500年目のメンター冒険者

ハヤブサ@のんびり

第1章 クエスト編

第1話 プロローグ 

 窓から入る日差しが眩しい―――。


 小鳥がさえずり、時を告げる。俺は日差しとさえずりに背を向けるように、ベッドの上で寝返りを打つ。背中にささる爽やかな気配も、二日酔いの身にはあまりありがたくない。頭にはまだ昨日の酒が残っている。重くて思考がまとまらない。こういう日は寝れるだけ寝る、惰眠をむさぼるに限る。


「おっはよー、リオン! 今日もいい朝よ……って、もうまた飲み明かしたの? お酒の匂い、すごいわよー? 窓開けるわね」


「アンジュ……まだ寝かせてくれよ、昨日は遅くまで飲んでたからまだ眠いんだ」


 アンジュは床に転がる酒瓶を避けながら、つかつかと部屋の奥の窓に手をかけると勢いよく開け放った。窓の手すりのそばにいた鳥たちがはためき、代わりに日差しがアンジュの栗色のショートヘアを照らす。日差しとともに新鮮な朝の空気が部屋に流れ込む。俺は観念するようにベッドの上であぐらをかく。


「今日はやけに早いじゃないか。また朝イチで冒険者ギルドに行くのか?」


「当ったり前じゃない、いいクエストの依頼なんて早い者勝ちなんだから! リオンも早く出かける支度をしてよね」


「そんな早く行っても大した違いはないよ。ふあ~……もうちょっと寝てもいい?」


「駄ー目ーよ! そんなこと言ってこの前だって依頼を受注し損なったじゃない。さ、着替えて着替えて!」


 アンジュは俺の腕を取り、ベッドから引きずり降ろすと、今度は後ろから背中を押して急ぎたてる。背中にはアンジュの両手以外の柔らかい感触がする。……むむ、さてはコイツ、また育ったな?


###


 ノックスの朝は早い。王国の城下町であるここノックスは、冒険者ギルドの総本山が居を構えてるだけあって、多くの冒険者たちが拠点にしている。今日も朝早くから冒険者たちがギルドの周りにたむろし、今日の稼ぎをどこから得ようか算段をしている。

 俺とアンジュはそんな人の群れをかき分けるように、ギルドの中へ入る。総本山というだけあって、いつ来てもここはでかい。3階建ての建物は、長いカウンターテーブルや掲示板が置かれ、クエストの受注に訪れている冒険者で既ににぎわっていた。俺たちは3階に向かうと、奥の空いたカウンターに向かう。そこではギルドの職員が笑顔で出迎えてくれた。


「おはようございます、アンジュさん。リオンさんもおはようございます」


「おはようウィズさん。今日はいいクエストの依頼が来てるかしら?」


 ウィズは手元のフォルダーから依頼書の束を取り出すと、ペラペラとめくり、依頼を探す。30件はあるだろう束に視線を投げると同時に、俺はウィズの胸元も視界に納める。うん、今日もお美しい。悦に入ってるところにアンジュの肘鉄が俺のみぞおちに叩き込まれる。


(そういうのいい加減やめなってば!恥ずかしい!)


(別に減るもんじゃないし、いいだろう!)


 声を殺した俺たちの会話をよそに、ウィズは1枚の依頼書を取るとこちらに差し出した。


「ふふふ、今日も仲がいいわね。あなたたちを見てると、メンター制度の効果を感じるわ」


「えー! 早く1人前になってメンターとはオサラバしたいな私は。いつまでも先輩冒険者の助言が付いたままだと、私の目標の”国一番の冒険者になる!”が達成できないわよ」


「俺だって次はもっとかわいげのある子の先輩になりたい―――ぐはっ」


 またしてもアンジュの肘鉄が喰らわされる。ウィズはそんな様子を見て、ふふと笑顔を絶やさない。メンター制度とは新米冒険者に、第一線を退いた冒険者が助言役としてサポートする制度のことだ。この制度ができてから、新米冒険者の無茶な討伐受注が減り、死亡率も抑えることに成功している。俺もこの制度から出る給付金でなんとか生活してられている。…大体は酒代に消えてるが。


「今日2人におススメの依頼は、これなんてどうでしょう?」


 アンジュは依頼書を受け取りながら、さらさらと目を通す。


「えっと、なになに……怪鳥トロスの卵取り、か。報奨は卵2つで4000ローナー! いいわよね、リオン!」


「……なになに? 貴族のパーティ用に緊急で必要になったってか。ま、採集なら討伐と違ってやりやすいし、ピッタリなんじゃないの?」


 トロスならノックスから少し離れたところにある森の中に巣がある。ちょいと卵をいただいて、今日の仕事をさっさと終わりにするとしようか。


「じゃあ決定! アンジュ・リオンのパーティはこの採集クエストを受注します!」


「はい、かしこまりました。お気をつけていってらっしゃい」


 アンジュが依頼書にサインをし、ウィズに手渡す。

 俺たちは装備や回復薬のチェックを各自で行う。


「またリオンは防具の装備無しでいくの? 大丈夫なの、ホントに」


「大丈夫だって。攻撃かわすの上手いって知ってるだろ? 回復薬は持ったから、俺より自分の心配してろよ。トロスのくちばしについばまれたら、痛いぞ~」 


「かわすの上手いっていうか、リオンの装備…質に入れちゃってるから手元にないだけでしょ。いい加減お酒控えないと、回復薬も買えなくなるわよ?」


「どっちがメンターだか、分かりゃしないな……さあさあ、出発出発!」


 俺たちはギルドを出て街の北側を目指す。目的は北の森のトロスの巣だ。

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