第九話 先輩召使いの異名

「ここが……」


マコトは今、花束を片手にある森へきている。

マコトが最初に目を覚ました場所であり、親友を失った場所でもある。


「優助が死んだ場所……」


そう、マコトが今いる場所は、あの漆黒のオオカミ、ダークヴォルフという魔獣に優助が殺された場所だった。

あの時、マコトは恐怖で動けなくなってしまい、優助を見殺しにしてしまった。

自分がどうこうできたものではなかったと分かってはいるが、せめて花だけでもと思い、この場所に戻ってきたのだ。

あれから約一週間がたち、安全確認も済んでいるため、マコトは一人でここまで来た。


「優助、何も出来なくてごめん……俺は、おまえの分も生きようと思う……見殺しにしておいて何を言ってるんだって思うかもしれないけど、これだけは言わせてほしい……ありがとう…母さん達が死んじゃって、暫く小学校に通えてなかったとき、毎日俺のところに来て明るく振舞てくれて、あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、お前のおかげでだんだん元気になれたよ、久しぶりに学校に行ったとき、皆とまた笑って過ごすことができたのは、お前のおかげだと思う……」


優助は、幼稚園の頃から一緒だった、雨の日に外で遊んで泥だらけになったり、外で遊んだ時に窓ガラスを割って怒られたり、とにかくいっぱい遊んだ、優助がいなかったら、マコトはクラスにうまく馴染めていなかったかもしれない。

だから……


「ありがとう……それと、さよならだ……」


マコトは、そっと花束を置いた。

そして、静かにその場を去っていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……どうだった? マコト、ちゃんとお友達とお別れできた?」


「ああ、大丈夫だ、ちゃんとお別れしてきたから」


マコトは今、中庭でクロエと話している、たまたまお互いに仕事に間ができたので、こうやって話をしている。


「それよりも、昨日言ってた胸騒ぎについてなんだけど、なにか心辺りはあるのか?」


「うーん……これといってないかな……」


「そうか……」


そこで、マコトはクロエの今の母親について聞いてみた。


「なぁクロエ、この前王様から聞いたんだけど、お前はなんで今のお母さんと仲良くできないんだ?」


「うっ…それは……」


なぜか言いづらそうな表情をしていたので、無理に話さなくていいよとマコトが言おうとしたところ……


「私も、ほんとは仲良くしないといけないと思ってるんだけど……」


「だけど?」


「その……あの人とはあまり関わっちゃいけないって、そう感じるの……」


「それって、また審判の加護か?」


「……うん」


「はぁー、あのなー、そんなに加護に振り回されるんだったらその能力使わなきゃいいじゃんか」


「それは出来ないのよ、加護の中にも種類があって、常時発動するものと使いたいときだけ使えるものがあるの、っで、私の加護はどっちも常時発動しちゃってるの」


「ふぅーん、……ん? どっちもってことは、クロエって加護二つ持ってるの? ……まさか! お前Lv200超えてるのか!?」


この前聞いた話だと、加護はLVが100上がるごとに一つ授かるらしいが……


「ち、違うわよ! 私はまだそんなに高いLvじゃないって! ルドルフなら、確か200超えてたけど……」


「まじか……おっさんそんなにやばかったのか」


「加護の中には極稀に、世界にほんのわずかしか存在しないものや、世界に一つしか存在しないものがあるの、そういった加護は持ち主が死んだ途端に別の人に移って、その人が死ぬとまた別の人に移る、その繰り返しをずっと続けてるの、それで私が持っているもう一つの加護の名前は『戦神の加護』っていって、多分一つしか存在しないものだと思う」


「へぇー、加護ってそんな風に回ってるやつもあるのか……俺にも回ってこないかな……」


自分でLvを上げて手に入れようとは思わないマコトであった。


「うーん、多分かなり可能性は低いと思う、聞いた話によると、加護が移るのは持ち主と最も親しかった人か、その持ち主を殺した人のどちらからしいの……私は、お母さんと仲が良かったから、それで……」


クロエは、また暗い表情になってしまった。

クロエがトップレベルの実力を誇っているのは、日頃の努力と、その加護の力のおかげだった。

そしてその加護は、クロエの母親から授かったものだった、この力を授かったことに気が付いたクロエは、より一層修行に励んだそうだ。


「……あ、ごめんなさい、また暗い顔しちゃって」


「いいよいいよ、少しずつでも前を向こうと努力してるんだから、俺だっておばあちゃんや友達がいたから少しずつ前を向けるようになったわけだし」


「……うん、がんばる」


「うしっ、じゃ、俺はそろそろ仕事に戻るわ」


「うん! じゃあ私も仕事に戻るね! お互い頑張ろ!」


「おう!」


そうして二人はそれぞれの仕事場へ戻っていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ほー、やっぱ冒険者ギルドってあるんだなー」


マコトは先輩の召使い、ヴィオラさんと一緒に冒険者ギルドにいた。

ヴィオラさんの髪色は灰色で、普段白黒のメイド服を着ているのだが、今日は外出用の服を着ている。

ちなみにヴィオラさんは元冒険者で、かなりの強者だったらしい。

だが、今はそんな面影はなく、とっても優しいお姉さんなので、マコトは都市伝説か何かだと思っている。


「マコトくん、こっちよ」


「はーい、今行きまーす」


冒険者ギルドはかなりの人がいて、あまり離れすぎるとすぐに見失ってしまう。

ギルド内に酒場を設けており、いかにもって感じのする場所だ。


「あれ、ヴィオラさんじゃないですか、こんなところで何やってるんですか?」


そう話しかけてきたのは、受付のカウンターに座っている青髪の青年だった。


「久しぶりねマルコ、元気にしてた?」


「そりゃあもう元気いっぱいですよ……あれ?そちらの方は?」


「お、俺ですか?」


「紹介するわね、ちょっと前から私の後輩として働いてくれてるマコト君よ」


「よ、よろしくお願いします」


「へぇー、そうなのか……」


マルコと呼ばれた男は、まるで憐れむような表情を浮かべている。


「どうしたんですか?」


「ちょっと耳を貸してくれるかな?」


「え? あぁ、はい」


マコトはマルコのそばにより耳を傾けた。


「……実はね、ヴィオラさんは昔冒険者をやっていたころ、黒夜叉と言われていてね、いつも黒い服を着ている上に、ナンパしてきた男をズタボロにことからその異名が付いたんだよ、だから、くれぐれも怒らせないようにね……」


「マルコ? おふざけはそのぐらいにしてはやく本題にはいってもいいかな?」


「はっはいぃ!」


今、ヴィオラさんの後ろに般若が顔を出したような気がする。


(噂は本当だったのか……)


「マコトくん?」


「はいっ!!」


「全く、彼の話を本気にしちゃだめよ? ……さて、マルコ」


「はいぃ!!」


「いつまでおびえてるのよ、今日はマコトくんのギルドカードを受け取りに来たんだから」


「あ、あぁそういえばそんなことを聞きましたね」


すると、マルコがカウンターの下から何かを取り出した。


「マコトさん、でよかったですよね、では、このギルドカードの上に手をかざしてください」


「は、はい、こうですか?」


マコトは差し出されたカードの上に自分の右手をかざした。

すると、カードが光だした。


「おぉ」


ついつい声をもらしてしまったが、光が次第に薄れていくとともに、先ほどまでは何も書かれていなかったところに文字が浮かび上がってきた。

そして、光が完全にきえると……


「はい、これで登録完了ですね、受け取ってください」


「ありがとうございます」


ギルドカードにはこんなことが書いてあった。


=====================

ミカナギ・マコト


所持金:0G


Eランク


異名:なし


=====================


冒険者ギルドとはいっても、元々は市役所みたいなものだったらしい、ただ、主に魔獣討伐を目的とした依頼書、いわゆるクエストが提示版に張られるようになってからは、そのクエストをこなしてお金を稼ぐもの、冒険者達が現れ、冒険者ギルドと呼ばれるようになったらしい。

この世界は、ギルドカードというものが存在しており、原理は分からないが、所持金はギルドカード内に保管されるらしい、ちなみにギルドカードは念じれば持ち主の元に戻って来るらしいので、なくす心配もないようだ。

ランクは、クエストや知り合いからのお願いを達成すれば上がるらしい。

異名はAランク以上になれば勝手につくらしい。


「よし、これでやっとお給料が払えるわね」


「え? お給料? だって俺は城に住み続ける代わりに働いていたわけであって……」


「マコトくんはあんなに頑張ってるじゃない、だから、どうかマコトくんに報酬を渡してあげてください、って相談したの、そしたら、これからはマコトくんの頑張りに見合った報酬を渡すようにするって言っていただけたのよ」


「ヴィオラさん……ありがとうございます! これからは、より一層頑張りたいと思います!」


「うん、えらいえらい」


ヴィオラさんはとても優しい笑みを浮かべている。


「そんな……あの黒夜叉がこんなにも優しいはずが……」


「マルコ? 何か言ったかな?」


「い、いえ! 何も言ってませんよ!」


再び般若の登場である。


(まさか、あのヴィオラさんにこんな一面があったなんて)


マコトがヴィオラさんの過去について興味がわき始めたところで、何やら外が騒がしくなってきた。


「ん? 何かあったんですかね?」


マルコがそうつぶやいた瞬間。


ドカー―――――――ンッ!!


遠くの方から巨大な爆発音が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」


急いで外にでたマコトは、その驚愕な光景に目を見張った。


「あれは……」


それは、煙を上げている王城を取り囲む、魔族達の大群だった。


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