バイブ? -10-

 俺はニヤッと歯を見せて、剣を指でつついた。

 案の定、スピカはピクピクと反応する。

 これは面白い。

「あう、ちょっと、そこ胸だってば」

 ちっ、剣では全く感触が伝わらん。

 というあからさま・・・・・な顔がつい表に出てしまい、スピカが眉を立たせた。

「それをバイブがわりにするな、この変態!」

「うるせぇ! 人を散々こき使って見下してきた罰だ。ほれほれ」

「あ、あうっ。いや、ちょ、そこはダメ。自分でも触んないのに」

 ミサキさんが剣を取り上げようとしたが、バチッと白い火花が出て跳ね返してしまった。

 俺は慌ててミサキさんに謝った。

「す、すんません。大丈夫ですか」

「静電気みたいなものに弾かれたみたい。……それよりもザリュウ、あんまり若い娘をいじめちゃダメよ。強がっていても傷つきやいんだから」

 スピカも「そうよそうよ」とノッてくる。

 ああ、もう。謝れば良いんだろ。俺は頭を下げて「ごめんなさい」と言って剣を革のフォルダーに納めた。

 ミサキさんが改めてスピカに尋ねた。

「というわけで、ザリュウの武器になる覚悟はある?」

「嫌よ!」

 だろうな。当然だ。だがミサキさんは食い下がった。

「じゃあ、お金払えるの?」

「う……。この世界のお金なんて持ってない。あ、じゃあ、このスマフォでどうよ」

「なにその板?」

 俺も見てみた。見たことがない。

 ザッパーみたいな文様もないし、ガラスのようなものが片面に貼っているようだが? 何だこれは。

「見てみなさいよ」スピカがスマフォと呼んだ板を触りだした「あれ? ああ⁉」

「どうしたのかしら」

「バッテリー切れちゃってる……。昨日まで電源入ってたのに」

「ばってりー?」

「魔法で何とかならないの? 電気とか雷とかあるでしょ」

「雷の魔法はあるにはあるけれど、あれは破壊魔法よ」

 俺は補足した。

「第一、知り合いに攻魔こうま使いなんていないぞ」

 スピカは諦めなかった。

 それを見ていたアケミさんが言った。

「なにそれ?」

「は⁉ 嘘でしょスマートフォン知らないの」

「知らない」

「鬼信じらんないんですけどぅ!」

「で、どんなものなの」

「電話とかゲームとか出来るの」

「ああ、携帯なのそれ」

「アケミさんだって持ってるでしょ、普通の携帯くらいは」

「ないわ。この世界に来る時、バッグごと置いてきちゃったみたい」

「うっそー。そんなんで良く生活できたよね」

「ん? よくわかんないけど、メールとか電話くらいしかしてなかったし、それにここじゃ知り合いなんて誰もいないし」

「アプリは?」

「だから、さっきから何言ってんのか、全然ついていけないわ。若い娘ってみんなこうなのかしら」

 ダメだ。

 この一ヶ月の経験から、このまま話が続くと収拾がつかなくなる。アケミさん側が我慢しているから喧嘩までは至ってないが、そのはけ口が夜這いになっている俺の身も考えてほしいものだ。ろくなもん食ってないせいで最近調子が悪いんだよ。

「この話は一旦やめにしてくれ。今はスピきゃんの脚のことだろ」

 そう言われてスピカが俯いた。

 俺にいさめられシュンとしたわけではなく、自分の右足を見つめているようだ。

「分かったわよ……。なるわよ、ザリュウの武器に。《ファング》ってのをやればいいんでしょ」

 スピカが顔を向けないまま承諾の意思を示した。

 するとギルドの玄関からおっさん臭い声が聞こえた。

「その方が懸命だと思うぞ」

「ザンク、来てたのか」

 どうやらようやく話が進みそうだ。

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