隠しきれない事 その2 -7-

 聞けば、アケミさんたちの世界では蘇生なんて不可能らしい。

「それは大変だな。一度死んだら終わりなんて、危険な仕事やってられんよ」

「それでも、命をかけてやってる人もいるの。大体、死んでから生き返るなんて夢物語か狂信的なカルトくらいしか思わないの」

「いろいろあるんだな」

「ねぇ。それなら、ザリュウの育ての親……カンナギさんだっけ? 生き返らせればよかったじゃない」

「……仕方なかったんだ。カンナギさんの死は二回目だったから」

「一回しか出来ないの?」

「いや。二回まで出来る。だけど、二回目は沢山のゴールドを供物にしなきゃならないんだ」

「当時の」ミサキさんが続けた「私達のギルドでは、そんなお金もなかったの」

「お金をためてからじゃ駄目なの?」

「いつまでも待てるものじゃないの。丸一日までが限度。それ以上は、身体のどこかしらに障碍しょうがいが出ることを覚悟しなきゃならない。しかもそれは魔法では絶対に直せない呪いみたいなもの。それを一生背負うことになるの。だから、私たちは……諦めたの」

「そう、だったの。ごめんなさい、私ったら何も知らないで。じゃあ、あなたは。ミサキさんはどうして若いままなの?」

「蘇生されるとき、稀に永若エイジャ化するの。千人に一人、万人に一人とも言われていて。それがたまたま私だったの。でも、あんまり良いものでもないのよ」

「どうしてよ」

「まあ、いろいろとね」

 ミサキさんはそれ以上語ろうとしなかった。ガキの頃、俺も同じ質問をしたが教えてくれなかった。

 アケミさんがまた質問してきた。

「ねぇ。今更かもしれないけど、ゴールドなんてボッタクリも良いところじゃないの。なんかムカつく」

「違うんだ」俺が答えた「成人一人を生き返らせるのに、ゴールドが一◯◯kg必要なんだ。まあ、金持ちしか二回生き返られないのは確かだが」

「ふうん、教会もボロいわ」

「教会? 違うぞ。蘇生させるのは冒険者ギルドだよ。《覚醒オーラ》ていう高難易度の魔法を使う奴が所属しているのはそこだけだ。まあデカいギルドにしかいないけど」

「オーラって何」

「ちょっと待ってくれ。立て続けに質問されると、流石に疲れる。一服させてくれ」

 俺はザッパーからマファを取り出し、ライターから火を付けた。頭がすぅーとしてくる。

 アケミさんが嫌な顔をしていった。

「タバコ?」

「タバコは知らないが、これはマファっていう煙薬だ。吸えば気持ちが落ち着いて頭がスッキリしてくる」

「麻薬なのそれ」

「違う。そういうヤバイ薬はこの世界にもあるけど、コイツは常習性はない。毎日吸うやつもいるけど、俺は数日に一回しかやらないよ。吸ってみるか」

「遠慮する」

 マファの煙は少ない。迷惑がかからないからミサキさんも特に嫌な顔をしない。

 落ち着いたところで話の続きだ。

「オーラってのは、治療魔法だ。ランクがあって、俺がアケミさんに使ったのが低級。中級は、切れた腕や脚を元に戻せるし、上級なら内蔵や胴体も戻せるようになる。それらを含め、覚醒は蘇生も出来るって……」

「いま、なんて言ったの」

「スピカ?」

「スピきゃん」と訂正を挟んで「だから今なんて言ったのよ」

「覚醒は蘇生も」

「違う! その前」

「ああ……、切れた腕や脚を戻せる?」

「それ、本当なの?」

「ああ。ミサキさんが中級使えるから、できるけど」

 スピカがミサキさんに大げさに振り向き、肩を掴んで揺らした。巨大な胸がぷるんぷるん揺さぶられる。

「ねぇ、お願いがあるの」

「は、はい?」

「脚を治して」

「脚? でも、スピきゃんの脚はあるじゃないですか」

「……違うの。これ義足なの」

「義足?」

 もう! と言いながら長いズボンの右裾を上げた。すると、人間の脚ではない杖のような物が出てきた。見たことがない。

「今まで隠してたけど、私の右足、ないの。だから、治して! 治せるのよね」

「と、とにかく落ち着いて。頭がクラぁクラぁしますぅ……」

「あ、ごめん」

 このやり取りの間に、俺はミサキさんのおっぱいが十五ぷるんしたのを見逃さなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る