すぐ治るよ -8-

「落ち着け、スピきゃん。ミサキさんが目を回しているだろ」

「あ、ごめん」

 俺は吸い終わったマファの灰皿をミサキさんの鼻に近づけた。

 気付け効果で視点を戻したミサキさんが、あらあらと困った顔をした。

「ザリュウ……? ありがとう」スピカに向き直り「いったい、どうしたんですか。何か訳でも」と聴いた。

「私の脚、中学の頃に交通事故でめちゃくちゃになって。夢だったアイドルを諦めなきゃならなくなったの。でも、もし治せるなら」

「治せますよ、すぐに」

 あっけらかんと言うミサキさんに、スピカが目をぱちぱちさせていた。

 そんなに驚くことか?

「本当なの? 本当に本当に本当にぃぃぃぃぃぃ本当?」

「ええ、ええ」

 ミサキさんも首を傾げていた。

 俺もしつこいぞ、と突っ込もうとしたが当人は真剣だったので無粋なことはやめて黙っていることにした。

「じゃあ、治してよ」

「でもですね。条件があるんです」

「何よっ。さっきと言っていることが違うじゃない」

「オーラはすぐにかけられます。ですが、冒険者ギルド商工会の取り決めがあるんです」

「何? もったいぶらないでよ」

「それはですね、ギルドの専属冒険者になってもらうことなんです」

「専属?」

「はい。それ以外は料金を取らなければならない決まりなんですよ」

「いくらよ」

「金貨十枚」

「ザリュウ、払って」

 いきなり言われてびっくりした俺は慌てて首を振った。

「無理に決まってんだろ、そんな大金」

「なによ、こんな美少女を見捨てる気なの?」

「おまえ、キャラがブレブレだぞ」

「いいから! 払ってよ」

「あのな……。金貨一枚で、お前らが一ヶ月前にどんちゃん騒ぎやった夜を10回は出来るんだぞ。金貨十枚なんて、俺のニ年分の稼ぎだよ」

「ないわけ? この貧乏人」

「ああ……。どうせ貧乏ですよ」

 お前らを武器屋で買ったときに消え、メシ代で消えたって言い返したいが、最近ろくなもん食ってないからそんな気力もわかない。

 ミサキさんが手を少し挙げた。

「ですから、私のギルドの専属になっていただければ、無料で治せますよ」

「そ、それを早く言いなさいよ」

 ……。もう心の中でもツッコまないからな。

「ですが、良いのですか? これからはザリュウさんの武器として行動を共にする、という誓約でもあるのですよ」

「なんでよ。武器って私は人間よ」

 ミサキさんと一緒に俺も首を振った。

「いいえー。あなたは《ファング》ですよ」

「違う! 私は人間……あれ? 頭が」

 さっきまでの威勢が消沈し、椅子にぐったりともたれこんだ。

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