第二十一話 ……え?
「そういえば今更だけど、これから戦場になるかもしれないってところに姫さんが行っちゃっていいのか?」
今、マコト達は魔族の王都、ウェントゥスへ向かっている。
マコトとクロエ、そしてシエラがのっている馬車は、ヴィクトルが乗る馬車を後から追う形で走っている。
「そんなの、放っておけないからに決まっているじゃないですか」
「でもよー、シエラはまだ子供だぞ? しかも女の子だから真っ先に狙われちゃうかもしれないぞ? それに戦えるほど強い訳でもないし……」
この前遭遇した使徒の話を聞いた感じだと、あいつらは女の人をまるでおもちゃのようにしか思っていない、シエラもかなりの美少女なのでさらわれる可能性が十分に高い。
「むぅー、それをマコトさんには言われたくないです! 戦力に関してはマコトさんだって私と同じようなものじゃないですか!」
「ぐぅ……何も言えねぇ……」
今回襲撃を受けた場合、マコトは加護の力をつかわない約束になっている。
そのため、マコトの戦力はほぼゼロに近い。
「それに、私には妖精さんが付いてるんですから、加護の力を使っていないマコトさんと比べて、同等どころか、数倍は戦力になります!」
素直なだけなのか、それとも毒舌なのか、中々痛いところをついてくる。
子供というものは恐ろしい。
「っく……まさか中学生ぐらいの女の子に負けるとは……」
別に女の子と張り合うつもりはないのだが、いざ負けてるとなるとどうも悔しい。
すると、シエラが突然こんな質問を投げかけてきた。
「……そういえば、マコトさんが時々言っている、その中学生というものは何ですか?」
「ん? あぁ、中学生っていうのはな、俺が元いた世界にあった学校ってところに通っている奴らの事を言ってな……あー、この世界でいうと魔法学校の学生みたいなものだ、たしか魔族にも同じやつがあるだろ?」
そう、この世界には魔法学校というものが存在しており、そこでは魔法の使い方や歴史について学んだりすることができるのだ、人間族の魔法学校は一つしか存在しておらず、学校があるのは王都だけである。
因みに、別に魔法の才能ごとにランク分けされたりはしていないので、ランク最下位のやつが実は最強で、後々世界を救うなんてロマンにあふれたものは断じて存在しない。
「やはり、どこの世界にも学校というものは存在するのですね……それで、その中学生というのは大体何歳くらいなのですか?」
「あぁー、大体12~15歳なんだけど、シエラは見た感じ12か13くらいかなぁ~って思って」
シエラは見た感じかなり小柄で、まだ成長する余地があるように思える。
すると、シエラは頬をプクーっと膨らませてしまった。
「お、おいどうしたんだよ? もしかしてもっと若かったのか?」
このぐらいの大きさの子は、普通若く見られるよりも大人にみられる方がうれしいと思うのだが。
そのあたりが抜けているのがマコトである。
「違いますぅ! その逆ですぅ! 私はもう16歳ですぅ!」
「……え?」
「だぁかぁら! 私はもう16歳です! マコトさんと一歳差ですぅ!」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
あまりにも衝撃の告白だったので、つい大声を出してしまった。
クロエもマコトと同じ考えだったのか、運転席から振り向いてこちらに身を乗り出している。
「う、うそ!? シエラって16歳だったの!? 私とほとんど変わらないじゃない!!」
「ちょっ、ばかっ、クロエはちゃんと手綱握ってろって!!」
クロエが急に大声を出して手綱を手放したので、馬が驚いて暴れている。
「あぁ! ごめんなさい……」
慌ててクロエは手綱を握り直し、馬を優しくなだめた。
「ったく……っで、そのぉ……16歳っていうのは本当なのか?」
マコトはいまだに頬を膨らませているシエラに尋ねた。
「むぅー、本当ですよ、私がそんな嘘つくわけないじゃないですか」
「い、いやぁでも……見た感じどう見てもまだ中学生ぐらいだぞ?」
まだ身長も低く、顔も幼い、これを16歳だと言われてもにわかに信じがたい。
「じゃあ、私のステータス見ますか?」
「おぉ、そういえばまだシエラのステータス見せてもらったことなかったな、是非見せてくれ」
マコトがそういうと、シエラは自分のステータスをマコトに見せた。
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シエラ・ザハーロヴナ・メレフ 16歳 性別:女 種族:魔族
Lv 6
才能:精霊使い
HP 36/36
MP 58/58
筋力:19
耐性:18
俊敏:23
魔力:42
魔耐:20
魔力属性:風
加護:仙女の加護
特技:オカリナ 精霊使役 癒しの奏
称号: 精霊に愛されしもの 魔族の姫 病魔を克服せし者 化け物
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「……本当だ、16歳だ……」
「ふふーん、だから言ったじゃないですか、私はこう見えて16歳なんですー」
シエラはその乏しい胸をドーンと張っている。
(いや、自分でこう見えてって言っちゃってるじゃん……それにしても……)
シエラの称号の欄に書かれている、化け物という文字、これがシエラを長い間苦しみ続けた。
そしてこの称号は、今もなお消えずに、シエラのステータスに刻まれ続けることになるだろう。
(シエラには、この嫌なことを忘れるぐらいの、楽しい毎日を送らせてやらなきゃな……)
「? どうしたんですかマコトさん?」
「ん、いや何でもない……まぁ、身長が伸びてないのはきっと病気のせいで成長が止まってたからだろ、きっとすぐに身長も伸びて、立派な大人になれるさ」
「ほんとですか!? やったぁー!」
こうやって時々見せる子供らしい姿が、マコトの心を癒してくれる気がした。
『おや、君はロリコンだったのかい?』
「ちっげーよ!! 俺は大体同じくらいの年の方が好みなんだよ!!」
いきなりユピテルが突拍子もないことを言うものだから、つい声に出して突っ込んでしまった。
全く、久しぶりにしゃべったと思ったら急に何を言うんだこの神様は。
「ど、どうしたんですかいきなり……」
そういいながらもシエラは顔を赤くさせながらもじもじしている。
マコトからは見えていないが、実はクロエも顔を赤くしている。
「い、いやぁ何でもないよ……はは……」
(なんでもじもじしてるんだ? トイレでも行きたいのか?)
『はぁー……』
(……なんだよ、いきなりため息なんかついて)
『いや、僕はこのラブストーリーの結末を楽しみに待っているとするよ……』
(……?)
マコトはいまだに二人の気持ちに気付いていないようだ。
全く、どこまでもどこまでも鈍感なマコトである。
そのまま暫く他愛もない話を続けていると、前方に何やら壁のようなものが見えてきた。
「あ! 二人とも! 王都が見えてきたわよ!」
その壁は、王都ウェントゥスを守る、巨大な防壁であった。
「おー、やっと着いたか、これでもう暫く野宿とはおさらばだな」
こうしてマコト達は、両国の平和を築くため、魔族の民たちを使徒の手から守るために、王都ウェントゥスの中へと進んでいった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おぉー、思ったより全然平和そうだなぁ、イグニスとほとんど変わらねーや」
街並みやまちゆく人々の話声など、まるっきりイグニスと変わらなかった。
中世ヨーロッパみたいなところも、街の中心に巨大な城があることも変わらない。
唯一変わることがあるとすれば、辺りの民が皆、角を持っている魔族だということだけだ。
「なんか、いざ入ると緊張するなぁ……」
マコト達の乗っている馬車と違い、ヴィクトルが乗っている馬車は見るからに高そうな装飾が施されているため、どうしても視線を集めてしまう。
まぁ、その高そうな馬車に乗っているのはイケメンな従者であって、こちらのどこにでもありそうな馬車に乗っているのは魔族のお姫様なのだが……そんなことが分かるものはマコト達以外には誰もいないだろう。
「大丈夫よ、今は幻視石をつけてるから、よっぽどばれはしないって、それに、もしものことがあったらヴィクトルさんに何とかしてもらえばいいでしょ?」
マコトとクロエの腕には青い結晶のついた腕輪がはめられている。
それを知らない魔族の民たちには、マコト達は魔族に見えているだろう。
「まぁそうだけどさ……」
前を通る高そうな馬車の後ろをついていく、というだけでかなりの視線を集めてしまう。
まぁいずれ適応するだろうが、大勢の視線を浴びるのはどうもなれない。
「……どうだシエラ? 久しぶりの王都は?」
周囲の視線を気にしないようにするため、隣に座っているシエラに話しかけた。
シエラは目をキラキラさせながら辺りをキョロキョロしている。
「私がいたころと何も変わってないです! 街並みもにぎやかさも、まったく一緒です! やっぱり、ここまでくると、帰ってきたという実感がわいてきます!」
「そうか、ならよかった」
マコトはシエラに向かって優しく微笑んだ。
「う……」
マコトのこの優しい笑顔を見ると、どうしても顔が赤くなってしまう。
「ん、大丈夫か? 調子が悪いならヒールとかケアラを……」
「いえ! 何でもないです!私は大丈夫です!」
そういってシエラは反対を向いてしまった。
「そ、そうか、ならいいんだ」
やけに大きな声で言うものだから少し驚いてしまった。
(うーん、シエラやクロエに時々出るこの症状はいったい何なのだろうか……)
『別に病気とかじゃないんだけどねぇ……』
(ん、チビ、お前これについて何か知ってるのか?)
『いや、なんでもない……そういえば、恋の病とかいう言葉もあったような……』
(あ? なんだ? 後半ぶつぶつ言ってて何言ってるのかわかんねーぞ?)
『まぁまぁ、それはいずれ自分で解明することだよ、僕が言ったんじゃあ面白くない』
(……ったく、なんなんだよ)
この世界の神様はどいつもこいつも面白いものが好きなのだろうか。
そんなことをマコトが考えていると、いつの間にかすぐ目の前まで王城が迫ってきていた。
「お、もう着くのか……クロエ、お前大丈夫か?」
運転席を見ると、クロエの表情がやけに硬かった。
「だ、だいじょうぶ……多分……」
「ったく……」
そういってマコトは運転手席に移動し、クロエの背中をさすってやった。
「っ!? ……あぅ……ど、どうしたのよ急に……」
「ん? いや、俺が小さい時、緊張してるとよく母さんがこうやって背中をさすってくれたんだよ、するとなぜか体がすぅっと軽くなる気がしてな……どうだ? 少しは楽になったか?」
こういう事が自然とやれるようになったのも、実はマコトの過去と関係があったりするのだが、これはまたいつか……
マコトに背中をさすってもらったクロエの顔は、今にも蒸発してしまいそうなほどに赤くなっていた。
「う、うん……私はもう大丈夫……大丈夫だから!」
別の意味で緊張してしまい、つい強い口調になってしまった。
クロエは耳まで真っ赤にしてうつ向いている。
運転手なのに大丈夫なのだろうか……
「お、おう、分かった」
そういってマコトはまた客席へと戻っていった。
そしてシエラはなぜかクロエを羨ましそうに見ている。
(なんか俺、変なことしたかな?)
『うん、してると思う』
(うっそ!? まじで!? 俺なにしたの!?)
『……』
(おいチビ教えてくれって! この先の旅で気まずくなったら嫌だろうが!)
『うーん……まぁ、その心配はいらないと思うよ? でも、あまり気軽にそういうことはしない方がいいと思う、じゃないとクロエが蒸発するよ?』
(はぁ!? 蒸発!? ちょっとまてチビ! それってどういう……)
『あぁもう! 君って本当にめんどくさい男だね!!』
ユピテルが声を荒げるのは初めてな気がする。
(な……別にそんな怒らなくても……)
初めてユピテルに怒鳴られたマコトはついシュンとなってしまった。
『はぁー……悪かったね、つい声を荒げてしまったよ……神様だというのに情けない……』
(あぁー、大丈夫、俺は別にお前のこと神様だなんて思ってないから)
『………………もう加護の力使わせてあげないぞ?』
(マジすんませんでした! ユピテル様は神様です仏さまです!)
マコトは狭い馬車の中で土下座をして全力で謝罪している。
シエラは気づいていないようなので、急に土下座をしだす変質者とは言われないで済みそうだ。
『僕は仏じゃない』
(あーもういいだろそういうのは!!)
そうしてマコトとユピテルが仲良く念話していると、もう城門の前に到着していた。
「ふぅ、やっとついたな……念話でケンカするのも中々疲れるな……」
そういうマコトの顔は本当に疲れ切った顔をしていた。
これから魔族の王様と会うっていうのに大丈夫だろうか。
『そうかい? 僕は結構楽しかったけど?』
(うるせぇーよ! お前の声は頭に直接響いてくるから耳塞いでも聞こえてきちゃうんだよ!)
『まぁまぁ』
(……)
とりあえず念話にひと段落したマコトはシエラとクロエの方を見てみた。
クロエは先程マコトが背中をさすったおかげで少しだけ表情が和らいでいる気がする。
シエラの方はなぜかマコトに背中を見せてチラチラっとこっちを見ている。
「何やってんのシエラ?」
「っ!? い、いえ! べ、別に何でもないですよ! クロエさん背中をさすってもらっていいなぁとか、私も……とか考えてないですよ!?」
そういってシエラは姿勢をピンッと正し、真っすぐ城門を見つめた。
「……?」
『この子、急に積極的になった気がするな……故郷に帰ってきて興奮してるのか、それともこれが素のシエラなのか……』
(ん? なにか言った?)
『いやなんでも』
(ふぅーん)
すると、先程までヴィクトルと話していた門番らしきものが合図を出し、城門がゆっくりと開いていった。
(さてと、王様とご会談と行きますか……)
そうして、マコト達の乗る馬車は王城の敷地内へと入っていくのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
マコト達は今、ヴィクトルに連れられて王のいる場所へと向かっていた。
服装は普段のままである。
(ふむふむ、やっぱり城っていうのはどこも同じような感じなのか)
マコトは歩みを進めながら辺りをキョロキョロと見渡している。
「こらマコト、他所のお城でそうキョロキョロしないの」
クロエは小さな声で注意した。
「すまんすまん」
マコトは適応力・心のおかげで、もうすでにほとんど緊張していない、王様との面会はイグニスで何度か経験しているので、適応するのが通常より少し早かったのだろう。
「いいんですよ、お父様は別にそんなこと気にしませんから」
「で、でも……」
「そんなことより、私のお父様なんですが……」
そういうシエラは、あとの言葉を言うのにすこし躊躇っているように見えた。
「ん? お父様がどうしたんだ?」
「その……気を付けてください」
「……は?」
その気になる言葉について問いかけようとしたところで、壁一面の巨大な扉が見えてきた。
「陛下は、この奥におられます……くれぐれも、ご注意ください……」
ヴィクトルもまた、最後に気になる言葉を残し、問いただそうとした瞬間に扉を開けてしまった。
そしてそこに現れたのは……
「あんらぁ! ずっとまってたわよぉあなたたっち♡」
「「……………え?」」
ゴリゴリのおねぇだった。
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友達に言われた一言
「ピンチに陥った主人公に、突如光の柱がたち、そこには覚醒して姿の変わった主人公の姿があった……ドラゴン〇―ルじゃね?」
……違うよ!? これはド〇ゴンボールじゃないからね!?
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