第2話 遭遇
城下町ノックスの北、およそ5キロの地点には広大な森が広がっている。そこには多種多様な生物が住んでいる、まさに命の宝庫の森である。森の内部には鉱石が取れる岩肌や、住宅用に適した木材が伐採できる場所がある。ノックスの暮らしを支える資源の宝庫でもある森だが、完全に整備はされていない。モンスターの宝庫であることがその理由の最たるものだ。
群れで行動する小型のモンスターや、昆虫型、鳥型などだ。竜種などは生息していないため、1匹の脅威はそれほどでもないが、群れを形成するモンスターが多いため、油断はできない。王国の公共事業の一環で、冒険者たちによる駆除作戦が数度行われているが、その総数を完全にコントロールできたことはない。
(北の森レポート 衛士作より抜粋)
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「暑っつい~、森の中に入れば少しは涼しいかと思ったが、全っ然だめだな。あ~、早く街に戻ってビールが飲みたい~。ビール、ビール、ビ~ル~……」
「ビールビール、うるさい! まだ森に着いたばかりでしょ。ここからが本番なのに、もう帰る気満々とかやる気なさすぎよ、リオン!」
暑さで茹でダコになりそうな俺に、アンジュは檄を飛ばす。お前だって鎖帷子にブレストプレートを付けてるからもう汗だくじゃないか。熱中症で倒れるのだけは勘弁してくれよ。
アンジュは水分補給をすることなく、森をくまなく探し回っている。目当てのトロスの巣を探し出そうと目を凝らして周囲を探索している。
「アンジュー、ちゃんと水飲めよー? あとトロスの巣を探すなら、木の上じゃなくて下を探せー。あいつら飛べないんだから」
「わ、分かってるわよ。……しゅ、周囲の警戒も兼ねてやってるの! リオンこそちゃんと探してよね」
へいへい、と俺は返事をする。早いとこ巣を見つけて卵を持って帰って、酒場で一杯やりたい。こんだけ暑いんだ、今日の一杯目は最高に美味いだろうな。
ぼんやりしながら探していると、アンジュが「見つけたー!」と報告してきた。巣は崖下の大木の
「お、早速見つけたか。じゃあ依頼分の2つを失敬して戻るとしますか」
「そうね! 親鳥が戻ってくる前にノックスへ戻りましょ」
俺たちは1つずつ卵を抱えてトロスの巣を出る。トロスは滅多に巣を空にはしない。きっと自分のエサを探しに出ているのだろう。さっさと帰れば鉢合わせしないで済む。俺たちはノックスへの帰路に就こうとした、その時―――。
「ギャギャギャギャ―――!」
つんざくような鳥の鳴き声が森中に響き渡った。俺とアンジュはお互いの顔を見合わせた。
「アンジュ、どこから聞こえた?」
「分からない! でもトロスの姿は見えないし、早く戻れば大丈夫なはず……」
アンジュは慌てて森の出口を目指す。そのアンジュの背中を追うように、3メートルほどのダチョウのような鳥が崖から滑り降りながら向かってきた。目は血走り、30センチはあるクチバシをわななかせながら、トロスが姿を現した。
「アンジュ! 後ろだ、崖から降りてきてるぞ!」
「え? ……キャッ!」
アンジュは後ろからクチバシで突かれ、前のめりに倒される。卵は抱えていたこともあり、無事なようだ。トロスは緑とピンクの体毛を逆立てながら、こちらを威嚇する。
「立てるな? 俺の分の卵を持って、ここからゆっくり歩くんだ。俺はあいつを離すから、その隙に森の出口へ向かえ」
「分かったわ、気を付けてねリオン……」
アンジュは2つの卵を抱えると、そろりそろりとトロスから後ずさる。トロスはアンジュをじっと睨み、今にも襲い掛かろうとしている。俺は2人の間に立って、トロスの進路をふさぐ。
「悪いけど、卵はもらっていくぞ。1つは巣に残しているから、大目に見てくれない?」
俺はトロスに語り掛けながら、腰のダガー型ナイフを取り出す。トロスは俺の言葉など分からんとでもいうように叫び声をあげる。
トロスは邪魔な俺から片付けようと、クチバシを突き出して攻撃する。トロスの大きなクチバシでついばまれたら、流血は免れないだろう。俺はダガーを突き出して、トロスのクチバシに刃を沿わせるように受け流す。
「ギャギャギャギャ!」
トロスは苛立ちを隠さずに、俺への攻撃を休めない。だが、トロスのクチバシは何度突き出しても俺のダガーに受け流されてしまい、宙を切る。攻撃を受け流す一連のやり取りは10回にも及んだ。
次第に、俺とトロスとの距離が離れていき、トロスは威嚇しながら少しずつ巣へと引き返していった。
「諦めてくれたみたいね。大丈夫、リオン?」
「暑い……。早く帰ろう、ビールが飲みたい」
そんな俺たちがトロスから背を向けて、森の出口へ向かおうとした時―――俺たちの頭上から大きな影がトロスへ迫った。トロスは後ろから来た影に噛みつかれ、断末魔の悲鳴を上げた。
影の主は大きな羽を広げ、ホバリングしながらトロスをバリバリと噛み砕いている。真っ黒な鱗に包まれた体に、トロスよりも大きな体。その目は紅く、爛々と輝いている。
「リ、リオン……あれって、もしかして―――」
「ああ……ドラゴンだ」
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