やっぱり、小学生は最高だぜ -3-

 水の滴る音だけが、ぽつんぽつんと響く。

 夜目の魔眼を一時的に使えなくなった俺は、風の流れる方向や音に神経を尖らせていた。いつなにが襲ってくるかわからない。要救助者を今殺してしまっては元も子もない。

 スピカは空気を呼んでなのか黙っていてくれた。

「なあ、スピカ」

『ああ、いつの間にか呼び捨てになってる』

「言いにくいんだよ」

『分かったわよ』

「やけに素直だな」

『う、うっさい』

「で、頼みがあるんだが」

『何よ』

「ここにいるオークの記憶、辿れないか」

『どうしてそんなことしたいの?』

「犯人の特定と、拠点だ」

『犯人は、あの遠藤でしょ』

「そうとは限らん。一人の仕業だと決まったわけじゃない」

『でも……。オークの頭を覗くのはやだな』

「なんで」

『だって、ヤることしか考えてないんでしょ』

「それもそうだな。じゃあ、被害者の記憶を辿ってくれ」

『それも……』

「気持ちはわかるが、じゃあ、どうすればいいと思う? この辺り一帯に気配がないんだ。更に奥に進むリスクは出来れば避けたい。隠れ場所があるなら特定したい」

『どのみち、この暗さじゃ』

「灯りを付けてみるか」

『大丈夫なの?』

「もしもオークが近くにいたら、とっくに襲われている」

 俺はザッパーに刻まれた紋様を頼りに、ランタンのスイッチを押した。取り出したそれに火を付けると光が柔らかく灯った。

 強い光は闇に慣れた今は必要ない。

「これでどうだ……、この先に三叉路か」

『あ、視える』

「ん? こ、これは過去のここの記憶か」

 生物以外でも過去を見ることが出来るとは思わなかった。

 三叉路でフードを被った男たちが杖を持って、オークを率いていた。いや、引き連れらた? 歩く方向が逆だ。背中の方向に皆歩いている。

「どういうことだ? 反対に歩くことに何か魔術的な意味でもあるのか?」

『違う。これ逆再生、巻き戻しだよ』

「巻き戻し? てことは……どういうことだ」

『あんもう、あんたって頭いいのか悪いのかどっちなのよ』

「頭悪いんだよ、ほっとけ」

『そんなことより、あの分かれ道の左側に行くよ』

 そのとき、アケミさんの声と一緒に近衛隊たち二人がやってきた。

 一旦魔眼の発動を止め、近衛隊に状況を説明した。すると近衛隊は用意していたタンカーに一番幼い少女を乗せた。

「ザリュウ、ここは任せてくれ。全員運んだらまた戻る」

「分かった。アケミさん、また頼む」

 頷いたアケミさんは、足を少し開いた。その間に右剣の柄を差し込むと、剣に変化した。

 その様子を目の当たりにした近衛隊たちは、感嘆の息を漏らした。

「聴いてはいたが、それが《ファング》なのか」

「これが当たり前の力なのかどうか、俺はしらねぇけどな。じゃあ、後で」

 俺の右目が夜目を取り戻した。

 もう一度さっきの場所を見た。

『なにこれ、ここの出来事を巻き戻してるの?』

 アケミさんは流石に異世界住人であって、理解が早い。俺はさっぱりだが。

 スピカが追えというので、ランタンの火を消し追跡を始めた。向かって左を行くと、後ろ歩きの連中は更に分かれ道の右に入った。下りになっており、曲がりくねっていた。

 ここで映像は途切れた。

『ごめん、もうクタクタで……』

「分かった。助かったよ、スピカ」

『ふ、ふんっ。べ、別にあんたに褒められても』

『なぁに、ツンデレぶっちゃって』

『ち、違うわよ』

 この二人が同時に喋ると本当に姦しい。

 映像が途切れた付近を捜索すると、またあの声が聞こえてきた。

「やだぁあ、パパ……ママ……」

「お家返してー」

「わーん。あーん」

 なんだ? 今度はやけに子供っぽい悲鳴だな。いや、間違いなくさっきの娘よりも幼い女の子だ。十歳も満たないかもしれない。

 声の場所を反響を頼りに探しだせた。やや背の低いあなの向こうだ。

 そっと覗くと、オークたちが幼女を引き裂くように陵辱していた。死んでいるものもいる。その中心に、一人の男が幼女に自分のモノをしゃぶらせながら言った。

「はっはっはっ。やっぱり、小学生は最高だぜ!」

「お前は、最低のクズだがな!」

 頭に血が登った俺は、……怒りに身を任せ、……この身をやつに晒し、魔双剣を突きつけた。

 男はあざ笑った。

「あひゃっ」

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