第十五話 君の名は。 ※男女が入れ替わったりしません
「さてと、残りの奴らもさっさと片づけねーとな」
先ほど殺した神の使徒とか名乗っていた奴以外にも、この村には大勢の襲撃者がいる。
「うーん……全能の加護の効果時間もまだ数十分ってとこか……動けなくなる時間の事も考えると、ささっとぶっ倒して、あの子を連れてクロエの所まで戻らねーとな……」
今のマコトのLvは少しだけ上がってはいるものの、何日も動けなくなることに変わりはない。
「神の力……かぁ」
全能の加護の能力により、マコトは今神の力を使えるようになっている。
因みに神の力でできることは、『イメージを具現化』することだ。
例えば、先ほどのように強大な力を持った雷撃をイメージする、すると、雷属性の強力な魔法を『無詠唱』で放つことができる。
本来、魔法を使うにはどんな下位魔法でも詠唱が必要になってくる、詠唱とは言っても心の中で念じるだけでよいのだが、その場合、少しでも集中が途切れると、『我が身に宿りし、邪悪なる竜よ、今その封印を…あっ、蝶々だぁ……あっ……』的なことになってしまうため、相当な集中力がある人でない限りたいていは声に出して唱える。
だが、神の力は詠唱など一切必要なく、ただイメージするだけで発動が可能となる。
しかし、いくら神の力とは言っても魔力属性は存在するため、誤って適性のない属性の魔法を使うと危険な状態に陥ってしまう恐れがある。
最も、自分と適性のない魔法を発動しようとしたところで、普通の者たちであれば、ただ不発に終わるだけで済む。
しかしマコトはユピテルから魔力を供給してもらうことにより、全ての属性の魔法が使えてしまうため。
マコトが使いたいと思えば使えてしまうのだ。
「よっぽどのことがない限り、俺が使えるのは光と雷と風の属性のみか……まぁ攻撃と補助が使えるからいっか……あっやべ、制限時間付きなの忘れてた」
すると、ここから少し離れたところで、魔族の親子が襲われているのが見えた。
「うし、とりあえず補助魔法かけて突っ込むか」
そういってマコトは自らに能力値上昇の魔法をかけて襲われている魔族の親子を助けに向かった。
「っく、おのれ人間族めぇ!!」
父親と思われる者の後ろには、まだ6歳程度の女の子がいた。
女の子の方は、父親の腕をぎゅっと抱きしめている。
「ん? なんだ? 負け犬の遠吠えか? はっはっは!」
使徒は、わざと魔族を挑発するような態度をとっている。
「このぉ……」
「お前も、そいつを置いてとっとと逃げていれば助かったんだろうがなぁ……」
父親の方をよく見てみると、どうやら腹部に大きな傷を負っているようだった。
魔族の父親は、苦痛に顔を歪ませながらも使途を睨みつけている。
「っふん、まぁいい……二人そろって死ねぇ!!」
使徒は親子に向かい、勢いよく剣を振り下ろした。
父親は娘を庇うように抱きしめた。
すると……
「とぉう!!」
マコトの華麗なドロップキックが炸裂した。
「ぐはぁ!!?」
使徒の体が思いっきり横に吹き飛んだ。
使徒はそのまま民家に直撃し、白目を向いて気絶している。
「………?」
父親は突然の出来事に脳が追い付いていないようだ。
「あんた、大丈夫か?」
マコトは父親に向かって手を差し伸べた。
すると父親は目の前の男が人間族であることに気が付いたようで、またまた娘を庇うように抱きしめた。
「お、おい、俺は味方だって」
「そんな言葉誰が信じるか!! この子の命だけは絶対に奪わせはしないぞ!!」
どうやら、この父親の人間族に対する信頼度はゼロのようだ。
「ったく……」
そういってマコトは父親の肩に軽く手を置いた。
「っくぅ………ん?」
父親は、肩から流れ込んでくる何かに違和感を感じたようだ。
その違和感は徐々に腹部へと流れていき、遂には腹部の傷が完全に癒えていた。
「どういう……事だ?」
父親は腹部の傷がふさがっていることに気付き、思わずきょとんとしている。
「だから言ったろ? 俺は味方だって」
すると、父親のあつすぎる抱擁から逃れた女の子がマコトの方へトコトコ歩み寄ってきた。
「ん?」
そして女の子がニッコリと笑ってこう言った。
「お兄さん、助けてくれてありがとう!」
「っ!……あぁ、どういたしまして」
女の子の思いがけない行動に一瞬驚きはしたものの。
マコトも、女の子に向かってニッコリと笑い返した。
「……さて、他の奴らもやっつけてくるから、お前たちは何処かに隠れてるんだぞ?」
「うん!!」
そう言って女の子は、いまだにお腹をさすりながらキョトンとしている父親を連れて、近くの家の中へと入っていった。
(なんかあの子、将来父親よりも強くなりそうだな……)
少しあの子の将来について気になってきたところで、制限時間付きなのを思い出し、急いで他の魔族の救助へと向かった。
それからマコトは、村中を走り回って片っ端から魔族を救助していった。
中にはマコトを使徒の仲間だと勘違いして襲ってきた魔族もいたが、安眠効果のある光属性の魔法を使って日々の疲れを癒してあげた。
途中、
「しーとさんこーちら、てーのなーるほーうへ、おいお前ら! 紙の使徒だかエヴァンゲ〇オンだか知んねーけど! 俺を殺せるもんなら殺してみやがれぇいこのくそ野郎どもぉ!!」
と、大声で挑発したところ、想像以上に大勢の使徒が集まってきてしまったこともあった。
占いで出た囮の才能と挑発の才能は本当にあったようだ。
だが、雷属性の魔法は感電効果もあったので意外とすんなり倒すことが出来た。
そのまま数分がたち、ほぼ全ての使徒をノックアウトしたマコトは、魔族達に見つからないようにあの少女の元へと向かった。
「おーい、いるか?」
部屋の中はまた暗闇になっていた。
何かあったのだろうかとマコトが不安に思っていると、奥から何者かが近づいてきた。
「やぁ、君が私の仲間たちを散々な目にあわしてくれた奴かい?」
「っ! ミカナギ様!!」
「なっ!」
なんと、使徒の生き残りが少女を人質にしていたのだ。
「おっと、何かしら使えると思って人質にしておいたが、どうやらこいつはお前の知り合いだったようだなぁ」
「その子を放せ!!」
マコトは使徒に向かって叫んだ、しかしそんな簡単に人質を手放すわけがない。
「はっはっは! そんな簡単に人質を手放すんなら騎士達はいらないよ……さて、仲間たちを苦しめたお前には、いったいどんな罰を与えようかな?」
男は不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。
そしてマコトが神の力を使って男を吹き飛ばそうとすると。
「おーっと君ぃ、変なことをしたらこの子を殺しちゃうよぉ?」
そういって男は剣を少女の首元へ軽く当てた。
少女の首には少しだけ血が浮き出ている、どうやらハッタリではなさそうだ。
「このぉ……」
全能の加護の効果時間は残り僅かである。
(一体どうすれば……)
少しでも不審な動きを見せれば少女の命を失ってしまう。
しかし、何もしなければ少女を救う事なんて出来ない。
「ふはははは! いいねぇその顔、目の前で少女の命が消えようとしているのに、自分は何もすることが出来ない……どうだい? 悔しいかい? 今すぐにでもこの子を解放してあげたいと思ってるだろう? でもだめぇ、この子は君が死んだ後も、僕のおもちゃとして一生を終えるのさぁ!!」
「……助けて」
少女がそうつぶやいた瞬間、部屋の中に眩い光の塊が現れた。
「っぐ、なんだ!?」
男は思わず目を瞑ってしまった。
そしてマコトはその一瞬の隙を逃さず、剣を取り上げ、思いっきりヤクザキックをくらわしてやった。
「ぐぁっ!!」
男はそのまま吹き飛んでいき、家の壁を突き破った後、ゴロゴロと地面を転がり、やがて白目を向いて気絶した。
「……ふぅ、マジで危なかったぜ」
極度の緊張感から解き放たれ、先ほどまでの戦闘のこともあり、疲れがどっと出てきた。
「あ、あのぉ……」
「あ! そうだ! お前大丈夫か? 今すぐに首の傷治してやるからな」
そう言ってマコトは少女の首元へ触れた。
すると少女の傷が光に包まれ、あっという間に治っていた。
「……あのぉ、ミカナギ様?」
「いやー、危なかったなー、あんときの光がなかったらマジでやばかったわー……ん? あの光って何だったん……」
「あのぉ!!」
「おぉう!」
少女が急に大声を出したのでびっくりしてしまった。
「はぁ……やっと気付いてくれました……」
「す、すまん、ああいうの初めてだったからさ」
あんなものがそう何度もあってたまるか。
「……あっ、えと……先程はまたまた助けていただいて、本当にありがとうございました!」
少女はこちらに向かって深々と頭を下げた。
「あぁ、いいっていいって、当たり前の事をしたまでさ」
(うひょー、これ一回言ってみたかったんだよなぁ!!)
「その……何度も何度も助けていただいて……本当にありがとうございました」
先程まで人質にされていたというのに、思ったよりも落ち着いている……いや、こちらに気を使わせないように泣くのを我慢しているのかもしれない。
「本当に、ミカナギ様には感謝してもしきれないほどの事をして頂きました……」
「あー、そのミカナギさんっていうのいいよ、俺の事はマコトって呼んでくれ」
「……え?」
「いや、だから俺の事はマコトでいいって」
「……は、はい分かりました……マコトさん…マコトさん…」
なぜか少女は頬を赤らめながらマコトの名を繰り返し復唱している。
少女の整った顔と相まって、とっても可愛らしい。
「別に呼び捨てでいいんだけど……」
「そ、そんな呼び捨てなんて! ミカナギ様…マコトさんは命の恩人です! 呼び捨てなんて到底出来っこありません!」
「そ…そうか……あ、そういえばお前の名前をまだ聞いていなかったな」
マコトは人の事を呼ぶときは基本名前で呼ぶようにしている、一部おっさんやチビのような例外はあるが……
「そ、そうでしたね…私の名前は……」
するとそこで、マコトの視界がグラッと揺れた。
「うっ…やべっ……」
だんだん意識が朦朧としてきた。
どうやら全能の加護の効果時間がきれたようだ。
「マコ…さん? マ…トさ…!!」
(あ、やべ、クロエのこと忘れてた)
そして、マコトの意識は完全に途切れた。
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