もう一人の異世界……娘? -4-

 作業台に戻り、右手用の双剣の柄を捻った。

 すると今度も剣身が飛んでいき、スピカの反対側の隅に鎮座した。やっぱり女だ。

 かなり長めのスカートに赤色のセーターを着ている。胸はスピカより大きいが、ギルド長のミサキさんほどではない。髪は長めで肩まで垂れているロング。そしてスピカと大きく違うのは、見た目の歳だ。

 どう見ても、五十過ぎたおばさんだ。ほうれい線もくっきり浮き出ているし、小じわも少し目立つ。髪の毛はいたんでいるし、化粧は濃いめだ。

 その女が周りをキョロキョロしながら髪の毛をかきあげると、痛そうに手を離した。

「おい、あんた。怪我してんじゃねーか」

「坊やは誰よ。何なのよここ。……痛たた」

「見せてみろ。鈍器か何かで殴られてんな。……名前言えるか?」

「生意気な坊やだね……。三木本 明美よ」

「ミキモト・アケミさんか。俺はカンナギ・ザリュウだ。ちょっと髪を失礼」

「痛いってば」

「今から治すから、じっとしてろ」

「治す……あれ痛みが」

 俺は低級オーラが使える。自分用に習得した治癒魔法だ。打撲や切り傷くらいならすぐに直せる。引き換えに疲れてしまうのは仕方ない。

 傷も腫れも引いたことを確認すると、アケミさんに聴いた。

「どうだ、痛みは」

「もうなんとも。坊や、何をしたの」

「何って、普通に魔法で治したんだが」

「ま、魔法? は? 何いってんの。馬鹿にしようったって、そうは行かないわよ、ねえあんた」

「うそー、超凄くないー。マジでぇ」

 眉間に皺を寄せて怒鳴られても困る。スピカは異様にテンション上がっていて、これはこれで困る。

 あいつと同じ民族っぽいし、聴いてみるか。

「アケミさん、出身は?」

「東京」

「トウキョウ? なんだそこは」

「東京知らないなんて嘘でしょ。……あら、女連れ込んでるの」

「違うわよ。なによ、オバサン。信じらんない」

「オバ……。えーそうですよ、どうせ私は五十過ぎたババアよ!」

 五十って、ミサキさんよりちょい下か。てことは、こうなっていたかもしれないのか。

「坊や、何ジロジロ見てんのよ」

「別に」

 二人はトウキョウという民族らしいな。

「待てよ。これが本当に《ファング》だとして、それが異世界の力を得てるってことは……⁉」

 俺は二人を何度も見返した。

 これはもう疑いようがない。見たこともない服に顔立ちに魔法を知らない。常識的にありえん。

 二人は異世界娘いせかいっこだ。

「あ? 何見てんのよ!」

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