オークを知ると戻れない
耳をすませば -1-
炭鉱跡の中は真っ暗だ。昔は石炭とか燃料を掘っていたが、地下に進むうちにモンスターの巣窟に出くわした。危険と判断した抗人たちはここを封鎖したのだ。今でも定期的に門をチェックしておかないと、モンスターたち――とくに色情に狂ったオークども――が夜に街へ押し寄せてくる。
何も見えない。女たちが拉致されている以上は灯りが使えない。暗がりには慣れていないので手探りで進んでいく。
『見えるわよ』とアケミさんが言うと『右目に集中して』と促した。
俺は言うとおり左目を手で隠して集中してみた。するとみるみる洞窟が明るくなっていく。いや、白黒の色しか見えないから、夜目が効いているといったほうが正しいか。
左目を開けても大丈夫だ。
「これがアケミさんの魔眼か。……ん? ちょっと待て。まさか毎晩真っ暗な部屋でやってるときも」
『ふふふ。あなたの感じている顔、可愛いわよ』
「うわっ……」
穴があったら入りたい。いや、ここがその穴なんだけれど。
スピカが洞窟に響くような大きな声で言った。
『なにこれ、真っ暗だったのに!』
それはものすごい反響音となってこだました。
「しー。声がデケェぞ。周りの連中にも聞こえるんだからな。……やれやれ、起きてたのか」
『何よ、悪い?』
「大丈夫なのか。ショックだったみたいだが」
『他の、同じ世界から来た人を探す。決めた』
「帰るためか」
『そうよ。前向きに考えることにした』
「そうか」
『そうか、って何よ。これでも一生懸命考えたんだから』
「しっ。地下に続くハシゴだ。降りるぞ」
慎重に足をかけ、降りていく。魔眼のお陰で下の様子をうかがうことができた。下にはなにもいない。俺は革手袋を利用して一気に滑り降りた。
地面すれすれのところで一旦足をかけて止め、ゆっくりとハシゴから離れた。音を消して進む重要なテクニックだ。
「いいか。此処から先は本当に何が起こるか分からん。大きな声を出すなよ」
『あ、私。さっき』
「大丈夫だ。上の階でいくら騒ごうとここまで聞こえてこない。幸い上にはモンスターがいなかったが」
『気をつける』
「そうしてもらえるとありがたい」
耳を澄ます。
水滴の音に紛れて、呻き声のようなものが聞こえてきた。
俺は《ファング》を抜刀し、足音を立てないようにゆっくり近づいた。
更に耳に神経を尖らせる。
「……あ……う……」
「ぶひっ、……フッフッ」
「……あん……いや……もう……やめて……」
『やだ、これまさか』スピカが恥ずかしそうに呟いた『エッチの声じゃ』
流石、毎晩アケミさんとの行為を聞いて寝不足になっているだけのことはある。
「ご名答、のようだぜ。いいか、覗くぞ。見たくなければ目を閉じとけ」
《ファング》の視覚は俺とつながっているが、これは彼女らの意思で遮断、つまり閉じてしまうことが出来る。俺は魔眼ではない普通の目になるだけだから、特に支障はない。
「十、九、八、七……、三、ニ、一」
猶予を数え終わり、ゆっくりと様子をうかがった。
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