第二話 親友の死

意識が朦朧とする中、ミカナギ・マコトは、少しずつ意識を覚醒していく。

今、マコトは、草むらに寝転がる形で眠っていた。


「……ここは?」


辺りは背の高い木々に囲まれていて、日があまり当たらず、薄暗かった。


「……森…なのか?」


マコトは、先ほどまで自分がどんな状況にあったのかを、冷静に思い出そうとする。


「…あ……おれ、確か飛行機から…」


ブルブルッ


「おぉう、その前にトイレトイレ」


マコトは、辺りに人がいる訳でもないのに茂みの奥へ入っていった。



じょろろろろろろろろろろろろろろろろろ~



「なんかやけに長いこと出たな…そんなにたまってたか?」


用を済ましたマコトは、もう一度今の状況を整理し始める。


「えーと、修学旅行で飛行機に乗って、なんか爆発音して機体に穴あいて外に放り出されたのか………ナンデイキテルノ?」


内容が衝撃的過ぎて、思わずカタコトになってしまった。


「いや、まぁ生きてることはうれしいんだけど………まさか! 日頃の行いがよかったから神様が助けてくれたのか! ………ってんなわけねーよな~」


ちなみに、先ほどから独り言が多いのは、独りぼっちで見たことのない森の中、という恐怖を紛らわすためである。


「ん、そういえばおれ以外にも飛行機から放り出されたやついたよな……皆を探さねーと」


ここに突っ立っていても何も始まらない、ということで、マコトは辺りをを探索することにした。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




(にしても、飛行機事故でよく助かったよなぁ、皆も生きてたらいいけど)


マコトは腕をくみ、瞑想しながら歩いていく。


(……死体とか転がってねーよな………いや、やめよう、こんなことを考えていても、思考がどんどんマイナスの方向に進んでいくだけだ)


コトッ


足に何か、かたいものがぶつかった。


「ん?」


マコトはなんだと思い、下を見た………否、みてしまった。







――それは……人間の腕だった。


「っ!?」


その腕は、二の腕の半分より上が、まるで何かに食いちぎられたように消えていた


「ぅ…おぇ……」


マコトは、本物の死体の衝撃に耐えきれず、思わず吐いてしまった。


(おいおい、なんでこんなとこに、人間の腕が! ……それに、この腕時計……)


マコトが注目したその腕時計は、マコトのクラスの担任である、佐藤先生が付けていたものだった。


(まさか……先生はもう……)


佐藤先生は、明るく誰からも愛される先生で、マコトも、佐藤先生のことが好きであった。

loveではない、likeのほうだ。それだけに、この事実はマコトにとっても、かなりショックな出来事であった。


(……せめて…土に還してあげよう)


マコトは、自分に血がついてしまうことも気にせず、優しく、先生の腕を土へと還した。


「さようなら……先生…」


マコトは、先生にさよならを告げ、静かにその場を去っていった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「それにしても、先生の腕の千切れ方、あれは動物か何かに食いちぎられたように見えた気がする……」


それだけでは無く、火傷のような傷を負っていた気がした。


「いや、食いちぎられたってのは何かの間違いか、飛行機から放り出されるときに、どこかに挟んだのか? 火傷の方は、飛行機から炎が上がっていたからなんとなく説明はつくし……」


先生の腕の千切れ方に少し疑問を残しつつも、マコトは探索を続ける。

するとその時。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「っ!? なんだ!? いや、それよりも今の声は……」


マコトは、聞き覚えのあるその声の方へと走っていく。



そして、そこにいたのは。



「ゆっ!?」


優助であった。名前を呼ぼうとしたマコトだったが、思わず途中で止めてしまった。

なぜなら……


(なんだよあれ……)


「グルァァァァァッ!!」


優助の目の前にいたのは、大人のゾウと同じぐらいの大きさのオオカミであった。否、オオカミのような生き物であった。

その姿は、マコトが知っているオオカミとは大きく違い、その異様な大きさもそうだが、瞳は血のように赤く、毛色は闇そのもののような漆黒であった。


「ひぃっ!!」


優助の顔は、涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃであった。


(優助のやつ、あれに襲われてんのかよ……)


すると、優助と目が合った。


「あっ」


「ま゛…まご、とっ?……た、たずっ、たずげでぇ……」


「グルァァァァァ!!」


「ひぃっ!!」


(くそっ、なんだよ……)


マコトは動けなかった。

恐怖のあまり、足がゆうことを聞かなくなってしまったのだ。

だが、たとえ足が動いたとしても、マコトはすぐにこの場から逃げ去ってしまっていたであろう。

マコトだって怖いのだ。あの巨大な漆黒のオオカミのことが。


「っ、まごど!!」


次の瞬間、今まで動かなかった漆黒のオオカミが、優助にとびかかった。


「い゛、い゛や゛だ! じにだくな゛い゛っ! がぁ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


優助は、腕を食いちぎられ、腹を裂かれ、内臓を抉り出されていた。


「優助っ!!」


優助の意識は、もうなかった。

その時、漆黒のオオカミがこちらを振り向いた。


「……あ」


「グルァァァァァッ!!」


その声をきいた瞬間、今まで動かなかった足が動いた、マコトは、今までにないくらいのはやさで、漆黒のオオカミから逃げていく。


(なんなんだよ……! なんなんだってんだよ!!)


マコトは、ただひたすらに走った、道なき道を、優助がいたところから、ただひたすらに。

そして……


コテッ


マコトは小さな段差に、右足をくじいた。

そしてそのまま、マコトの体は右へと傾いていく。

次の瞬間、マコトの左側を、人間を一撃で死に至らしめる、赤黒い光線が走った。

その光線は、マコトの左腕を掠り……


「……あ」









――マコトの左腕は、無くなっていた。



「あぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」



マコトは左腕を抑え、痛みに悶えながら転がりまわった。


「あづい! あづいぃぃ!!」



マコトの左腕は、高熱の炎で溶かされたかのようにドロドロになっていた。



「くそ!! なんでこんなことに!!」



左腕から流れる血液は止まらず、徐々にマコトの意識を奪っていく。


(……くそっ……結局死ぬのかよ……こんなことなら、飛行機事故で死んでりゃあよかった……)


漆黒のオオカミは、まるで獲物が苦しむ姿を楽しむかのように、ゆっくりと近づいてくる。


(なんだよ……なんでおれがこんな目に…)


左腕の痛みも感じなくなり、マコトはもう喋ることすらできなくなっていた。


そして、漆黒のオオカミが目と鼻の先までやってきた。


(はは……終わったな……)



マコトが、完全に生きることをあきらめかけたその時。


「ダメェェェェェェェ!!」


無数の炎の弾丸が、漆黒のオオカミを貫いた。


(……今のは………一体…)




――そして、マコトの意識は深い闇の中へとおちていった。

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