第六話 男と男の約束
「おお、そういえばまだ自己紹介をしていなかったな」
一通りクロエと話し終えた王は、ようやく本題に入った。
「私の名は、アレクサンドル・イグナートヴィチ・カランジナ、ご存知の通り、この国の王だ」
「えっと、俺は……」
「あー、別に言わんでもよい、さっき聞いたからな」
「そ、そうですか」
「それにしてもお主……いや、この話はあとでじっくり話すとしよう」
(後でじっくり? 一国の王にそんな時間があるのだろうか)
するとクロエはマコトの意思をくみ取ったのか、王様について説明してくれた。
「この国では、日ごろお世話になっている王に少しでも楽をさせてあげたい、っていうことで月に一回程度、王の代わりに信頼できる人たちが職務を行っているの、でっ、今日はたまたまその休日の日ってこと、今回の会談は、私がマコトのことについて話した後でお父様がマコトに会ってみたいって言ったから、急遽行われたの」
「へぇー、王様はずいぶんと慕われているんだな」
「当たり前よ、だってお父様だもん」
クロエは自らお父様大好きっ娘なのを暴露してしまっているのに、全く気づいていないようだ。
(なんつーか、羨ましいなぁー、こういうの)
マコトはどこか暗い表情をしていた。
その表情をみたクロエは、マコトのことを心配してくれた。
「どうしたの? 体調が悪いなら白魔導士を呼んでくるけど」
「いや、大丈夫だ、っていうか俺も一応白魔導士なんだけど」
ステータスの話をしたときに、マコトは自分の才能が白魔導士だということを伝えてある。
「だってマコト、魔法の才能ないんでしょ?」
「うっ、痛いとこついてくるな」
「てへぺろっ」
クロエは、頭をコツンとして舌をペロッと出している。
(まさか、一瞬で男を虜にする究極の魔法がこっちにも存在していたとは……)
「クロエ、それはあまり不用意に他人に見せてはいけないぞ、勘違いをした男が襲ってくるかもしれないからな」
「な、なによマコト、急にそんな真剣な顔して……それに、もし襲われたとしても、私一人で返り討ちにしてやるんだから」
「ちょ、ちょっとクロエ? それは女の子が言うことじゃないと思うよ?」
「あらごめんなさい、つい」
「つい、って……」
「のぉお主達、私がいることを忘れてないかの?」
一人仲間外れにされていた王様は、すっかり拗ねてしまっている。
(どんだけピュアなんだこの王様……)
「むっ、お主、今わしの事をどんだけピュアなんだと思ったじゃろ」
「っげ」
「ふふ、やはりな」
王様は、やっと会話に混ざれたことにとてもうれしそうだ。
「で、でもなんで?」
「それについては私から説明するわ、お父様は『心眼の加護』っていう力を授かっていて、相手の心やステータスをよむことができるの」
「へぇー、加護ってのは色々と種類があるんだなぁ」
この世界の仕組みには感心しきりっぱなしだ。
「ふふふ、どうだすごいだろう」
王様はマコトを驚かすことができてとても満足している。
「まぁ、わしの力のことはさておき、どうじゃ少しは気が楽になったか?」
先ほどまでの会話は、マコトの緊張をほぐすための王の計らいだったのだ……たぶん。
「……はい、最初は大分緊張してたんですけど、今は大丈夫です」
「ふむ、それならよかった……それで、お主がこの城に住むという話じゃが、お主自身はどう思っておるのだ?」
「えっと……」
ちらっとクロエぼ方を見ると、少し不安げな表情をしていた。
「……俺は、まだこの世界のことをよく知りません、魔法の使い方もわからないし、お金も1Gも持っていません、そんな俺を、無償でここに住まわせてくれるというのなら、そんなの断る理由がありません」
こんなに面白い人が王様なのだ、クロエもいるし、きっとここに住めば毎日が楽しく過ごせるはずだろう、マコトはそう思っていた。
しかし……
「む? なにを言っておるのだ? だれもお主を無償で住まわすなんて言っておらぬぞ?」
「……へ?」
「ここに住む以上、お主には雑用係として働いてもらう」
「……え? ……ええええええええ!?」
「ふふ、よろしくね、マコト」
クロエは、とても爽やかな笑顔でそう言った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アレクサンドル王との会談を終えたマコトは、案内役の騎士に連れられて、王の部屋へと向かっている。
(さっきの会談で言ってたことかな?)
マコトは、先ほどの会談で、王に後でじっくり話そうといわれていたのだ。
「つきました、ここが陛下のお部屋です」
「わざわざありがとうございました」
マコトは騎士にお礼をいって、扉をノックした、すると中から「入っていいぞ」と聞こえてきたので、部屋の中へ入っていった。
「おぉきたか、ほれ、そこへ座るがいい」
部屋に入ってすぐにアレクサンドルに出迎えられ、椅子に座った。
部屋の中は綺麗に整えられていて、土足で入るのが申し訳なくなるくらいだった。
「わしはこう見えてもきれい好きでな、自分の部屋はいつも自分で掃除しておるのじゃよ」
「え! 自分で掃除しているんですか!?」
「何を言っておる、自分の部屋を自分で掃除するのは当たり前だろう?」
「ま、まぁそうですけど……」
ちなみにマコトは、自分の部屋はいつもおばあちゃんに掃除してもらっていた。
「俺はてっきり、召使いとかに任せているのかと」
「……まぁ、王といえば、その国で一番偉いもののことをいう、普通に考えれば身の回りのことは全て召使いに頼んで済ませてしまうのだろう、だがのぉ、王とはいっても所詮皆と同じ人間、生まれた環境が少し違っていただけのこと……だからわしは、出来ることなら身分というものをこの世からなくしたい……でも、生き物には必ず、リーダーとなるものが必要になる、指揮をとるものがいなければ、その生物は自分が何をしたらいいのかわからず、いずれ滅んでしまうだろう……だからこそ、王という存在はなくてはならないものなのだ、皆の苦しみを代わりに受けてやることはできない、でも、その苦しみを少しでも和らげる力が王にはある、だから、わしが自分の力でできることは全て、自分でやるようにしているんだよ」
(……王様も、色々と考えてるんだな、王様が好かれる理由が分かった気がするな)
「おっと、すまんな、年をとってくるとどうしても話が長くなってしまう」
「いえいえ、王様がみんなのことを愛しているのがよくわかりました」
「そうか、それならよかった」
アレクサンドルは、とても優しい表情をしていた。
「そうじゃ、本題に入るとしようか」
先ほどまでの優しい表情とはうってかわり、今度はとても真剣な表情をしていた。
「……はい」
「単刀直入に言おう、君は……この世界の人間ではないのだろう?」
「っ!? どうして!?」
「さっき言っておっただろう、わしには、心眼の加護という力が備わっているということを」
「そ、そういえば……」
クロエから説明を受けたとき、確かにステータスも見ることができるといっていた。
「お主のステータスには、『異世界人』というものが書いてある、少し信じがたいことではあるが、ステータスに書かれている以上本当のことなのだろう、君が悪人でないことはわかっている、それに記憶喪失でないことも、だが、少し確認しておきたくてな、君は一体……何者なのだ? どうしてこの世界に来た?」
どうやら、全ておみとおしらしい。
「……それは……俺にもわからないんです、どうしてこの世界に召喚されたのか、どうして俺たちなのか……」
「そうか、自分の意思でこちらに来たわけではないのだな……それにしても、俺たち、とはどういうことかね? 君以外にも、この世界に来た者たちがいるのか?」
アレクサンドルはマコトの発言におかしなところがあったのを気にしているようだ。
「……はい、でも、もう……」
先生や優助は、あの日、あの魔獣に殺された。
そしてマコトは、優助を見殺しにして、あの魔獣から逃げ出してしまった。
マコトは、あの日のことをアレクサンドルに話した。
「……そうか、クロエが言っていた死者達は、君の知り合いだったのか……すまない、助けてやることができなくて……」
アレクサンドルはマコトに向かって頭を下げた。
「そ、そんな! 王様が悪いんじゃないですよ! 顔を上げてください!」
「いや、あの森は王都から近く、魔獣なんて一匹も済んでいないような場所だったのだ、だから、警備を薄めにしてしまっていたのだ、私が油断をしていたせいで、君の知り合いたちは死に、君の左腕もなくなってしまった……本当に、申し訳なく思っている」
いつのまにか、マコトの呼び方もお主から君になっていた。
「……王様、俺は全然気にしていませんよ……いや、まぁぶっちゃけ気にしてますけど、大丈夫ですよ」
マコトがしゃべっている間も、アレクサンドルは頭を下げ続けている。
「確かに、優助が死んだのも、左腕が無くなったのも、かなりショックを受けました、でも、俺は大丈夫です、いつまでも後ろを向いていたって、何も始まりませんから、過去に起こってしまったことはもうどうしようにもなりません、でも、過去にあったつらいことを乗り越えて前を向いて歩けば、いつかはいい結果が待ってる、俺はそう信じてますから」
その言葉には、母からの最期のメッセージが強く影響している。
すると、アレクサンドルが頭をゆっくりと上げた。
「……君は、強いんだな」
「まぁ、過去に一回挫折しかけましたけどね」
「……私を、許してくれるのかい?」
「許すも何も、元から怒ってませんよ」
「……ありがとう」
アレクサンドルの顔は、またあの優しい表情に戻っていた。
「クロエ、はいい友達をもったな」
「いえいえ、そんないい友達なんて……」
マコトは王様に褒められて照れまくっている。
すると
「マコトくん」
アレクサンドルの表情が、またまた真剣なものになっている。
「は、はい、なんでしょうか」
「……実は、クロエは小さいころに、母親をなくしてしまっていてな」
「っ!? それって……」
クロエの母親、それはつまり、王の妻、王妃ということだ。
「ああ、私の元妻だ」
「元?」
「……私の子供たちはまだ若い、だから、私に万が一何かあったときのために、王妃という存在が必要になってくるのだよ、だから、私はまた別の者を妻とした、クロエもそれをわかってくれているのだが、やはり赤の他人を母として迎えるのは難しいようでな……」
「それで、俺にクロエと王妃の溝を埋めてほしいっていうことですか?」
「いや、そうではない……私の元妻…セレーナは、私と結婚する前は、今のクロエと同じ騎士隊長だった、セレーナは美しく、とても強かった、そして、誰よりも平和を望んでいた、王都から離れた村などの魔族共による被害を聞きつければ、真っ先に飛んで行った、でも、セレーナは、村の者を守ろうとして、魔族から『治らない傷』を受けてしまった、傷を受けたセレーナの体は、瞬く間に衰退していった、そしてクロエは、セレーナの死に際に、ある約束をした、必ず、この世界を平和にすると、それ以来、クロエは自分を鍛錬することだけに集中した……セレーナとの約束を守るために……」
「クロエに、そんな過去が……」
「クロエは今、色々なものを一人で抱え込んでいる、だから、君にクロエを救ってほしい、クロエが悩みをぶつけられる友になってほしい」
「……わかりました」
「引き受けてくれるのか?」
「そんなの、当たり前じゃないですか、だって俺は、この城の雑用係ですから」
「……ははは、そうだったな」
辺りはすっかり暗くなっていた。
「では、クロエのことを頼んだ」
「はい! 任せてください!」
そして、男と男の約束が交わされた。
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