第十三話 魔族の少女
マコト達は今、魔族の領土を目指して馬車で移動中だ。
今は二人とも運転手席に座っている、手綱を握っているのは勿論クロエである。
今までかなりの距離を移動してきて、野宿などを繰り返し、魔族の領土まで後少しというところまで来ている。
ここまで何度も魔獣に襲われてきたが、全部クロエ一人で何とかなってしまった。
(そういえば、馬は普通に馬なんだなー)
「ブロロッ」
マコトがこんな呑気なことを考えられているのは、ちょっと訳がある。
「ユピテルに加護の力をパワーアプさせてもらってからは、そこらの魔獣がまるでスライムのように感じるわね……」
ユピテルにクロエの中にいる神を解放してもらってからは、クロエが無双しすぎてしまったのだ。
例えるならば、某RPGド〇クエの主人公が、Lv100の状態で初期ステージのスライムを瞬殺する感じである。
因みに、クロエのいうスライムとドラ〇エのスライムは全くの別物である。
「ははは、まじ笑えねぇ……」
自分と同級生の女の子に守られるという気分は実に複雑である。
「一応王様から武器貰ったのはいいけど、加護の力も使ってない状態だとまともに振ることもできやしねぇし……」
マコトは王都を出発する際に、護身用として国宝級の武器を王様から授かったのだ。
その武器の名はアダマスの鎌といい、魔法すら切れちゃうすごいやつだ。
何でも、昔村を襲ってきた偽の魔族が所有していたものらしく、手に入れたはいいものの皆気味悪がって使おうとしなかったらしい、それ以来宝物庫でほこりをかぶっていたものを引っ張り出してマコトに授けたんだとか。
「アダマスの鎌ねぇ、確かギリシャ神話の神様が使ってたやつだっけなぁー」
マコトは、中学生のころにファンタジーの世界に憧れて、神話の武器や神様などを調べた事がある。
(あ、そういえばユピテルもミネルヴァも神話の神様だったけか、ユピテルは最強の神様とか書いてあったような……)
『ん? そうなのかい? いやー、照れちゃうなー、皆僕のことを最強って言ってくれてたのかー、まぁ否定はしないけどねー』
(いや、そもそも世界が違うしお前の事じゃねーと思うぞ)
マコトとユピテルが仲良く念話していると、目の前に深い森が見えてきた。
「マコト、見えてきたわよ、あれが人間族と魔族の国境、通称バンダルね」
「おぉー……最初の森と全く区別がつかないな」
「まぁ森なんて全部同じような感じだものね……でも、ここからは気を付けた方がいいわよ? あの森の中には、魔族達が住んでる村や集落がいくつかあるから」
「へぇー、ん? じゃあ今日は何処で野宿するんだ? あんまり森に近づきすぎると危ないんじゃねーのか?」
辺りはすでに暗くなりかけ、いつもなら野宿の準備をし始めるころだ。
因みに、野宿をするときは基本交代で見張りをする、クロエが見張りをしている間に魔獣が襲ってきた場合はすぐさま討伐し、マコトが見張っているときに魔獣が襲ってきたら馬車の荷台を高速でノックする。
「そうね、それじゃあ今日はそこの岩陰にしようか」
そう言ってクロエは、馬車を大きな岩陰の方へと進めていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ私は森の中に入って水組んでくわね」
水に関しては、旅の道中で現地調達ということになっている、馬にあまり負荷を掛けさせないためである。
「ほーい、いってらっしゃーい……あ、魔族に見つからないように気を付けろよ?」
先ほどクロエが言った通り、この辺りには魔族が住んでいる、もし見つかってしまったらとてもとても面倒なことになる。
「大丈夫よ、別に見つかっても大声出される前にころ……気絶させちゃえばいいんだもん」
今、確かに殺すと言いかけた。
「ちょっとクロエさん? 今危ないこと言いかけてなかった? ……絶対だめだよ!? 魔族と平和条約結ぶために来てんだからね!? 殺し、ダメ、絶対」
「わ、わかってるわよ……まだ力加減出来ないから、せめて半殺しくらいで……」
もともと魔族への復讐を目的に鍛え続けてきたため、たとえ今まで悪さをしてきたのが本物の魔族じゃないと知っていても、やはり魔族を目にするとどうしても手加減ができないらしい。
親の仇ってのは怖いね。
マコトは優しい男の子だから、両親を殺した相手に偶然めぐり合っても、絶対に殺したりなんかしない、たぶん。
「そういえば、俺の親を殺した犯人もここの世界に生まれ変わってたりするのかな?」
『あー、まぁ可能性はゼロではないだろうね、でも、たとえこの世界にいたとしても前世の記憶はなくなってるわけだし、復讐のしようがないだろうね』
「ま、そうだよなー、向こうからすれば、初対面の男にいきなり親の仇ィ!! って意味不明な事言われるわけだしな」
ただ、その男がまた犯罪に手を染めているようなら容赦はしないかもしれない……いや、べつに殺さないからね? 僕ちん優しい男の子だもんね。
そんなアホなことを考えていると、何やら音が聞こえてきた。
ガサガサッ
「ん? なんだ?」
そう言って音がした方を振り返ってみると、なんと、ネズミのような魔獣が、馬車の荷台をあさっているではないか。
「お、おい!! お前そこから離れろ!!」
「キキィッ!!」
「あっ! ちょ! 待てこら!!」
マコトの姿を確認した瞬間、ネズミ型の魔獣は森の方へと一目散に逃げて行った。
オオネズミの口には大事な食料が加えられている。
「キキィッ!! キッキッ!」
オオネズミは、まるでマコトをおちょくるかのように蛇行しながら逃げ去っていく。
「ふざけやがってぇーー! 待てごらぁ!!」
マコトは、自分が森の中へ入ってしまったことにも気づかず、ただひたすらにオオネズミを追いかけた。
そして……
「はぁ……はぁ……あのクソネズミがぁ……」
オオネズミのスピードは思ったよりも凄まじく、自分にヘルトをかけた状態のマコトでも追いつくことができなかった。
「覚えてろよぉ!! いつか絶対捕まえてやるからなぁ!!」
『……もしもしマコト君?』
「あぁ? なんだよこんな時に!」
マコトはネズミを逃がしてしまったことに苛立っている。
だがその苛立ちも、ユピテルの次の言葉によってかき消されることとなる。
『こんな時だから言ってるんだよ、周りみてみ?』
「周り? ……」
周りには、見知らぬ木々、薄暗い空間……
「あ……」
そんな間抜けた声が、森の中に虚しく響いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あんのネズミめぇ……」
マコトは今、にっくきオオネズミの事を思い浮かべながら、見知らぬ森から何とか抜け出せないかと、辺りをうろうろしている。
『ネズミに八つ当たりしても無駄だよ、そもそも君が熱くなって追いかけまわすのがいけないんじゃないか』
「うぅ……っていうかよ!! お前が森に入っちゃったときに教えてくれればよかったじゃねぇか!!」
『なんで僕が一々そんなことをしなくちゃいけないのさ、それに、僕は君が死んでも他の生物に乗り移ることができるんだからね?』
なんでも、上位の神であれば、宿り主が死んでもすぐには消滅しないらしい、戦神の加護がクロエに移ったのは、消滅する前にケイオスが封印しなおしたからなんだとか。
「そりゃねぇぜチビ、ここまで一緒に冒険してきた仲だろ?」
『冒険って言っても、君はただ馬車に揺られてクロエの後姿を見ていただけじゃないか、僕だってもう少し戦いたいんだよ』
「しょうがねぇだろ、俺は無能なんだから」
戦闘に関しては全くの無能、ステータスにまで嫌われているのかと思うほどの、実に不名誉な称号だ。
「はぁー」
異世界に来てからというもの、なんだかため息の数が増えてきた気がする。
(もう年かのぉ……ふぉっふぉっふぉ)
と、マコトが馬鹿なことを考えていると、何やら灯りが見えてきた。
「お! 村だ! 村があるぞ!! わーーい!!」
マコトは灯りを見つけた瞬間、やっと出口が分かるかもしれないと大はしゃぎで村に駆け寄った。
だが忘れていないだろうか、ここは魔族が住む森、この辺りに住んでいるのも勿論……
「あ……」
目の前には、魔族特有の角を生やしたご婦人が立っていた。
ご婦人は、目を見開いてこちらを見ている。
「ハ……ハロー……」
「キャー――――――――――!!! 人間族の襲撃よ――――――――――!!!」
ご婦人の悲鳴とともに、辺りからものすごい数の魔族達がやってきた。
「あ…あははー……忘れてたー」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やべぇーよ、まじでやべぇーよ……」
マコトは今、魔族達から隠れるために、そこらにあった木箱の中に隠れている。
「どうしよう……」
魔族の数は想像以上に多く、全く身動きができない。
「まずはこっから動かねぇと……」
『わっ!!』
「ぎいぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁ!!!」
急にユピテルが脅かすものだから、滅茶苦茶大きな声で叫び声をあげてしまった。
「なにすんだよ急に!!」
『あははー、つい』
「つい、じゃねーんだよ!!」
『ほらほら、それよりも前』
「え?」
ユピテルに言われたように前を見てみると。
「あっ」
「あっ」
魔族の男とガッツリ目があってしまった。
「……ないすとぅみーとぅ」
「おい!! いたぞ!! 人間族だ!!!」
またまた大勢の魔族達がやってきた。
「ですよねーーーー!!!」
「このやろぉーーー!! 待ちやがれぇぇ!!」
魔族の男たちが怒声を上げている。
「まつわけねぇだろ!! 死ぬわ!!」
いや、冗談抜きに、マジで。
「くそっ!!」
とりあえず、魔族の大群をまくために、目の前にある家角を左へ曲がり、数件先の家の裏へと隠れた。
「おのれ人間族め!! どこに行きやがった!! さっさと出てこい!!」
(出る訳ねーだろうが!! 出たら死ぬわ!!)
マコトを見失った魔族達は、バラバラになってそこらじゅうを探し始めた、中には翼を生やし、上空から探すものまでいる。
「へぇー、翼ってあんな風にしまってあったんだ……ってそうじゃなくて! ひとまずどっか空から見えないところに隠れねぇと……」
すると、ちょうどマコトが隠れている家の明かりが消えていることにかが付いた。
見た感じ人の気配は感じない。
(うし、この中入るか)
マコトは魔族が周りにいないことを確認し、こっそりと忍び込んだ。
家の中は月明かりですこしだけ照らされていて、ほとんど真っ暗である。
窓の外を覗いてみると、まだ魔族達がうろうろとしている。
だが、こちらに近づいてくる感じはなさそうなので、ひとまずは安心だ。
「…………ふぅー、ここなら大丈夫そうだなぁー」
「……だれ?」
「うぉい!?」
どうやら中にはまだ人がいたようだ、全く物が動く音が聞こえなかったので、気が付かなかった。
「え、えと、その……俺は別に怪しいものじゃあ……」
完璧に怪しいものである。
「……もしかしてあなたは…人間族の方ですか?」
「なっ!? ……どうして分かったんだ……」
それは少女の声だった。
暗闇で、お互いの姿は全く見えないはずだ。
魔族は、暗闇でも目が良かったりするのだろうか。
「……妖精さんが…教えてくれたんです……」
「……妖精?」
すると、暗闇の中に突如光が現れた。
暗闇が照らされ、部屋の中がよく見えるようになってきた。
そしてマコトは、声の主と思われる少女の姿をみて、声を失った。
「なっ……」
「驚き……ましたか?」
少女の声は、ひどく悲しげだった。
マコトが驚くのも当たり前だ、なぜなら少女は、顔も体も包帯で覆われ、顔の中で唯一見える右目も、固く閉ざされていたのだから。
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