第十一話 全能の神ユピテル


「……マコト?」


目の前にいる少年は、間違いなくマコトの姿をしていた。

だが、髪の色が毛先にいくにつれて青く変色しており、瞳の色も黒から金剛色になっていた。

なによりも、その体から放たれている覇気は、今までのマコトとは比べ物にならないものだった。


「全く、いくら争い足らないからってわざわざ王都まで来ることはなかっただろう?」


マコトの口調は、まるで目の前の男を下に見ているようだった。


「……貴様、いったい何者だ?」


「僕かい? 僕は通りすがりの無能な少年だよ」


「何を言っている、こんな覇気をまとっている輩がただの人間な訳がない……まさか、お前が人間族一の戦士というやつか?」


魔族の男は、強者が現れたことに喜んでいるようだった。


「だから言っているだろう? 通りすがりの少年だって」


マコト? は意地でもそれを主張し続けるようだ。


「まぁよい……私は強者と戦うことができればそれでいいのだ、王の命令なんてかったるいことやってられるか……さぁこい! お前の実力を見せてみろ!」


男がそう叫んだ瞬間、辺りを異常なほどの殺気が包み込んだ。


「ほぉう……流石、っといったところか……それじゃ、時間もないことだしさっさと終わらせてもらうよ」


マコトがそうつぶやいた次の瞬間、マコトの姿が一瞬にして消えた。

そして次にマコトが現れた場所は……


「ぐほっ!!」


なんと、男のすぐ後ろだった。

男の後ろに突然現れたマコトは、男の背中を蹴り飛ばした、すると男は、まるで大型トラックにはねられたかのような勢いで吹き飛んでいき、そのまま城壁に激突して壁に大きなクレーターをつくった。


「おぉー、派手に飛んだねぇー」


そんな様子を、マコトは呑気に見ている。


「ま、いきなり王都に攻め込んできた罰ってことでいいかな?」


「貴様……いったい何をした」


壁から出てきた男は、今の攻撃でもほとんど無傷だった、最もプライドの方はどうかわからないが……


「何をしたって聞かれてもねぇ、ただ君の後ろに転移して蹴り飛ばしただけなんだけど」


マコトは、まるで当たり前のことのように言っている。


「そんなはずがない!! 転移魔法は加護がないと使えないはずだ! その加護も、今は我々が所有しているはずだぞ!!」


「別に、加護がなきゃ使えないってわけじゃないんだけどねぇ…まぁでも、下界の者たちじゃ加護なしでは使えないか」


「下界? それは一体どういう……」


「ねぇ君、出来れば早く自分たちの領土に帰ってくれないかな? 僕は君に構ってあげられるほど暇じゃないんだよ」


マコトは少しずつイライラが溜まってきているようだ。


「……っふん、まぁよい、聞きたいことは沢山あるが、今回の作戦は喧嘩を吹っかけてこいってだけだったしな…そろそろ魔族の領土へと帰るとしよう」


魔族の男は、懐から石を取り出し、目をつむって何かを念じ始めた。

そして、男が念じ終わるのと同時に、辺りの魔族達が一斉に空に浮かぶ亀裂へと飛んで行った。


「さらばだ人間諸君、お前たちは必ず、我々魔族が滅ぼす!!」


そう言って魔族の男は亀裂の中へと飛んで行った。

男が亀裂の中に入り終わると、先ほどまであった亀裂が一瞬で閉じた。

戦いが突然終わり、辺りはシンと静まり返っている。

すると先ほどまでまるで蚊帳の外だったクロエが、思い出したかのようにマコトに駆け寄ってきた。


「マコト! 今の力は一体……」


「あの魔族達は……偽物だ」


「……え?」


すると、マコトは力尽きたかのように地面へ倒れた。


「マコト!!」


マコトの姿は、いつもの黒髪に黒い瞳へと戻っていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「お、やっと気が付いたかい?」


目の前には、見知らぬ少年が立っていた。


「……ここは?」


周りは、自分と少年を除いては、何もない真っ白な世界だった。


「うーん、夢の中……みたいなものかな」


「夢の中……」


「そうだ、自己紹介がまだだったね、僕の名前はユピテル、君の自由なように呼んでくれて構わないよ」


「俺は……」


「ミカナギ・マコト君だね、知っているよ」


この世界に来てから、自己紹介しようとするたびに遮られている気がする。


「マコト君、さっきの戦いの事は覚えているかい?」


「さっきの戦い……」


たしか先ほどまで、魔族の男と対峙していたはずだ。

マコトは少しずつ思い出してきた。

魔族の男に蹴り飛ばされ、意識が朦朧としていた時、確かに声が聞こえてきた。

そして頭の中に響いてきた言葉を唱えた次の瞬間、急速に力がみなぎってきてほんの数分で戦いが終わっていた。

そういえば、目の前の少年とあの時の声は同じだった、ということは……


「……あ、お前俺の事無能って言ったろ」


「あれ、そっちを先に聞くかな普通」


「あー、それもそうだな、じゃあ改めまして……お前は一体、何者なんだ?」


「そうそう、そういうのだよ……えーっと、簡単に説明するとこの世界の神様かな」


「……は?」


「まぁ、そうなるよね……僕は全能の神ユピテル、何千年か前までこの世界で主神をやっていたんだ」


「……………はぁ!? 神様!?」


長い沈黙の末、やっと理解したようだ。


「随分と理解するのに時間がかかったね」


「当たり前だろ!! いきなり僕は神様ですって言われてああそうですかってなるわけねーだろ!?」


「まぁそうだよねー、でも、それ以外に説明の仕様がないし」


「確かにそうだけどよー……ん? お前今何千年か前までっつったか?」


「お前って……普通神様って分かったら敬語を使うものだと思うんだけど」


「敬語使えって言われても見た目がそれじゃ使う気になれねぇよ」


目の前の少年は、見た目10歳ぐらいで深い青色の髪をしている。

瞳は金剛色で、とても神秘的な雰囲気を醸し出している。


「まぁそうだよね、僕も主神がこんな子供姿でいいのかって思ったよ」


ユピテル自身も今の格好に不満があるようだった。


(……別に全能の神なんだから姿ぐらい変えられるだろうに)


「いやぁ、姿変えるとややこしいからやめてくれって皆に言われてね」


(くそっ、やっぱり心読めるのかよ)


今の心の声も聞こえていたのか、ユピテルは誇らしげに胸を張っている。


「……まぁそれはさておき、さっきの質問に答えてもらってもいいか?」


「おっといけないいけない、何千年前とはどういうことか、についてだね……」


そういうユピテルの表情は、どことなく暗い顔をしていた。


「……実は、何千年か前に、君と同じように異世界からやってきたものがいたんだ」


(あ、やっぱり俺が異世界人なの知ってるんだな)


「その者はとても強大な力を持っていて、僕たちは応戦するより前に神界から追放されてしまった……その者の名はケイオス、あらゆる世界、そして神々を創り出したという原初の神だ」


「原初の神? なんでそんな奴がまたこの世界に?」


「さぁ、それは分からない、ただ『この世界は面白くない』とだけ言っていた」


「ふぅーん、それで追放された神様たちはどうなったんだ?」


まさか、死んだわけではなかろう。


「……追放された神々は、ケイオスの手によって下界の者たちの中へと封じ込められてしまった、ケイオスの力は強大で、トップクラスの神々でも、内側から封印を解くことは出来なくなっている」


「ほうほう、封じ込められた神様たちは自分で出てくることは出来ないのかちなみに、神様が封印されてる下界の奴らの方は一体どうなるんだ?」


「下界の者たちは、己の体の中に神が封印されていることをまだ知らない、ただ、神を封印された者たちにはその神の力が宿るみたいでね、神様からの祝福だとか何とか言っていたよ」


「ん、それってまさか……」


神からの祝福、なんどか王城で聞いたことのある言葉だ。


「そう、神の御加護というやつだ」


クロエが持っていた力は審判の加護と戦神の加護の二つだ、ということは、クロエには二人の神が封印されているということだろうか。


「ん、でも、Lvが100上がるたびに加護が一つ貰えるんだよな? それは、ケイオスがわざわざ新しく神様をつくってそれをまたわざわざ封印してるってことか?」


「まぁそういう事になるね、全くケイオスはなにを考えてるのかわからないよ」


するとマコトはふと気が付いた、神々は封印されたはずなのに、なぜこいつはここにいるのかと。


「なんでお前は封印されてねーんだよ、さっき自分で封印されてたっつてただろ」


「ふふーん、全能の神をなめてもらっては困るよ、実は僕だけ下界のものじゃなくて神界と下界の狭間辺りに封印されててね、皆のよりか強い封印だったんだけど、あのぐらいの封印なら何千年もあれば解けるさ!」


(いやなんで胸張ってんだよ、解くまでに何千年もかかってんじゃねーか)


「なにか言ったかい?」


「いえなにも、言ったというより考えたの方が正しいと思うけど」


それは考えたと自白しているようなものなのだが。


「ま、それはさておき、さっさと本題に入っちゃおう」


(軽いなおい、さっきまでのシリアスな雰囲気はどこ行ったんだよ)


「実は、僕から君にお願いしたいことがあるんだ」


「お願い?」


(普通神様がお願いを聞く方だと思うんだが)


「まぁそう固いこと言わずに、それでお願いの事なんだけど、この世界のどこかに封印されてる、十四柱の神々を見つけ出してほしいんだ」


「十四柱の神々?」


「うん、まぁ僕をいれて十五柱いるんだけど、この世界で最も強い神々なんだ、皆を見つけ出してくれれば、僕がその封印を解いてあげることができるんだ」


「おいおい、封印を解くってまた何千年かかるんじゃねーのか?」


「いや大丈夫だよ、内側からは解きにくいけど、外側からなら簡単に解ける様になっていたんだ」


「ふぅーん、っで、なんで十四柱の神々を封印から解いて目覚めさせる必要があるんだ? そもそもなんで俺なんだ? 他にも俺より強いやついっぱいいるだろ?」


「封印を解く理由としては、ケイオスに対抗するため、かな皆で力を合わせれば倒せないわけではなさそうだったしね、それで君を選んだ理由だけど、たまたま近くにいたからだね」


ん? 今こいつはとんでもないことを言わなかったか?


「おいチビ、おいこら、たまたま近くにいたからとはなんだ、てっきり俺は選ばれし者とかを期待していたんだが」


「そんな選ばれたものなんてあるわけないよ、君無能だし、異世界から来た人ってぐらいしか興味を示すようなところはなかったよ」


「おいチビ、言っていいことと悪いことがあるぞ、俺はそっち方面のメンタルは弱いんだぞ」


「あはは、ごめんごめん言い過ぎた、でも、たまたま近くにいたからってのは本当だよ? あの時魔族の男がクロエって子を殺そうとしてたでしょ? あの子にはさっき言った十四柱の内の一柱が封印されているんだよ、それであの男が持っていた剣は神を奪う力を持っていてね、もしあのまま殺されていたら大切な戦力を失うところだったよ」


「え、ちょっと待て、じゃあ一柱めの神様もう見つかっったってことでいいのか?」


「まあそうだね、これであとは十三柱ってことだ」


「……ちなみにその十三柱は何処にいるのかわかるのか?」


「いや全く」


すがすがしくなる程の即答だった。


「は、はは、長い旅になりそうだな……それってあれだろ? 魔族のとこにもいかないといけないんだろ? 俺あんな凶暴な奴のとこいくの嫌だよ」


あんな狂ったおっさんの所に行くなら死んだほうがましだ……いや、やっぱ死にたくない、家でゴロゴロしたい。


「あー、そのことなんだけど、あの魔族は本物であって本物の魔族ではないんだ」


「は?」


「まぁ説明すると、あいつらはケイオスが作り出した駒みたいなもので、人間族の所には魔族を、魔族の所には人間族を攻め込ましているようなんだ」


「ちょ、ちょっとまて、そんなことしたら……」


「戦争が起こるだろうね……本物の魔族達は、今まで一度たりとも人間族を襲ったことなんてしていない、きっと、両国に大きな誤解を生じさせて戦争を起こそうって魂胆だろう、すぐにでも両国の誤解を解かないと取り返しのつかないことになってしまうだろうね」


「そんな……」


また人が死ぬ、下手をすれば、王様やおっさん、クロエも死んでしまうかもしれない。


「戦争を止めることは出来るのか?」


「そのための僕だよ、君には僕、全能の神が付いているんだ、もちろん、加護の力にも期待してくれていいよ」


「わかった、絶対に戦争を止めて、残りの神様を見つけ出してやる」


「うん、これからよろしくね、マコト君」


「おう、よろしくな! チビ!」


「あはは、チビって……一応神様なんだけどなぁ」


「好きに呼べっていたのはお前だろうが……あ、そういえばどうやって戻るんだ?」


「ああ、そうだね、あの子も待ってるだろうからそろそろ元に戻すとするか」


すると、マコトの体が光りだした。


「あの子にもこれを伝えておいてくれるかい?」


「あいよ」


そして、マコトは真っ白な世界から消えていった。


「ふふっ、おもしろい子だな」

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