異世界住人が集まる異世界の冒険者と魔双剣のお嬢がふたり

瑠輝愛

プロローグ

いつもの狩り

 ゴブリンの鎚撃を双剣の左でいなした刹那、俺の頬をその刃がかすめた。怯まずすぐさま翻って背後に周り、右の剣で緑色の首に突き刺した。

 引き抜いて距離を取った食後、パキーンと金属音がまた鳴った。

 ゴブリンはそのまま絶命してくれたが……。

「とうとう折れたか」

 形見としてずっと使い込んできた双剣は、やはり無理があった。

 随分前から違和感があった。研いでいるときも狩りをしているときも、手応えが鈍くなっていた。

 感傷に浸っている場合ではない。そこら辺に転がっているゴブリンの死体――だいたい十体くらい――の心臓に薬をかけて、その魔石を剥がす。早くしないとまた別のモンスターに出くわしかねない。ここは《ゴブリンの森》なのだから。

 魔石になったゴブリンの心臓を、ザッパーに封じ込めた。この円盤石がなければ冒険者なんて家業はやってられない。テントもナイフもなんでもこの小さな石が吸いこんでくれる。重さがその分のしかかるのは仕方ないが、邪魔にならないのはありがたい。

 朝から出立して昼過ぎになっていた。

 ギルドからの依頼分はもう狩り尽くしたので撤退だ。

 《ゴブリンの森》を何事もなく抜け、ギルド《海の風》に到着した。

「おかえりなさい、ザリュウ」

 ギルド長のミサキさんがホウキ片手に出迎えてくれた。この時間帯は大体、店の周りを掃いている。あの巨大すぎる胸がいつものようにコルセットの上でたゆんと揺れていた。邪魔にならないのかといつも心配してしまうが、当人にとっては慣れたものだろう。

「ミサキさん、ただいま」

 それを聞くと安心したように、ミサキさんはブラウンの長い縦ロールから耳を出した。かっちりした髪型ではなく癖っ毛で、乾くと勝手にこうなるのは悩みのタネと聴いていた。でも今は唯一のアレンジヘアである大きなリボンにポニーテールをしていた。

「無事で何よりね」

「依頼こなす間に、スライムやらコボルトやらが絡んできたが何とか。ついでにオーク殺っといた」

「オーク? こんな時間に? やだわ」

「浅い洞窟に隠れていたらしい。そこにスライム追いやってやったから、また来ても溶かされるさ」

「だといいけど」

「じゃあ、受付に渡してくるよ」

「いつもありがとう」

「いいって。このギルドをでっかくするのは俺の夢だしさ。このあと、街に行ってくる」

「お買い物?」

「ああ。……これの代わり探さなきゃ」

 俺は折れた双剣をミサキさんに見せた。

「あんなに大事にしていた、カンナギの形見が。残念ね」

「覚悟はしていたから」

「そういえば、ザンクさんが珍しいもの手に入れたってウチの店員に言ってたらしいわよ」

「じゃあ、あいつの武器屋行ってくるよ」

 俺は魔石を受付に渡して、報酬をもらった。これでやっと金貨一枚程度、大した稼ぎにならないけどこれが俺の仕事だ。

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