挿入 -11-

 ザンクは待合の椅子に腰掛けると、白髪交じりの髪をかいた。見るからに加齢臭漂うおっさんだが、武器の知識は看板掲げて商売するだけのものは持っている。

「大体のことは、行き掛けに聴いたよ。まさか《ファング》から女が二人出てくるとはなー。おめえさん、なかなかのアタリ引いたんじゃねのか」

「アタリとハズレ両方引いた気分だ」

 俺はぶっちゃけた。

 どっちがアタリでハズレなのか、聞きたそうな顔を二人はしていたが俺はそっぽを向いてごまかした。

 ザンクは出されたお茶を啜って語り始めた。マファは苦手らしくてやらない。

「これは、武器商工会の連中から聞きかじった話だ。《ファング》てのは異世界の力を封じ込めているのは知ってるな。だから大抵は、武器をばらすと出てくるのは魔獣とか悪魔とか見たことがない武器とかそんなもんなんだ。人間が出てくるなんて話はあんまり聞かないね」

「あんまりってことは、あるんだな」

「噂程度だがな。それは、本当だったようだ」

 ザンクは、スピカとアケミをマジマジと見つめた。それはスケベな目つきではなく、武器の品定めをしている職人の目だ。

「なあ、この二人はもう剣に戻らないのか」

「さあて、分からん」

「分からんっておいおい」

「知ってたら買ったおめえさんに教えてるわ。おいらも職人の端くれだ。いくらザリュウが貧乏干上がり冒険者でも、差別はしねぇべ」

 語尾に「べ」をつけるのは、ザンクが本心を語るときの癖だ。本人は気づいていないようだが、言葉に嘘はないらしい。貧乏干上がりだけは余計だ。

 飲み終えた湯呑みを置くいたザンクは、腕を組んで言った。

「おそらくだが、もう一回刺せば元に戻るんじゃないか。道具なんてものは、大抵そんな風にできてる」

てっきとう・・・・・だな、おい」

「合理的な考えって言え。ほれ、やってみな」

「やってみな、て言われても」

 一体どこにどう挿せば良いのやら。

 ふと、アケミさんとの夜を思い出した。あんな感じでアソコに挿せば良いのか?

 俺はスピカに詰め寄った。

 スピカは一歩引いた。

「なによ」

「おまえ、専属になるって決めたんだろ。覚悟を決めろ」

 俺は革フォルダーから、剣身が抜けた《ファング》を抜いた。

「な、何する気」

 壁に近づき、左手で壁をドンとしてしまった。その斜め下にスピカがいる。

「や、やだ……」

 まんざらでもない様子を見て、俺は膝を曲げた。ちょうどスピカと目線が合わさる。

 彼女は両手を胸の上に組んで、顔を真っ赤にしていた。ジタバタしないならちょうどいい。

 スピカが目をつむって口を尖らせた瞬間、俺は《ファング》をスピカの股に刺した。

 すると、みるみる身体が小さくなり、元通りの剣身に戻ったのだ。

 俺は唖然として、ザンクを見た。するとおっさんは、片目をつむって親指を立てた。

「ほぉら、言ったとおりだべ」

『ちょ、ザリュウ、一体これどうなってんの。身体が動かないし、何も見えない』

「な、喋った⁉」

『ちょっと、聞こえているなら返事してよ』

 今にも泣きそうだったので、みんなに見せるようにして返事をした。

「聞こえている」

『ねえ、どうなってんの』

「お前は今、《ファング》に戻ったんだよ」

『ウッソ、やだ。なにそれ』

「私の声は聞こえる?」

 ミサキさんが聞くと、返事が返ってきた。

『うん……』

「聴覚はあるようね。視覚はないみたいだけど」

『やだ、何も見えないなんて。元に戻してよ』

 俺は言った。

「本当に何も見えないのか。まあ確かに目はついていないが。……⁉」

 俺の左目が突然ゾクリとした。

 慌てて目を押さえる。すぐに収まって手を離した。

 ミサキさんが顔を覗かせた。

「ザリュウ、どうしたの」

「いやなんでも」

 大きく揺れたミサキさんのおっぱいは確認できた。目はやられていない。

「ザリュウ、あなたの目の色、どうしたの?」

「え?」

 俺は剣身を鏡にして左目を見た。すると、目が赤く変わっていた。

『あ、見える。見えるようになった。って、これザリュウの顔じゃないの』

「なんだと? お前、同じものが見えているのか」

 試しにミサキさんを見た。

「今、どこを見ているのか当ててみろ」

『ミサキさんの胸。あんた、どんだけおっぱい星人なのよ』

「せ、正解」

 ミサキさんはさらに前腕で胸を押し上げてみせた。もう俺の視線では全く羞恥が無くなったと、十五の頃に言われて、男としてショックを受けたのを思い出した。

 俺の視覚とスピカの視覚が共有されるなんて思わなかった。

 とりあえず、もう一度剣身を抜いて、スピカを呼び出すことにした。

 出てきた彼女は背伸びをした。

「んーっ。やっぱりこっちのがいいわ」

「どうやら、アケミさんも同じように戻るっぽいな」

 とアケミさんを見ると、肩をすくめた。

「ねえ、剣に戻すたびに、アソコにそれ入れるの? あなたのおち◯ちんならまだしも、剣の趣味はないわよ」

 スピカの顔が真っ赤になった。

「もう、何を言ってんのよアケミさん。この際言っておくけどね、毎晩毎晩ヤッてて私はいい迷惑なのよ。うるさくて寝れやしな……ってもしかして、そうやって戻したの」 

 俺は頷いてから聴いた。

「何も感じなかったのか」

「分からなかったわよ。初めて壁ドンされて、……ドキドキしたんだから。ていうか、なに入れてんのよ、この変態」

 ビンタが飛んできたが、ゴブリンよりも遅いスピードなので掴んで止めた。

 そういえば、スピカはまったくこれに触れなかったな。

 そんなこんなやり取りが、まだずっと続くわけだがアケミさんへの下りはほぼ同じなので割愛させてくれ。結論として、アソコに入れないと《ファング》に戻れないことは確認できた。が、アケミさんだけはどうやら入れるときに感覚があるらしい。

 そしてようやく、スピカの足が治療されたのだった。

「助けてくれ、オークが!」

 ……、俺は二本目のマファを吸わざるを得なかった。

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