第三話 異世界
目が覚めると、マコトは自分がベッドの上にいることに気づいた。
服装も、パーカーから病人がきるようなものに変わっていた。
「……ここは…」
そこは、まるでお屋敷の一室のようなところだった。
「あ! やっと目が覚めたみたいね」
部屋の中には、人が二人いた。
一人は、マコトと同年代くらいの少女。
少女は、平均的な女子高生と同じくらいの身長で、不純物のない真っ白な髪に翠玉色の瞳、肌は透き通るような白色だった、そしてなぜか騎士のような格好をしている。
そしてもう一人は、出入り口付近に立っている中年の男だ、こちらも少女と同様に騎士のような格好をしている。
「……君は?」
「私の名前は、クロエ・アレクサンドロヴナ・カランジナ、フルネームじゃ呼びにくいだろうから、クロエでいいわよ」
少女が軽く自己紹介すると、奥に立っていた男が突然慌てだした。
「っ、姫! 見知らぬ男にいきなり自分の名を……」
「いいのよルドルフ、それに、あなただって『姫』って言ってるじゃない」
…姫? 姫とは一体どういうことなのだろうか。
「うっ」
「それに、万が一襲われたって私なら大丈夫だから、ね?」
「……承知しました」
ルドルフと呼ばれた男は、渋々引き下がっていった。
そして、クロエという名の少女はこちらに向き直った。
「それで、あなたの名前は?」
「……マコト…ミカナギ・マコト…です」
「敬語なんていいのよ、見た感じ、私たち同年代でしょ? それにしても、あなた変わった名前ねぇ……よろしくね! マコト!私の事はクロエって呼んでいいから!」
「よ、よろしく……クロエ…」
初対面の女の子をいきなり呼び捨てにするのは、なかなか勇気がいることである。
奥に立っている男は、マコトがクロエのことを呼び捨てにしたのが気に食わなかったのか、少し怪訝そうな顔をしている。
お互いに自己紹介が終わり、話がひと段落したところで、急にクロエの顔が真剣な表情になった。
「ねぇマコト、あなた、森の中で何があったか覚えてる?」
そしてマコトは、森の中で、自分の左腕が無くなってしまったことを思い出した、そして、優助を見殺しにしてしまったことも……
「……あ……そういえば俺…左腕が……いや…そんなことより…おれは……親友を見殺しにしてしまった……」
マコトは、今にも死にそうな表情をしていた、それもそうだろう、目の前で親友が化け物に食われたのだ。外に出る恐怖から、一生引きこもりになったっておかしくはない。
「そう……ごめんなさい…嫌なことを思い出させてしまって」
クロエは、申し訳なさそうな表情をしている。
「いや、いいんだ、あれは俺が臆病者だったからいけなかったんだ……」
マコトは更に落ち込んでいく。
「そっ、そんなことないわよ! 自分より強大な存在に立ち向かうなんて、すごく勇気のいることだもん! マコトが悪いんじゃないよ! ……それに、私がもっと早く救助に向かっていれば……」
そこでマコトは、意識がなくなる直前に聞こえた声と、今目の前にいる少女の声が同じだということに気が付く。
「……もしかして、君が俺のことを助けてくれたのか?」
「あぁっ! 君って言った! 私のことはクロエって呼んでって言ってるじゃない!」
クロエは頬をプゥーっと膨らませている。
(……可愛い)
「うっ…わ、わかったよ…クロエ」
やっぱり初対面の女の子を呼び捨てにするというのはなかなか難しい。
「よし、それでいいのよ」
クロエは、なぜか少し嬉しそうにほほ笑んだ、先ほどまでのシリアスな雰囲気は何処にいったのやら…。
(なんでそんなに呼び捨てにさせたがるんだか……ていうかこの子、やけに明るいなぁ…まぁ、そのおかげで少しは気持ちも楽になってきたけど…)
「ってそうじゃなくて! 俺を助けたのはクロエなのかって聞いてるんだよ!」
「あぁごめんごめん、えっと、一応助けたのは私だよ、もうほんとにびっくりしたんだから、叫び声が聞こえたと思って救助に来てみたら、ほぼ瀕死状態の人がAランクの魔物に襲われてるんだから、あと数秒遅かったらと思うと鳥肌が立つわよ……」
クロエの発言の中に、いくつか聞きなれない単語が出てきた。
「……ん? Aランク? 魔獣? ……そういえば、俺が意識を失う直前、炎の弾丸が見えたんだけど…」
「え? 何今更当たり前のこと聞いてるのよ、Aランクは魔獣の強さを表すもので、魔獣は世界中にはびこってる、あらゆるものに害を及ぼす奴らのことだよ? それに、あのとき使った魔法も……もしかして、記憶喪失? ……それは大変なことになったわね」
魔獣の強さ? 害を及ぼす奴ら? それに魔法? いったいどういうことだろうか。
「でも、自分の名前は覚えてるのよね? ……そうだ、ステータスを見てみたら?」
「……ステータス?」
「まさか、ステータスのことも覚えてないの!?」
「う、うん」
「あのね、ステータスっていうのは、自分のレベルとか、能力値とかを見れる便利な機能でね、この世界に生まれた生き物全員が持ってるものなんだよ、ほら、試しに心の中でステータスって念じてみて」
(……ステータス)
マコトは言われたとおりに、心の中でステータスと念じた。
すると
「うわ、なんだよこれ」
目の前に、まるでゲームの世界に入りこんだかのように、ステータスウィンドウが現れた。
「どう? 見れた? ステータスは、基本他の人には見えないようになってるの、一応人物を指定して念じれば見せられるようにもなってるけど、レベルだとか能力値だとかが見られちゃうから基本皆見せないようにしているの、それで? どうだった? なにか特別な力とか持ってるの? ねぇねぇ!」
クロエは、目をキラキラさせながら聞いてくる。
(さっき、ステータスは基本見せないとか言ってなかったっけ?)
「ちょっと聞きたいんだけど……なんでそんなに俺のステータスに興味津々なのかな?」
「だって! 森の中にいて、変わった名前で、記憶喪失で、この世界には珍しい黒髪に黒い瞳だよ? 絶対になにか特別な存在だと思うじゃない!」
「いや、クロエが期待するような特別な力はたぶん持ってないと思うよ、この世界の基準はよくわからないけど、間違いなく凡人ってことだけは言えるから」
「……そう、残念…」
クロエはわかりやすくがっかりとしている。
(……そんなにがっかりされると心が痛むんだが……それにしても、黒髪が珍しい、か…それにさっきからこの子がいっている魔獣とか魔法といったものが存在する世界………やっぱり、可能性があるとすればあれだな………)
ここまで条件がそろってしまえばもう間違いない。
マコトが苦手な教科の授業中によく妄想していたあれだ。
そう……
(異世界召喚)
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