第七話 お姫様とおデート
「おはよう、マコト」
ここはマコトの部屋、異世界でも規則正しい生活をおくっているマコトはすっかり目が覚めていた。
そんなマコトのところに、早朝からなぜかクロエがやってきた。
クロエの服装はお姫様のドレスでも騎士の鎧でもなく、おしゃれなワンピースだった。
「……なんでクロエがここにいるの?」
クロエはこの国のお姫様で、騎士団の隊長なのだ、異世界の騎士団の事情はよくわからないが、もっとこう忙しいはずなのだ。
「そんなの決まってるじゃない、マコトの服を買いに行くためよ」
「……え、クロエってお姫様だよね、街とか出ちゃっていいの? ってか騎士隊長のお仕事は?」
「あぁ、それなら大丈夫よ、この腕輪を付ければ他人からは私のことが別人に見えるから」
そういってクロエは右腕にはめてある白銀の腕輪を見せた。
腕輪の中央には大きな青い宝石のようなものがついている。
「この腕輪には珍しい魔鉱石が付けられていてね、『幻視石』っていうの」
「魔鉱石?」
「うん、魔鉱石にはいろいろな種類があってね、それぞれ効果が違うの、有名なやつだと『念話石』かな、元々は一つの鉱石なんだけど、二つに割って念話石に触れながら言葉を念じると、もう一つの念話石を持っている人にその言葉が聞こえるの」
(念話石か、俺の世界でいう携帯電話みたいなもんか)
「あ、あと騎士隊長のお仕事の方だけど、そっちは全部ルドルフに丸投げしてるから大丈夫」
「そ、そうなんだ」
ルドルフはマコトが最初に目を覚ました部屋にいた茶髪で中年の男だ、後から聞いた話によると、騎士団の副隊長の役目を担っていて、実力だけならこの国でトップのすごい人らしい。
(ルドルフさん……ファイト)
マコトは心の中でここにはいない中年の男にエールをおくった。
「そんなことより」
(そんなことって……)
ルドルフの扱いが少しひどい気がする。
するとクロエは、先ほどから持っていたてさげからゴソゴソと何かを取り出した。
「はい、これ」
それは、異世界に召喚されたばかりの時マコトが着ていた服だった。
「あれ、この服もっとボロボロだったはずだったんだけど」
この服は森の中で魔獣に襲われたときにボロボロになっていたはずだ。
にもかかわらず、今では新品同様になっていた。
「裁縫師の才能を持っている人に直してもらったの、その……左側の袖が完全に破れちゃってたから、不自然にならないように両袖の生地を新しくしてもらったんだけど……不自然じゃない?」
「いや、全然大丈夫だよ、むしろ前より良くなったと思う」
「そう、それならよかった」
そういうクロエは、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「……あのさ、クロエ、君がもし俺の左腕のことを気にしてくれてるんだったら、全然平気だよ? もうある程度は慣れてきたし、俺は右利きだからよっぽどのことは何とかなる、だから大丈夫だよ? そもそも、あれは魔獣より弱かった俺が悪かったわけで、クロエは全く悪くないよ」
「でも……」
「むしろ俺はクロエに感謝してる、君がいなかったら、俺は今頃魔獣の腹の中だったわけだし、ここに来てからも、君が王様と交渉してくれたおかげで部屋がもらえた、俺は必ずいつか、君に恩返ししたいと思ってる」
「そんな恩返しなんて……」
「ったく、クロエ、お前は色々と考えすぎだ、もう少し楽に生きろ、じゃないとストレスで早死にするぞ?」
クロエは、マコトに嫌われてしまったと思っているのか、悲しそうな表情をしている。
「クロエ、お前はまだ若いんだから、って俺が言えたことじゃねーけど……とにかく、もっと子供らしく生きろ、俺なんかこの前友達と道で遊んでたら知らない人の家の窓ガラス割って猛ダッシュで逃げたからな?」
「むっ、ちゃんと謝らなきゃダメじゃない」
「そ、そん時はめちゃくちゃ焦ってたんだよ! ま、まぁとにかく! そんぐらい子供らしく生きろってことだ!」
自分で自分の悪事をしゃべって痛いところをつかれてつい動揺してしまう辺り、やはり子供である。
すると、
「ふふっ」
先ほどまで悲しそうな表情をしていたクロエが笑みを浮かべた。
「な、なんでわらってんだよ!」
「だってマコト、ほんとにちっちゃい子供みたいなんだもん……でも、ありがと、私のためにそんなに真剣になってくれて……うん、私ももう少し子供らしく生きてみたいと思う、ありがとう、マコト」
「べ、別にあなたのために言ったんじゃないんだからね!」
「ふふっ」
突然のマコトのツンデレっぷりにクロエも思わず笑ってしまった。
「そうだ、話し込んでつい忘れちゃってた、マコトの服買いに行かないといけないんだった」
「あ、そういえばそうだった、ちょっと待っててくれ、すぐ着替えるから」
「うん、わかった、部屋の外で待ってるから、着替え終わったら言ってね」
そういってクロエは部屋の外へと出て行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「へー、結構にぎわってるんだな」
ここは王都イグニスの城下街、街の見た感じはファンタジーにはよくありがちな中世ヨーロッパ風だ。
「当たり前よ、ここは王都イグニス、人間族の中では最も大きい都市なんだから」
人口は約七千万、もちろん住んでいるのは人間族だけではない、獣人族やエルフ族などもいる。
「おぉ! やっぱり生で見るケモ耳は違うな!」
「ちょっとマコト、そんなに人をジロジロみないの、怪しい人だと思われちゃうじゃない」
「ごめんごめん、ちょっと興奮しちゃって」
「あぁ、そっか、記憶喪失だから獣人をみるのも初めてなのね……あれ、さっきマコトの部屋で話してた時、この前とか、友達とかいってなかったっけ?」
たしかにマコトは、『この前友達と……』と言っていた。
自分が記憶喪失であるという設定なのをすかっり忘れてしまっていた。
「えっと、その、ちょ、ちょっとずつ記憶が戻ってきたんだよ!」
「ほんとに!? よかったぁー、また記憶が戻ったら、マコトの昔の話とか聞かせてね!」
「お、おう!」
クロエに嘘をついてしまっているという罪悪感から少し胸が痛い。
(そういえば……女の子と二人っきりでお買い物……まさか! これはデート!? ……やべぇ急に緊張してきた)
マコトがそんなアホなことを考えていると、クロエが立ち止まった。
(ま、まさか! クロエも人の心が読めるのか!?)
っとまぁそんなわけはなく。
「あ、ついた、ここよ」
ただ目的のお店についただけだった。
(な、なんだびっくりした)
「どうしたのマコト? 早く入るわよ」
「お、おう」
そしてマコトたちは店の中へと入っていった。
そこは、一般的な服から魔獣との戦闘用の服までいろいろと揃っているお店だった。
「おぉー! めちゃくちゃかっこいい!!」
店に入ってマコトがまず目をつけたのは、白い生地のじゃっかん厨二くさいコートだった。
「それは、冒険者の人たちが好んで着るやつね、でもマコトの才能は白魔導士なんだから、コートじゃなくてローブとかの方が……」
「いや! 俺はもうこのコートに一目ぼれした! 絶対にこれがいい!」
マコトはまるで欲しいおもちゃを見つけた子供のように目をキラキラさせている。
「そ、そう? じゃあ決定ね、あとはズボンと靴だけど……」
「ズボンと靴だな! わかった! すぐ見てくる!!」
そういってマコトは店の奥へと消えていった。
「全くマコトったら……ふふ」
その微笑みは、まるで天使のようだった。
「クロエ!! 決まったぞ!!」
そういってマコトが持ってきたのは、黒いズボンに黒いブーツだった。
「ず、ずいぶんとはやいのね」
「なんか、ピーンときた」
「じゃあそれで決定ね、早くお会計済ませちゃいましょ」
「ん、そういえばお金ってどうするんだ? 俺1円……1Gも持ってないぞ?」
「あぁ、それなら大丈夫よ、私が払うから」
「え!? まじで!? 俺値段とか気にせずに選んできちゃったよ!?」
「大丈夫大丈夫、騎士隊長やってるからお金は結構持ってるのよ」
「で、でもクロエからは色々としてもらってばっかりだし……」
「さっき言ってたでしょ? 必ず恩返ししてくれるって、まぁ出世払いだと思っておけばいいのよ」
「そ、そう? じゃあ、お言葉に甘えさせて」
「ま、その分雑用係のお仕事が増えると思っててね?」
一瞬クロエの顔に不敵な笑みが見えた気がするのは気のせいだろうか。
「なっ……了解……しました」
「よしっ、じゃあお会計いこっか」
「……はい」
こうしてお姫様とのデートはかなりのスピードで終わりを迎えた。
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