奇跡じゃないよ

隠しきれない事 その1 -6-

 昨夜のことは、隠しておくべきなのか。自慢するべきなのか。

 なんて悩んでいる俺の気を知らず、毎晩のように襲ってくるアケミさんに、俺はすっかり調教されてしまった。宿代も馬鹿にならんのでもう自宅で寝ているが、スピカが隣の部屋で寝ていようがお構いなしだ。

 そんなこんなで、冒険家業は植物や石の採取だけになってしまった。ミサキさんにその理由を打ち明けたのは、一ヶ月経ってからだ。余談だが、スピカはとっくに気づいていたらしい。

 そのためにも二人を初めてギルドに連れてきた。

 それを聴いたミサキさんは、困ったような笑いをした。

「うふふふ。それはそれは」

「剣が無い今では、狩りに出れなくて。すんません」

「いいわよ。流れの方々とかがやって来てくれてたから、ギルドとしては大丈夫だから。だけれど……」

「はい?」

「アケミさん、本当に五十ちょっとなの?」

「ええ。本人がそう言ったんだけど」

「なんだが、若くない? どんなに多く見積もっても二十歳後半に見えるんだけど」

「え? あ、ああああああ」

 俺は今気がついた。

 お茶を飲んでいるアケミさんは驚いた俺の顔を見て、天使のように微笑見返した。

 毎日顔を見ているから全く気が付かなかった。

 そういえば、夜のアケミさんの肌触りが妙にハリ・ツヤが出てきた気がしていたんだ。

「毎晩しているから、かしらね」

「そんな訳は」

「よね? 異世界の人は若返るのかしら。それも聴いたこと無いけれど」

 アケミさんがこちらに歩いてきた。

「決めたわ、私」

「何を?」

「私、この異世界に残る! 絶対に帰らないんだから」

「は、はぁ」

「何よ。これでも悩んでたんだよ」

「でも、どうしてまた。俺に惚れたわけじゃあるまいし」

 そうである。

 アケミさんから「アンタには惚れてないから」と、セフレのような関係を宣告されていた。そんな連中は別に珍しいことでもない。正直、少々残念だったが。

「それとは関係ないわ。この若さよ。ここに来てからたった一ヶ月でここまで若返るなんて。一晩で一年若返った気分よ」

「それとこの世界となんの関係が」

「わからないわ」

「は?」

「だけど、《ファング》になってからこうなったのは確かよ。私もう一度『女』をやり直せるのよ!」

「はぁ」

「ザリュウはまだ若いから、わかんないのよ」

 ミサキさんが拍手をした。

「良かったわね。アケミちゃん」

「む。わたし、こう見えて五十二歳なんですけどっ」

 俺は慌ててフォローに入った。

「アケミさん、ミサキさんは」俺は耳にごにょごにょした「だから」

 それを聴いたアケミさんの顔が、みるみる蒼白していった。

「「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ」」

 耳が痛い。海の彼方まで声が飛んでいったんじゃないか。スピカまで何故か絶叫している。いつの間に聞き耳立ててたんだ。

 アケミさんの声が震えていた。無理もないが。

「あ、あ、あなた。ごごごご……」息を一旦飲んだ「五十八歳ぃぃぃぃ⁉」

「はい、そうですよ。皆さんビックリしすぎるので、隠しているの」

「どうみても、今の私よりも若いじゃない」

 俺から見ても、ミサキさんは若い。事情を知らなければ、十七歳と言われても信じてただろう。

 ミサキさんは説明した。

「わたし、《永若エイジャ》なの」

「エイジャ? 何とかの冒険に出てくる?」

「それは、存じないけど。蘇生した影響で年を取らなくなってしまって」

「蘇生って何よ」

 俺はもう一度フォローを入れた。

「ミサキさんは、一度死んでいるんだ」

「は?」

「『は?』 て蘇生なんて普通だろ」

「そんなわけないでしょうが!」

 訳がわからないことを言ってんな、アケミさん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る