第十二話 冒険の始まり

「ん……戻ってきたのか?」


そこは、マコトが王城で最初に目を覚ました場所だった。

どうやらベッドに寝かされているようだ、服装もあの時と同じだ。


「お、クロエ……」


そしてそこには、ベッドに寄りかかった状態で寝ているクロエの姿があった。

仕事終わりなのか、クロエの服装は騎士の正装のままである。


「心配……してくれてたのかな……」


『そりゃあ、そうだろう、三日も寝ていたんだから』


「うぉい!?」


『ん? どうしたんだい?』


それはユピテルの声だった。


「な、なんでお前の声が聞こえるんだよ!?」


『なんでって、ちゃんと説明しただろ? 僕が憑・いてるって』


「いやついてるって、とり憑いてるって意味かよ!!」


『だってそうしないと加護の力使えないでしょ?』


「いやでも、なんか自分の体の中に別の誰かがいるって、こうなんか、気持ち悪いっていうか……」


『ふぅーん、別に僕はいいんだけどね、でも、僕が離れると僕の力を使わずに他の神を全員見つけ出すことになるけどそれでもいいの?』


「気持ち悪いとか言ってすいませんでした、一生とり憑いててくださいお願いします」


流石に下位魔法しか使えない無能が魔族の領土に乗り込むのは危険すぎる。


『そうか、じゃあこれからも僕の駒として頑張ってくれ』


(この神様嫌いだこんちくしょう)


『ん? 何かいったかい?』


「何も言ってないですすいません!!」


マコトがユピテルと仲良く会話していると、クロエが目を覚ました。


「……マコト?」


「お、すまん、起こしちゃったか?」


『あーあ、疲れているだろうに……』


(このチビィ……)


すると、マコトの左手・・に、何か冷たいものがこぼれ落ちた。


「……クロエ?」


クロエが、俯きながら泣いていた。


「うぅ……ぐすんっ……よかっ…たぁ……」


「お、おいおい、どうしたんだよ急に」


「だってぇ……」


クロエの話によると、魔族達が帰った後、マコトは倒れてしまったらしい、何でも、体に適性のない属性の魔力が流されていたらしい、魔力とはそれぞれ属性を持っており、適性のない属性の魔力を流してしまうと体に異常が起こり、最悪、二日か三日で死に至るという、例えるならば、血液型がO型の人にB型の血液を輸血するのと同じ感じだ。


(おい、チビ、お前そんなことしてたのかよ)


『………』


(無視してんじゃねーよ!!)


ユピテルが使った転移魔法は無属性で、聞いた感じだと無属性なんだから害ないんじゃないの? と思うかもしれないが、無属性はむしろ一番強力で、適正のない者が使おうとするとやばいことになるらしい。

因みに、マコトの属性である光と適正があるのは雷と風属性だけらしい。


『まぁまぁ、結果的に生きてるんだからいいじゃないか』


(あのなぁー、そういう問題じゃなくて……)


「マコト? もしかして……まだ具合が悪いの?」


マコトが一人で百面相しているのをみて、また具合が悪くなったのかと心配になったようだ。


「あ、あぁ、いや大丈夫だ」


「そう……ならよかった……」


マコトと話しているうちに落ち着いてきたのか、クロエはもう泣き止んでいた。


「それにしても、どうして左腕が治ってるの? こんな最上級の魔法、加護の力無しじゃ使えないと思うんだけど……」


そう、マコトの左腕はすっかり再生していた。


「それに……その文様は……」


「ん? 文様?」


「左腕の肩辺りに、とりの文様が付いているの」


「左肩辺り……」


早速袖をまくってみてみた。


(確かになんかあるけど見にくいな)


「はい、これで見てみて」


そういってクロエはマコトに手鏡のようなものを手渡した。


(へぇー、この世界にもこういうのはあるんだな……)


『うん、僕が主神だった時に、君と同じ世界から呼んだ者が何人かいてね、色々な文化を伝えてもらっているんだよ、君の世界には興味深いものがたくさんあるからね』


(へー、刀があったのもそういうわけか……)


ユピテルと念話しながら、クロエに言われた辺りを見てみると、確かにそこには文様が描かれていた。


「鷲……か?」


マコトの左肩辺り、三角筋というのだろうか、そこには確かに鷲の文様が描かれていた。


「どうしたのマコト? 急におじいちゃんみたいな喋り方して」


「ちげーよ!! 儂じゃなくて鷲! この文様のモデルの名前だよ!!」


「へぇー、その鳥みたいなのわしっていう名前なのね」


(やっぱり、この世界には鷲っていう生き物は存在しないのか……)


「実は、私も同じようなのがあるの、その鳥の名前が分かったならわかるかも」


「え?」


そう言ってクロエは、スカートを少しだけたくし上げ、太ももの辺りを見せた。


「うわっ、ちょっ……」


クロエの太ももは、透き通るような真っ白な肌で、男性相手ではとてつもない破壊力を持っている。


「お……おぉ……」


「は、恥ずかしいから……あまりジロジロ見ないでほしいんだけど……ってそうじゃなくて! 文様の方を見てよ!」」


やはり男に自分の肌を見られるのは恥ずかしいものなのか、クロエの顔は赤くなっている。


「あ、あぁすまんすまん、えっと……多分それは梟だな…」


「ふくろう? やっぱり私は知らない名前ね……」


文様に描かれているのが何かわかったクロエは、スカートから手を放した。

綺麗な太ももとはお別れだ。


(なぁチビ、この文様の意味ってなんだ?)


『さぁね、これは僕にもわからない……ただ、予想するとすれば、僕が探している神が宿っている者にだけあるのだろうね、偽の魔族の男と戦っているとき、この子からは神のちからが感じられたし、僕が君の体に移った瞬間に、その文様が浮かび上がったようだしね』


(ほー、そういうことなのか……)


「ねぇマコト、なんでマコトはこの鳥の名前が分かったの? 勉強の為に色々な本を読んだけど、こんな鳥一度も見たことないわよ?」


それもそうだろう、梟も鷲も、この世界の生き物ではないのだから。


(まぁー別に隠す必要もないし、異世界人ってこと伝えるか)


「あー、実はな………」


そう言ってマコトは、自分が異世界から来たものだということを伝えた。

クロエも最初は驚いて、中々信じてくれようとはしなかったが、自分のステータスを見せてようやく納得してくれた。


「……まさか、異世界なんてものが本当にあったなんてね……」


「まぁそう思うのも当然だろうな、俺も最初は漫画か小説の中の話だと思ってたよ」


「でも、なんでマコトがこの世界に呼ばれたりしたんだろう……」


「さぁな」


マコトは、てっきりユピテルがこの世界に呼んだのかと思っていたが、「僕じゃないよ、君みたいなそこら中にいるような普通の少年を呼ぶためにわざわざ主神の力を使うわけないじゃないか」と、言われたので、ユピテルではないようだ、異世界から召喚するには、主神の力が必要らしい、つまり、マコトをこの世界に召喚したのは現主神のケイオスということになるのだが……


『ケイオスは面白いことが大好きなようだからね、きっと、異世界から争いとは無関係な人を呼んできて、何をするのか見ているんだろう』


(ったく、むかつく野郎だぜ、そのケイオスって神様はよぉ)


『そうだマコト君、そろそろあれを伝えた方がいいんじゃないか?』


あれというのは、恐らくケイオスがこの世界を混乱に陥れようとしていることだろう。


(まぁそれもそうだな)


「……なぁクロエ、ちょっといいか?」


「……なに?」


マコトがいつになく真面目な顔をしているので、きっと大事な事だと察したのか、クロエも真剣な表情になっている。


「今からはなす内容は、いくつかショッキングな内容とか滅茶苦茶規模のでかい話になるけどいいか?」


「うん……」


「よし、じゃあ話すぞ、まず……」


そしてマコトは、ユピテルから聞いたことをすべて話した。

ケイオスという輩が戦争を起こそうとしていること、今まで人間族を襲ってきた魔族達は、全てケイオスが作り出した駒で、人間族に魔族達が戦争を起こそうとしていると思い込ませようとしていること、そしてクロエの体の中に、神が封印されていることも。

マコトが話している間、驚いた表情や悲しんだ表情などは見せていたものの、クロエはずっと沈黙を貫いていた。

マコトが話し終えると、今まで閉ざされていたクロエの口が開いた。


「……じゃあ、お母様を殺したのも、この前王都に攻め込んできたのも、全部本物の魔族じゃなかったってこと?」


「……ああ、本物の魔族達は、今まで一切、本物の人間族を襲ってなんかいないようだ」


「そうだったんだ……」


「ただ、攻め込んできた偽物の人間族達は全員殺されるか拘束されるかしているようだから、人間族のことを憎んでいる者もいるようだけどな、今まで大規模な都市に攻め込んでこなかったのは、攻め込んできた人間族たちがみな少数で、まだ人間族のことを信じている奴らがいたからだろうな、でも、こっちに魔族の大群が攻めてきたってことは、向こうにも人間族の大群を送るつもりだろう、もしかしたら、すでに送られた後で、着々と戦争の準備を進めているかもしれないけどな」


「そんな……戦争なんて……」


お互いに、本当の相手の姿を知らないまま、戦争をすることになってしまうだろう。

本来ならば、獣人族やエルフ族のように、お互いのことを分かり合って一緒に暮らしていくことができたかもしれないのに。


「だから……俺は魔族のところに行ってみようと思う…」


「え?」


「いくら俺らのことを憎んでいる者がいようが、ちゃんと話あえば分かってくれるかもしれない、だから、俺は魔族たちの所に行って、ちゃんと話をしてくるつもりだ」


本当はみんな優しい奴らかもしれないのだ、そんな奴らと戦わなくちゃいけないなんて、絶対に嫌だ。


「で、でも、殺されちゃうかもしれないんだよ? だって……私だったら、魔族を見かけただけで……」


クロエは、今まで母親を殺したのは魔族だと思っていた。

大切な家族を殺した奴の仲間を見かければ、怒りが沸き上がるのも仕方のないことだ。


「それでもだ、だってクロエも嫌だろ? ほんとはいい奴なのに、悪いことをしたやつとちょっと似てるからって距離を取る、そして挙句の果てには暴力まで振るう、それじゃ、まるでいじめといっしょだ」


異世界にくる前、マコトの幼馴染はそのせいで自ら命をたった。

だから、規模は違えど、同じような状況にある人間族と魔族を、どうしても救いたい。


「だから、面とむかってちゃんと話をつけてくる、無能な俺が唯一出来ることだ」


もう二度と、あんな思いはしたくない。


「……なんだか、そうやってかっこいいこと言ってるマコトを見てると、胸がぎゅっと締め付けられる気がする……この前私を助けようとしてくれた時も、なんだか異様に懐かしい気がして……」


「……懐かしい? 一応俺がクロエとあったのはつい最近の話のはずだけど?」


「そ、そうだよね、何言ってるんだろう私……それよりも、マコト」


「なんだ?」


「確か、残りの神様たちは十三柱だったんだよね?」


「ああ、なんでも実際にその力を使っているところを見ないと分からないらしい」


「じゃあ、長い旅になるのよね?」


「あー、まぁそうだろうな、ユピテルも今は封印から解かれたばっかりで、加護の力もフルに使えないらしいし……あー、旅の途中で傭兵とか雇わねーとなー……」


すると、クロエがほほ笑んだ、そして……


「その傭兵のお勤め、私がやってあげようか」


「………え?」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「なぁクロエ、ほんとに一緒に行くのか?」


マコト達は今、冒険の準備をするため、城下町へと来ている。

王様に頼めば早いのだろうが、この間の事で忙しそうなので、二人で準備を進めている。


「なんども言ってるでしょ? 私は本気だって」


この間の襲撃により、王都のいたるところが破壊されており、ほとんどの店は休業中である。


「いやぁーでもさー、クロエだって騎士隊長の仕事があるだろ?」


「そこは大丈夫だって、お仕事はルドルフに丸投げしちゃえばいいし、皆も大丈夫だって言ってくれたんだから」


「でも、また王都にあいつらが攻めこんできたときはどうすんだよ」


「それも大丈夫だって言ってるでしょ? ユピテルに神様の封印を解いてもらったから審判の加護の力もパワーアップしたんだし」


実は、クロエの中に封印されていた戦神の加護の持ち主、ミネルヴァというらしいが、その神様の封印を解くついでに審判の加護の持ち主の封印も解いてもらったらしい、封印を解かれた神様は元の力を取り戻し、加護の力もパワーアップするんだとか。

それに、王様が持っているもう一つの加護、『守護神の加護』もパワーアップしているため、そう外からは簡単に入ってこれない。

因みに、ケイオスやユピテル達の話は王様にしか話していない、民達にいきなりあんなことを言ったら混乱するに決まっているからだ。


「はぁー」


マコトは深いため息をついた。


(女の子と二人っきりで冒険か……ぶっちゃけ憧れてはいたけど、できれば守られる側じゃなくて守る側がよかったなー)


『まぁまぁ、いいじゃないか、この子は色々な女性を見てきた僕の中でもかなり上位に入る子だよ、そんな子とふたりっきりで冒険ができるなんてそうそうあることじゃないよ』


(そうだけどさぁー……っていうか、お前の加護の力がいけないんだろうが!! なんで反動で長時間動けなくなっちゃうんだよ!)


『それは僕じゃなくて君のせいだよ、君がもう少し強ければ僕の力にも耐えれたのに』


(うぅ……)


因みに、マコトが授かった全能の加護の力はこうだ。



===================

全能の加護


対象の呪文を唱えることにより、一定時間神の力を使用することが可能となる、なお、効果時間が終了すると、長時間反動により動くことができなくなる。

効果時間、および反動により動けなくなる時間は、自身のLvに関係する


===================


『もともと無能だった君には十分な力だと思うんだけどね? 左腕も治してあげたし、光属性の魔力を常に供給してあげてるんだから』


(いや確かに左腕に関しては感謝してるぞ? でもMP無限になったところで俺普段下位魔法しか使えないからな?)


そう、皆さんお忘れかもしれないが、マコトは『下位魔法を極めし者』なのだ、これといって使い道のない下位魔法だけをを極めちゃったものなのだ。


(なんでこうなるんだか……)


「ふふっ」


「なんだよクロエ」


「いやだって、ユピテルと話してるってのは分かるんだけど、周りから見ると一人で百面相してて面白いんだもん」


「なっ……」


(そうか、周りから見るとそうなるのか……これから気を付けないと……)


マコトがユピテルと話すときは顔に表情を出さないようにしようと決意したところで、視界の端に、なにやら気になるものがうつった。


「ん? 前世占い? なんだそりゃ」


占い大好きなマコトは、その看板を掲げている小さなお店に近寄って行った。


「あぁ、ここね、私も一度だけこっそり入ってみたことがあるの、私の前世は、なんだか変わった名前の人だったけど、良く当たるって評判のお店よ」


「へぇー、なぁクロエちょっとよってみていいか?」


「ええ、いいわよ、馬車の手配とかは私がしに行くから、終わったらここでまってて、すぐ戻るから」


「おう、わるいな」


クロエを見送ったマコトは、さっそくお店の中へと入っていった。

お店の中は、いかにもって感じのする雰囲気だった。

椅子が一個置いてあり、その奥に顔の見えない女の人が座っていた。


「いらっしゃい」


「あ、どうも、あのー、お店の前に前世占いって書いてあったんですけど、あれってどういうことですか?」


「書いてある通りでございます、お客様の前世を調べて、あなたがどんな才能に恵まれているかを教えて差し上げます」


(なぁ、ユピテル、こいつの言ってることって本当か?)


『うん、どうやら本当に前世をみる力があるようだ、せっかくだからみてもらうといいよ』


「じゃ、じゃあお願いしてもらってもいいですか?」


「はい、それでは椅子にすわってください……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



『まぁそう落ち込まないで、元気出しなよ』


(いや、だってよー、占い師さんにまで今のあなたは、戦闘には一切向いていないでしょうって言われちゃったんだぞ? 戦えなきゃ生きていけないような生活を今から送ろうとしてるのにこれかよ……ってか、前世を見れるとかいっておきながら、分かったの名前と性格と才能ぐらいじゃねーか)


『うーん、才能が聞けたんなら十分だと思うけど』


(いやだってよー、白魔導士以外の才能で、おぉこれすげぇってのなかったじゃねえか)


因みに、マコトの前世はアウラシャルトという名前で、真面目で、平和を愛する者だったんだとか、才能のほうは、相手を故意にイラつかせる才能とか、囮の才能とかだった。


(なに囮の才能って、俺に死ねって言ってるの?)


『まぁまぁ、いざというときは加護の力を使えばいいだろ?』


「……はぁー」


(でも、前世ってのは本当にあるんだな)


『そりゃあそうさ、死んで体を失った魂は、世界を超えて生まれ変わる……もしかしたら、君のお母さんの生まれ変わった姿にもあえるかもよ?』


(あったところで、どうせ俺の事なんか覚えてねえだろ、逆に、悲しくなるだけだ……)


こちらは覚えているのに、相手には忘れられてしまっている、それはかなりつらいことだろう、相手のことが好きならばなおさらだ。


『いや、でも、極稀に前世の記憶が戻る者もいるようだよ?』


(極稀にだろ? あー、もういい、この話終わり!)


そうやってマコトが話を強引に終わらせると、クロエが帰ってきた。


「どうだった? 前世占い」


「微妙だった……」


「そ、そう……あ、ほら、馬車の手配は済んだから、城に戻りましょ」


「おう……」


マコトは、占いの内容にかなりショックを受けているようで、いつもの元気はなくなっている。

王城に戻り、食料などの調達も済んだマコトとクロエは、翌日、民達にばれないよう、こっそりと王都を抜け出した。


十三柱の神を見つけ出す冒険が今、始まった。

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