第10話 解散
「くう~、
俺は酒場のカウンターで思わず唸った。カウンターで仕事してる店長に「やれやれ」と笑われたが、申し訳ない……今日は飲まなきゃやってられないのだ!
魔王。あいつが生まれ変わってくる日はいつか来るとは思っていた。だが、記憶を保持したまま生まれ変わるなんて、これっぽっちも想像して無かった。
500年前のアイツの最後の言葉、「眠れぬ夜はまたやってくるだろう」ってのはそういう意味だったのか? どちらにせよ……、飲み収めの日は近そうだ。
「リオン!? こんな所にいた! 病院抜け出して何やってるのよ!!」
アンジュがジェーンやディムを連れて酒場内に入ってくる。……あれは相当怒ってらっしゃるな。俺はつとめて冷静に、彼女らを刺激しないように声をかける。
「よう、アンジュ。こんな所まで追いかけてきたのか。良かったらお前も一緒に飲m……」
「飲むわけないでしょ! 何考えてるの? あの蜂の毒、死んでもおかしくないほどの猛毒だって先生言ってたわよ! それなのにすぐに病院抜け出したかと思えば、こんなところでお酒なんて飲んで! 信じられない!」
アンジュはまくし立てると息を切らしてバーカウンターにもたれかかる。胸がカウンターに乗っかって形を変えている。うーむ。
ジェーンとディムも心配したよと言葉を続ける。
「一時は気を失ってたんだ。せめて一晩は落ち着いて横になった方がいいんじゃないですか?」
「そうですよ、リオンさん。お酒なんて飲んでる場合じゃないですよ!」
2人にまくし立てられている間に、アンジュがちょっと回復したのか体を起こし、こちらに向き直る。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。体に問題は感じないよ」
俺は言いながらビールを口に運ぶ。美味い。アンジュがジト目でこちらをにらんでくるので、仕方がない、一口あげるとしよう。
「え、私に? いいわよ、別にビールが欲しくて見てたわけじゃ……」
「まあまあ、いいから一口飲みなって」
アンジュは俺に促されるまま、ビールを一口飲む。黄金色の液体が喉を通り過ぎるたびに、アンジュの両眼が少し大きく開いた。
「美味しい! これ今まで飲んだことのないビールだわ! ふんわり柑橘系のいい香りがして、味も苦いだけじゃなくて果実の甘味みたいのも感じる!」
「だろ? 美味いだろ? これは製造途中に希少な果実を加えることで、麦と果実の香りや甘味が絶妙のバランスで混ざり合っているんだ。こんなビールもあるんだよ。俺がハマるのも分かっただろうー?」
俺は満足そうにグラスを返してもらう。ディムとジェーンは流されずに話を続けてきた。
「一体、どうして人の命を奪うような毒を喰らって大丈夫だなんて言えるんですか?」
「あー……俺、実は死ににくいんだわ。魔王と大昔に戦った時、アイツの返り血を偶然飲んじまってな。それ以来、滅多な事じゃ死なないし、年もゆっくり取るようになったんだ」
ディムは俺の話を聞いてさらに質問を続けた。
「リオンさんは、本当に500年前に魔王と戦った人なんですか!? ということは、当店にある聖剣と聖鎧の元の持ち主は――」
「……ああ、俺だな」
俺はまた一口ビールを流し込む。苦い。ジェーンは俺が飲み終わるのを待って質問を続けた。
「じゃあ、あの森で出会った男は魔王で間違いないのですか?」
「500年前の姿とは違うがな。500年前のあいつは、もっと禍々しい外見をしてたよ。……生まれ変わったっていうのは本当の話だろうな」
「魔王は、また人間を滅ぼそうとしているのでしょうか?」
「……分からない。だが、アイツの今の目的ははっきりしてる。俺を殺すこと、森の中で言ってたことに嘘はないだろうな」
俺はアンジュを見ながらまた一口ビールをあおる。冷たいビールが喉を通り過ぎるたびに、頭もクリアになるような気がする。それに、言わなきゃいけない言葉もある。
アンジュは、力強くカウンターを叩くと俺に向き直って言った。
「魔王が何よ! あんなやつ、またいつ来たってへっちゃらよ! 私たちならきっとなんとかなるよ! ね、リオン?」
俺は絞り出すように答えた。これだけは今のうちに伝えなければならないと思うから。
「なあアンジュ、俺たちのパーティ……解散しよう」
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