第五話 王様の人柄

「えーっと、それは俺がある程度回復するまでの話? それとも、半永久的にここに住んでいいっていう話?」


マコトは今、クロエの発言に対して質問をしている。


「もちろん、半永久的によ」


「え!? だって俺たちまだ会って数十分だよ!?」


「まぁ、確かにそうだけど、たぶん帰る場所も覚えてないんでしょ? おまけにお金も1Gゴールドももってない、そんな人を放っておいたら心配で心配でご飯も喉を通らないわよ」


(あ、この世界の通貨ってGなんだ)


「それになんとなくだけど、マコトをここに住まわせた方がいい気がするのよ」


「いやなんとなくって」


「別に適当なことを言ってるわけじゃないのよ? 私は、『審判の加護』っていう力をもってて、いつでも自然と、物事の結果がいい方向に進むように選択ができるの」


「審判の加護?」


「えぇ、この世界では、Lvが存在するわよね? そのLvの上限は1000まであって、Lvが100上がるごとに神からの祝福として、神の御加護を授かることができるの」


「えっ! Lvの上限って1000まであるの!?」


「とは言っても、実際にLvが1000まで行った人はまだいないけどね、全ての種族の中でLvが一番高かった人でも、Lv246が限界だったみたい」


「ん? 全ての種族ってことは、人間以外にも種族がいるのか?」


「もう! そんなにどんどん質問されると話が進まないじゃない!」


「……ごめんなさい」


調子にのってつい質問攻めにしてしまった。


「話を戻すわよ? それで、その審判の加護の力のおかげで、マコトが悪い人じゃないっていうのもわかったし、ここに住まわせた方がいいっていうこともわかったの、まぁ、マコトを助けた理由のほとんどは、ただの善意からなんだけどね」


ニコッとするクロエの笑顔が、とても眩しい。


「……優しいんだな、クロエは」


そういうマコトの瞳は、どことなく暖かかった。

マコトが突然見せた優しい表情に、クロエは軽く赤面している。


(あれ? 俺なんか変なこと言ったかな?)


どうやらマコトには、自然と女性を口説く才能があるようだ。


「べ、べつに人助けをするのは、あ、当たり前のことでしょ? そうだ、お父様のところに挨拶に行くんだった! ほら、マコトも早く着替えて!」


「え、俺も行くの?」


「当たり前じゃない、今日からここにの城に住むんだから、城の持ち主に挨拶もしないなんて失礼よ」


「ん? 城? そういえばここどこだっけ、っていうかクロエ、さっき姫って呼ばれてたよな?」


「あら? 言ってなかった? ここは王都イグニス、そして今私たちがいるのが王城で、今から行くのは私のお父様のところ、まぁ人間族を統べる王様のとこね」


なぜだろう、今、クロエがさらっとすごいことを言った気がする。


「な、なんて?」


「だぁーかぁらー、ここは王城で、今から王様のところに挨拶に行くの! っで、私はその娘、お姫様ってこと」


クロエは得意げに胸を張っている。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


そんなマコトの叫び声が、王城内に響き渡った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


マコトとクロエは、案内役の騎士に連れられて、王城の無駄に広い廊下を歩いている。



「なぁクロエ、この服すっげぇ動きづらいんだけど」


マコトは今、貴族の人が着るようなとっても動きづらい服装をしている、ちなみに、無くなった左腕の方の袖は、プランプランしている。


「仕方ないでしょ? その服しかなかったんだから、マコトが着てた服は破れちゃってて使い物にならなくなっちゃたんだから、いくら私のお父様だからって、ボロボロの服着せていったら部下たちに怒られちゃう」


「ん? 部下ってどういうこと?」


「あら、言ってなかった? 私これでも騎士隊長なのよ?」


「……」


「あれ、もっと驚くと思ってたのに、どうしたの?」


「いや、驚きの連続過ぎて驚くことに耐性ができたみたい」


「なーんだ、残念」


「っていうかさ、なんでお姫様が騎士隊長やってるわけ?」


「まぁその辺りは後々説明するわね、ほらもうすぐお父様のところよ」


すると、これまた無駄にでっかい扉があった。

扉の前には門番がいる。


「なんか、急に緊張してきたな」


「まぁ大丈夫よ、お父様はいい人だから」


案内役の騎士と門番が情報交換を終えると、案内役の騎士が扉の方に向かって二人を連れてきたことを伝えた。


「陛下! お二人をお連れしました!」


すると扉の奥から声が聞こえてきた。


「うむ、通せ」


それは、とても威厳に満ちた声だった。


「いくわよ、マコト」


「お、おう」


巨大な扉がゆっくりと開いていく。

そして……


「おお、其方がマコトか」


王座の間は、とても広く、両サイドの壁際には、護衛係の騎士がずらーっと並んでいた。

その奥の王座らしきものに座っている男は、クロエと同じ白髪に、青玉色の瞳を持っていた。

男から発せられている覇気は、一目で王だとわかるものだった。


「は、はい、俺が……じゃなくてっ、私がミカナギ・マコトと申します」


緊張のあまり、言葉がぐっちゃぐちゃになっている。

マコトの失言により、あたりが微妙ーな空気になってしまった。

それを最初に打ち壊したのは……


「がっはっはっは! そんなに緊張せんでもいいわい、変にかしこまった態度をされるよりも、普段通りの話し方で話された方が、お互いに気が楽で済む」


「……へ?」


「王とはいっても、所詮皆と同じ人間だ、たまたま生まれてきたところが違っただけのこと、人間皆平等にいこうではないか」


王は、最初王座の間に入ってきたときの覇気とは比べ物にならないほど穏やかな表情をしている。


「…ね、言ったでしょ? お父様はいい人だって」


「……た、確かにいい人そうだな……俺的には、もっとこう、少しの失言でも許されないような空気で会話しないといけないと思ってたんだけど……」


「お父様はあまり張り詰めた空気は好きじゃないから、むしろこの国ではお父様が一番明るいといっても過言ではないくらいなんだから」


「うーん……それはそれで問題な気がするんだけど」


王があまりに頼りないと、民達は王に対して不信感を抱いてしまう。


「まぁ、お父様だってけじめくらいはつけれるわよ? 悪いことをした人にはちゃんと罰を与えるし、民の言葉も全部聞き入れてるんだから」


「まぁー、それならいいのかな?」


政治のことはよくわからないので、適当に終わらせた。

すると王が


「なんだクロエ、ものの数時間の間にずいぶんと仲良くなったんだなぁ、パパは娘に友達ができてうれしいぞぉ」


「っちょ、お父様! 今は、マコトの前ですよ! せめてもう少しくらい威厳を……」


「なんだクロエ、いつもみたいにパパって呼んではくれぬのか」


「お、お父様!! それは恥ずかしいから言わないでって言ったじゃないの!!」


クロエは顔を真っ赤にしながらパパを叱っている。


「マコトっ! 今のは違うからね!! 別に私はお父様大好きっ娘じゃないからね!!」


「そんな! ちょっと前あんなに笑顔でプレゼントを買ってきてくれたのに……」


「お父様は黙ってて!!」


クロエの意外な素顔が見れたところで、マコトはこれでいいのか王様! と心の中で突っ込みを入れる。


「ぐすんっ、もうあの頃の純粋なクロエはいないのか……」


「お父様!!」


(……ははは……けじめ、ねぇ~……)


これから始まる王城での異世界生活、王様にはあまり気を遣わなくてよさそうだ。



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