両手に花なのか剣なのか
初めての
選ばれし者 -1-
南にしばらく行けば商業街だ。小さいが生活する分には全く困らない。なんなら娼館だってある。
素人童貞なんて自慢にもならんから行ってない。第一、あそこはリリスしかいない。
そんなことを考えていると、ザンクの武器屋にたどり着いた。相変わらず小汚いおっさんだが、見る目は確かだ。表通りから外れた場所に構えていても常連は多い。
「よお、ザンク。珍しいの入ったってきいたぞ」
「貧乏剣士のザリュウかい。ああ、入ったよ。ワケアリらしいが」
「見せてくれよ」
「いいよ」カウンターの下を探った「ほら、これだ」
広げられたそれは双剣だった。右側は太く長い刀剣で柄は手の込んだ彫り物がなされている。左側は細身く短めの刀身だが、柄は同じだ。でも気になったのは、柄尻が赤い鎖でつながれていることだ。
「なあ、この鎖短すぎないか。こんなんじゃ得物にならねぇよ」
「く、鎖? はて。そんなもの置いてたか?」
「置いてたじゃなくて、ほら繋がってるだろ」
「おいらにはさっぱり見えんな。でも、お前さんが患っていないのは確かだべ」
というとザンクは双剣の片側だけを持ち上げてみせた。
すると、繋がった鎖に釣られるようにもう片方の剣が持ち上がる。
「ほら、繋がってんじゃねーか」
「こりゃこりゃ。お前さんには見えるみたいだな。ここに売りに来たやつも含めて、誰も見えとらんのだよ。片方を持つと片方が浮く。しかも短すぎて使い物にならない」
「じゃあ粗悪品じゃねぇか。どうして買い取ったんだよ」
「この双剣、《ファング》なんだとよ」
「なに⁉ マジかよ」
「ほれ。隣町の鑑定書付きだべ。サインも刻印も本物」
「鎖が見えてない……たしかに聴いたとおりだが」
《ファング》とは魔剣の一種だ。なんでも異世界からの力を封じ込めたとんでもなく強い剣らしい。ただし、選ばれた者以外は使えない。だから大抵は宮廷行きのはずだ。
俺は鎖を軽く指でつついてみた。
するとぶらーんぶらーんと揺れた。
ザンクは驚いた。
「本当に見えるんだね、おまえさん。安くしとくよ」
「ちっ。なんか選ばれたらしいな。まあ悪い気はしないか。幾らだ」
「金貨十枚」
「げっ、マジかよ。……金貨一枚」
「は⁉ これだから商売の知らねぇやつは。金貨八枚」
「金貨三枚半」
「金貨七枚半。これ以上は無いよ」
「ったく、足元見やがって。金貨七枚ピッタリでどうだ!」
「仕方ない、それで妥協するよ」
「ボリやがって」
「馬鹿言うんじゃないよ。本物のファングなら金貨100枚付けたって安いわい」
「……そんなに訳ありなのかよ」
「もうお前のもんだ。ほら、金払いな」
「ほらよ、持ってけ泥棒」
「それはおいらの台詞だよザリュウ。毎度あり」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます