、これが僕の出した答えだ」


 殺意を具現化させた、冷たい眼差しをしたまま……。

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