魔剣分解 -2-

 勢いで買ってしまった。

 よく考えたらいろいろおかしい。

 なぜ、まだ売れ残っていたのか。《ファング》なら破格の値段らしい、ならば売れ残っているのは変だ。

 なぜ、こんな田舎街に入荷されたのか。ワケアリということは、呪いでもあるのか。

 なぜ、宮廷が管理しないのか。だいたい《ファング》なら宮廷魔術師が作成する大掛かりな製作品だ。なにせ異世界の力を封じ込めるんだからな。しかも、『選ばれし者』てのはある程度融通出来るらしい。

 そう。

 俺が、『選ばれし者』なんて事自体おかしい。「わが国に選ばれし戦士が誕生したぞ!」ていう触れ込みが出来なくなるだろ。あれが大抵はヤラセだってことくらい二十歳の俺でも分かる。信じていいのはガキまでだ。

 脳内御託なんぞ並べても銅貨一枚にもならん。

 とりあえず家に持って帰って見たものの。

「すごく、騙された気分だ」

 そもそも、繋がっている鎖が短すぎる。定規で図ると五センチくらいか。太さは全体で一センチくらいの太めだ。

 刃渡りは、どちらも約六十センチに幅3センチ。柄の長さは三十センチくらい。短すぎずちょうどよい。どうも、右用左用と分かれているらしく、逆に持つと違和感がある。

 今気がついたが、この双剣、すっごく地味だ。こんなもん、コレクターも食いつかんわ。

「これで、せめて鎖が……。あ、切るか」

 自前の作業台に置いてヤスリを鎖に当ててみたが、切れない。何度こすっても切れず、ムキになって擦るが、削れない。

「あ⁉ 台が削れてんじゃねーか。まさか」

 左用を持ち上げてヤスリを鎖に当ててみると、まるで湯気を通るようにスッカスカだ。ヤスリを置いて素手で触ると、ちゃんと感触がある。

 額に手の甲を当てながら考え込む。

「とりあえず、いっぺんバラすか」

 剣てのは、柄と剣身が分かれた構造になっている。簡単な力で分解でき、どんな衝撃でも緩まない。

「あれ? これ剣と柄を繋ぐタングがないぞ。一体成型には見えないが……」

 ガチャガチャ触っていると、刀剣と柄の間に軽い遊びがあるのに気がついた。刃に触らないように、フラー(剣身の面に通った溝)を摘んでゆっくりと捻ると中から枝のように細い剣身が現れた。

「これ、鞘なのか。両刃の柄? 意味わから……」

 ほんとうの意味で意味がわからなくなるのはここから先だった。

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