第22話 覚醒②

 手にほとばしる大量の光と熱。使い手の意思に応えてその形と切れ味を変える、可変自在の刀剣。遥か昔、数多の戦場を共にし、暴虐の限りを尽くした魔物を一緒に止めてくれた相棒。

 そして俺が一方的にその手を離してしまった友。

 その相棒がまた、こうして応えてくれたことに感謝しかなかった。


「ふふ、あはははは! いいです、それでこそ勇者リオンだ! そうでなくては甦った甲斐がないというもの!」


 魔王は片腕を失くしたのも意に介さず、それすらも楽しい出来事のように喜んでいる。それでも分かることは、こいつの闘争心は少しも萎えちゃいないってことだ。少しでも隙を見せようものなら残った片腕で俺を刺し貫くことは容易にできるだろう。

 警戒する俺の背後から近づいてくる人の気配を感じる。俺は振り返らずその気配に声を投げかける。


「誰だ!」

「ディ、ディムです! ……リオンさん、その剣がまさか本当の聖剣の姿なんですか?!」

「ああそうだ。ようやく、応えてくれた……。いや、今まで俺が腹を決められなかっただけなのかもしれない。こいつは最初から応える気があったんだろうな」

 

 俺は手の中で輝く聖剣を見る。かつて一方的にお前を手放した罪悪感、平和な人間社会への期待を諦めたこと、そして仲間を失う絶対的な恐怖…。それら全てが戦うことを忌避していた原因たる感情だった。そしてそれを十分に感じていたから聖剣は今まで反応しなかったのだろう。


「アンジュさんは僕に任せてください。ジェーンと一緒に絶対守り切ってみせます! だからリオンさん……」

「ああ、やっこさんの相手は任せろ」


 俺は意識を目の前の魔王と不死竜たちに集中させる。とにかくコイツらをなんとかしないと、この馬鹿げた騒ぎがいつまでたっても終わらない。こうしてる間にも加勢に来てくれた冒険者たちが不死竜に倒されている。


「はああああ!」


 俺の気合に呼応するように、剣は光り輝きその刀身を勢いよく太く長く伸ばしていく。

 伸びた刀身は大樹の枝のように無数に枝分かれし、その一筋一筋が必殺の一撃となって魔王たちに疾走する。

 不死竜たちはたなびく光に胸を、背中を貫かれ一撃のもとに絶命していく。ただ一人、魔王を除いて。

 魔王は鼻歌を歌いながら、先ほど切り落とされた腕を拾い上げると、ブンと軽く上下に振った。その瞬間、腕はその形を崩し、黒い闇の奔流へと姿を変えた。まるで俺の持つ聖剣のように。

 その黒い奔流は魔王に迫る聖剣の光を受け止め、軽々と弾いた。俺は自分の目が信じられなかった。その闇の塊は500年前の戦いには無かったからだ。

 魔王は驚く俺の顔を満足そうに眺めた。


「そう驚かないでくださいよ。あの時はその聖剣の光に随分苦労しましたからね、私も対策を考えたんです。……よくできてるでしょ?私の血と骨を使った闇の武具。文字通り、魔剣ってやつですかねえ」


 だからこんなこともできる、と魔王は剣を空に向かって掲げ、先ほど俺がやってみせたかのように闇の束を枝分かれさせ、急襲した。

 その行先は俺ではなく、不死竜との戦いをなんとか生き残った冒険者たちだった。


「こんの……!!」


 俺は意識を集中させ、剣を幾重にも伸ばす。冒険者に殺到する数々の闇の一撃を、鞭状になった光で撃ち落としていく。なんとか守り切ることができた俺は魔王に向かって叫んだ。


「 お前の相手は俺だろう! いつまで無関係なやつを巻き込めば気が済むんだ!」

「いやだなあ、今のはただのデモンストレーションです。…本命はここからですよ!」


 魔王の声に反応するように、魔剣は刀身を太く長く伸ばす。今度は枝分かれせずその刀身一本のみに集中させている。威力は先ほどの一撃の比ではないだろう。本気、ってやつか。 


「ディム、すまない! もし俺が押し負けても、後ろの2人をなんとか守ってくれ!」

「破産してでも守ります! ……でも信じてます、負けないって!」

「ありがとよ!」


 俺は全身に力を込めて聖剣を握る。込めた力に反応するように、聖剣もまたその刀身を太く成長させていく。


「おおおおお!」

「カアアアア!」


 力と力。武器と武器の単純な力比べが始まった。

 負ければ死。その明快な押し合いはしかし、絶対に負けられない大一番。

 俺の背中には、守り抜きたいやつがいるのだから。

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