第七話「決別」

 第一章 邂逅編


 第七話「決別」


 暗闇の部屋に、窓から幻想的な月明かりが差し込み、赤い血で彩られた服が現れた。

 唐突な月光は、ただの赤いパジャマであろうとも血であるかのように見せかけてくる。

 部屋の主の鼻から上は月光から逃れ、暗闇の中で不敵に笑みだけが浮かぶ。油断すれば全て奪われてしまいそうにすら感じる、そんな絶望を宿らせる笑み。

 ガウェイン卿――無頼は、赤い絨毯に膝をついて部屋の主に今朝の報告をしていた。


「アクロヴァル卿が真実に近づこうとしている。あいつならば真実に辿りついて、お前の目の前に現れるかもしれない」

「それがどうした?」


 男とも女とも判別がつかない。そんな中性的な声が無頼にそっけなく伝えられる。

 そっけなくとも、声を聞くだけで体の体温が下がったのではないか、そんな風にすら感じられる威圧感が込められている。

 何度聞いても慣れることのない不快とも言える声に、無頼は薄ら寒いものを感じながら反応した。


「いいのか? 真実に辿りついてさえしまえば、お前が何をしようとしているのかも全て理解される、してしまう。アクロヴァル卿、望月 智とはそういう女だ。飼い犬だと思っていたら背後から噛まれる、そんな狂犬があいつの中には眠っているぞ」


 注意を促す無頼に、主はなんでもないことのように答える。


「そんなことはどうでもいい。むしろ計画には都合良い。ランスロットもソリューション側に着くのだろう?」


 そこでより一層、主は笑みを歪みに変える。笑顔が、闇から更なる深淵に段階を経ていく。


「まだ時間はかかるが、一つ一つ段階を進められている。すべて、計画通りだ」


 無頼はその言葉に戦慄を覚えた。

 全てを管理して、制御する。それがどれほど難しいことか、目の前の人間は理解しているはずなのに、計画通りだと言う。

 大木の枝であるかのように、無造作極まりなく自由に伸びる人間たちを支配している、そう言っているのだ。

 しかし、この主が明言したからには真実なのだろう。誠に恐ろしいことだが、それを実現できるだけの頭脳と未来を見通す力を無頼の主は持っていた。


「計画通りか。すべてお前の手のひらの上で踊る盤上の駒と言ったところか?」

「その駒も、少し不足しているがな。天乃流剣術の継承者はどうなっている? 確か、天乃 雪と言ったか」

「再三に渡り天乃神社に連絡を行っているが芳しい結果は得られていない。当の天乃 雪が乗り気ではないらしくてな。それに祖父母辺りも何気なく問題をかわしてくる。厄介な相手だよ」

「……ふん、だろうな。だが、押せ。こちらもランスロットが抜けた穴は補充しなければならないからな」

「わかっている。早急に対処する」


 その後、月光に照らされる部屋の主と無頼は何度か言葉のキャッチボールをして、無頼は立ち去ろうと紅の扉を開ける。

 そこで立ち止まり、無頼は主を見ずに言った。


「……お前にとって、創崎 蒼が裏切るのですら、予定調和だったのか?」


 無頼にとって、一番の疑問がそれだった。

 蒼が円卓の騎士団から離れるということは、無頼は予想していない事態であり、この主はそれをわかっていたらしかった。

 いつでも冷静沈着で、命令をされれば現場に赴く最高の兵士の蒼が裏切るなど、誰が予想しようか。

 欲望がなく人形のようだった蒼が自らの意思で考えて行動してくれるのは、とても喜ばしいことだった。

 しかし、この主はこれから先起こるようなことを理解しているのか、そこに向かわせるために行動を起こしているのか。

 なんのために蒼を離反させたのか、それだけが今、知りたかった。


「……それは知りたいという欲望か?」


 そう言われて、無頼は、はっとして口を閉じた。

 ここは円卓の会議場、欲望を口に出すなどもってのほかだ。ましてや、この人物の前ではご法度とも言えるものだが、この人物は薄気味悪く笑ったあと、告げた。


「少し意地悪だったな。蒼が裏切ることはわかっていたよ。あいつは単純に、正義としての行いを好む。だからきっと、ソリューションを羨む。そう思っていた。そして、いつか人を探しに行くということも」


 裏切ったことなど、なんでもないことのように、主は淡々と答える。

 しかも裏切る理由まで、条件として追加して。


「蒼のことはどうする? 裏切ったのちに追撃隊を編成するか?」

「いや、それには及ばん。これまで通り、円卓の騎士団は現行犯での制裁をのみを実行しろ。その場で何もしていない人間には絶対に手をだすな。計画にズレが出る恐れがあるからな。それから、アレのことはどうなっている?」

「まだ調査中だ」

「やはりそうか。蒼が裏切ったことで全ての事象はもっと深く、欲望を増して動きだす……これからだ」


 月下に照らされているはずなのに、主の顔色は霧がかかったようにうかがい知ることが出来なくなっていた。

 そこに浮かべられているのは世界を揺るがすほどに歪んだ憎しみか、世界を壊すほどに狂った笑顔か。

 主をよく知る無頼ですらも、理解できることではなかった。

 もしかしたら人の身では、理解できないことなのかもしれない。


 ……

 

 春夜(しゅんや)独特の奇妙な暖かでありながら、一抹の寒さも感じる風が大地や大気を吹き抜けていく。

 人の身には心地いいことこの上ない、穏やかな風だ。

 闇に染まった空に、日中の輝かしいまでの青空はなりを潜めている。

 闇の中で、太陽の如く輝く月が照らしだす地面では、住宅地との境目を現すように、大小さまざまな瓦礫が無秩序に転がっていた。

 元は住宅街であったここは幾度の戦闘で破壊されつくされて、今は見る影もない。

 無人の荒野のように、殺風景極まりない景色だった。

 そのさらに下――地上とは打って変わって地下は無風で、水の流れが閉鎖された空間の中でけたたましく反響する。悪臭漂う地下水路に、彼らは居た。

 一空間だけを照明が照らし、およそ七十人程度の人間が、水を挟み込む通路に隊列を組んでひしめいている。手持ち無沙汰らしく目を瞑り、体力の回復をはかっている者や話しこんでいる人間もいる。

 誰も彼もが、自分の欲望のために欲望を締め付ける円卓の騎士団を倒し、未来を自分で掴もうとしている人間だらけだ。 

 円卓の騎士団が許せなくて、打倒を欲望の終着駅にしているものも居れば、その先の未来、決められた職種ではなく自分の成りたいものになろうとして、立ちはだかる壁となっている円卓の騎士団の壊滅を望むものもいる。

 そんな戦闘員たちの先頭で、ソリューションの指揮官、紅 美久は細やかで鮮やかな紅の長髪を少し辛そうに無理やり黒い帽子へ隠した。

 長い髪が女性らしい雰囲気をだしていたのだが、それがなくなって男らしい雰囲気が醸し出される。

 それから、手を口にあてて考える素振りを見せた。


「さて、どうしようかしらね」

「いや、どうしようかしらね、じゃねーよ。折角ここまできたんだし、行くんだろ?」


 和志が迷う美久に言う。

 今にも行きたくてうずうずしている、そんな顔を和志はしていた。


「分かってるわよ。こんな時間に集まってもらったんだし、攻勢はかけるわ。でも円卓の騎士団の内部事情がわからない限り、部隊を動かせないでしょ。これはどっちが先手を取るかっていう大事な局面なの。少し待って」

「でもよー」


 和志が項垂れて文句を垂れるのを無視して、美久は暗闇で携帯を開き、時間を確認する。デジタルで無機質に刻まれる時計は、午前零時を表していた。

 どうやら、何かの目的があって地下水路にソリューションは侵入しているらしい。


「攻勢をかけるにしても、まだ時間はあるやろ。司令官の言う通り少しは待ちーな」


 地下水路の暗がりから律が口を開きながら現れた。隊列を為して、ひしめきあっていた人たちは律を見て、間を空ける。


「やっやっ、ありがとうな」


 礼を言ってちょこんと頭を下げた律が通ったあとには、再び隊列を直す。統率が取れていることを行動の端々から滲みださせていた。

 美久の居る先頭まで到達した律の片手には黒い仮面が持たれており、その持ち主は仮面を受け取る。


「ありがと。急な修理要求だったのによく間に合わせてくれたわ」


 仮面を受け取ったのは美久だ。

 一昨日の戦闘で破壊されてしまった仮面の修理を律に頼んでいて、それを律が持ってきてくれたのである。


「いやはや、一日で直せなんて無茶言うてくれたから少し荒っぽい修理になったけど、この作戦だけなら耐えられるやろうね」

「無茶言ってごめんね」

「いんや、うちにできるのはこんなもんやからな。ところで、作戦は動きそうなんか?」

「動きそうじゃない、動かすのよ。円卓の騎士団は一昨日の襲撃で今だ戦力が疲弊しているはず……。そこに勝機を賭ける他ないのだけど……」

「だったら迷うことないんじゃねーの? ぱぱっと言ってぱぱっと終わらせようぜ」


 和志が両手を胸の前で合わせて、能天気に述べる。

 両手を合わせているのは、中心で体内にある魔力を練りこんでいるからである。魔力は、個人の魔力総量のほかにも、魔力の練りこみ方によっても威力、耐久性が向上するので、とても大事なことだ。と言っても両手を合わせているのは和志が魔力を練りやすいからで、意識さえ集中できればなんでもいいのである。


「ぱぱっと終わらせるのは賛成だけど、もう少し待って。あとちょっとで三人が戻ってくるわ」


 和志は灰色の天井を仰いで、外に思いを馳せる。


「三人って、あいつらか。大丈夫だったんだな、あんな作戦で死ぬたまじゃないだろうが」

「昨日の午後七時くらいに連絡があったのよ。大至急こっちに向かってるって連絡も一緒にね」

「なんで第一に俺へ連絡送ってこないかねぇ、妹は……」


 不満を呟く和志に、律はなんでもないように言った。


「あんた信用されてないんやないか?」

「実の妹に信用されてないなんて、不憫ねぇ」

「ええー!? 可哀想な人を見る目で見るな! 妹は俺を信用してるから連絡してこないんだよ!」

「ま、あんたが家庭内でどんな地位に居座ろうとこっちは別に構わないのよ」


 よくねぇだろ! と心から叫ぶ和志を無視して、美久は話を元に戻した。


「彼女たちが戻ってきてさえくれれば、戦力の比重はおそらく互角程度にはなるはず。一昨日の戦いで疲弊した戦力を円卓の騎士団もすぐには捻出できないでしょうし、ばらばらに配置した兵力を呼び戻すのにも時間はかかるはず。一番の問題は円卓の騎士団名誉階級が揃っているということよ。和志、あんた一人何分相手できる?」

「何分たって……殺すつもりでこられたらもって十分だな」

「ほら、倒すことはできないでしょ」

「なに当たり前のこと言うみたいに言ってんだよ? 今回の目的は円卓の騎士団制圧だろ?」

「「ん?」」


 和志の何気ない一言に、美久と律は「何を言っているんだこいつは?」と頭を傾ける。

 どうやら、和志だけに誤解があったらしい。美久は一度空咳をしてから、今回の目的を話始めた。


「今回の作戦目的は、創崎 蒼をこちらに引き込むこと。円卓の騎士団戦力の低下及び、ソリューションの戦力拡大よ」

「はぁ!? 一人のためにそこまでするのかよ? たぶんこんなことしなくても、あっちから接触してくるぞ? 俺、伝えただろ、いずれ返事はしてくれるって」

「わかってる。今回の目的には蒼くんのこともあるけど、円卓の騎士団にソリューションがどの程度の戦力を持っているかっていうのを知らせる意味でもあるのよ」

「……あ?」

「そのなに言ってんのって顔やめなさい。いい?」


 和志に指差して、美久は赤子に聞かせるように詳しく説明を始める。


「私たちの兵力は現状確かにギリギリだけど、今回の攻勢には例え円卓の騎士団を倒せなくても意味があるの。一昨日の海外からの不明部隊に便乗した円卓の会議場への大攻勢は、私たちの戦力を大きく削ることになった。でも一昨日の今日で、部隊を動かせる、そこに意味があるのよ。ここで部隊を動かして、相手に私たちにはまだ各地に温存勢力がある。そのことを思い知らせるのよ」

「んなことしてなんの意味があるんだよ? 俺たちが苦しくなるだけじゃねーのか? そんな温存戦力があるなんて知られたら、もっと動きが取れなくなるぜ」


 疑問を宙に浮かべる和志に、律はこめかみへ人差し指をあてて話す。


「考えてみーな。なんやようわからんけど、円卓の騎士団がうちらに攻撃でき、尚且つ逮捕できるのは、現行犯の時だけ……そして、こちらの戦力が予想より遥かに多い場合、各地に勢力を持つソリューションが暴動を起こしたときに鎮圧するため、他所へ兵力を裂かざるを得なくなる。あっちは国防組織やから国内のテロを放っておくことはしないはずやろ。それはつまり、円卓の会議場の守備が薄くなるってことなんや……これであっとる?」


 美久は嬉しそうに律へ頷いた。和志はどうにか納得したらしく、自分の言葉に直して述べた。


「えーとつまりだな。円卓の騎士団に俺たちはもっと戦力があるってことを教えて、他の地域守備に兵を回させることが目的なんだな? んで、俺たちは兵力が薄くなった円卓の会議場を攻める、と」

「ふふっ正解よ。ま、気休め程度の考えだけどね。実際そんなに長い時間戦える兵力は残ってないもの。あくまでこれは副産物としてそう考えてくれればいいかなってもので、一番の目的は創崎 蒼の勧誘よ」

「いや、だからそれは待ってれば……」

「待ってたら、いつあっちから連絡がくるかわからないでしょ? 私たちは自主的に動かないと意味がない。行動で欲望に忠実だって示すのよ。私たちは積極的に動くぞ、ってね」

「うーん……わからんようでわかったぜ!」

「なんやそれ」

「ようは、倒せるだけ倒せばいいんだろ? それならいくらでもやるよ。俺にできるのは、円卓の騎士団を殺すことだけだ」


 最後の一言には、言い知れぬ威圧が込められていた。言葉の裏を覗いたら闇が蔓延っている……そんな風に感じられる言葉だった。

 美久はそれとなく無視して、デジタルに時間を進ませる携帯を確認する。

 ソリューションは、どんな欲望を持っていて、どんな行動をしようとも自由。それが己のやりたいことならば、やればいい。そんなスタンスを持っていた。

 故に、美久は和志のことには干渉しない。和志に何があったのかを知っているから尚更だった。


「端的に言えばあんたの言う通りよ。でも、今のまま攻めても単純な戦力差で負ける」

「んならなんでこんなところに来たんだよ?」

「もう少し……あの三人が戻ってきてくれれば作戦を動かすことができる。今回は私も後方から援護するから前衛は張り切って仕事しなきゃダメよ?」

「へへっわかってるよ。律はどうするんだ?」

「うちは今回出番なしやね。衛星中継でもハッキングして相手の出方でも見れたらええんやけど」

「どこのアニメだよ……」


 各自どのポジションにつくか話していると、閉鎖空間独特の篭った反響音が美久たちの居る明かりが瞬かない暗闇から訪れる。

 まだ成人を迎えていないのであろう幼さの残る声が、自分がどこにいるか知らせていた。


「はぁはぁ……遅れてすみません。 東京からただいま戻りました」


 真っ先に反応したのは和志だ。

 刹那の瞬間に振り返り、暗闇から生まれいずるように出てきた人物を和志は柔らかく笑んで見つめた。

 安堵と言った感情が、和志から漏れ出る。


「やっと帰ってきたか、あんまり心配させんなよ……おかえり、紗綾」


 柔らかな雰囲気ながらも、ぶっきらぼうに言った和志へ答えるように、暗がりから現れたのは、和志の妹――藤幹 紗綾(ふじみ さや)だ。

 清潔感を漂わせる清楚で大人しい外見、触覚のように跳ねた一本の黒髪、セミロングのぺったりとして細やかな髪ながらも、跳ねた髪がアクセントとなり、可愛さを演出している少女は、兄を見つけて微笑みを浮かべる。

 兄妹のどちらも、無事でよかった。そんな思いが見てとれた。


「ただいま、お兄ちゃん」


 事務的にも思える言葉を交わしてから、紗綾は美久の手前まで歩み寄って敬礼する。

 本来、敬礼などする必要がソリューション内部ではないのだが、紗綾はどこかお堅い性格のようだった。


「藤幹 紗綾、東京から帰還しました! 指示をお願いします!」


 清楚で大人しめの外見からは想像もつかないほどに、はきはきとした声が狭い地下水路に反響する。

 美久はそれに笑顔で答えて、形式としての敬礼。


「おかえり。これからあなたには、円卓の会議場進行作戦に入ってもらうわ。お願いね」

「はい!」

 

 紗綾が合流してから数分して、和志は再び痺れを切らしていた。

 拳を両手に握り、戦闘準備が完了していることをアピールするように振りぬく。


「だああー! まだかぁー! まだあいつらはこねぇのか! もう零時半だぞ!」

「なんやさっきから五月蝿いなぁ……もう少し辛抱しいな。美久、和志がそろそろ痺れ切らしそうや、何時を進行の最低ラインにするんや?」


 美久は戦場になる区域の地図を確認して、さらに細かな指示を飛ばしていたのを切り上げる。

 大方の人間には作戦の意図も説明したあとなのだが、念を押すようにしていた美久は地図から顔をあげて、律や和志を視界に捉えた。


「さすがにこれ以上は引き伸ばせないか……いいわ。和志、あんたに暴れてもらうわよ。セイクリッドも武もいないけど、いける? 最悪の状況を考えたら、創崎 蒼くんも味方にならず名誉階級全員を相手にするかもしれない……」

「んなもん、やってみなきゃわかんねーだろ! ちゃんと俺が撤退の援護もするし、行こうぜ。折角ここまできたんだ。創崎 蒼も俺が仲間に引き込んでみるさ。俺があいつと会話した時、お前の言ってること理解できたよ。きっとあいつも、欲望を持ってる……でも、あいつは一人で物事を決められないんだ。だから、俺たちが迎えに行ってやろうぜ。返事なんて待たずに」


 見ているものの体を滾らせるような、そんな瞳を宿らせて和志は力強く述べる。

 それを見て、美久にも活力が漲ったようで、燃え盛る太陽のように赤い瞳を輝かせる。それは地下水路の暗闇の中でも、眩いばかりに光っているように感じられた。

 美久は、一度全員の顔を見渡す。

 ランスロット卿を仲間に加える。そのことに賛同していないものも沢山いる。

 敵同士で殺しあった仲なのだから当然で、仲間に引き込めたとしても、信頼関係が築けるまでだいぶ時間がかかるだろう。

 しかし、それを押し殺してでも参戦している人間は分別ができている。

 ランスロット卿という戦力は、何者にも変えがたい即戦力だ。円卓の騎士団を攻略する上でも、内部の情報を手に入れる意味でも最上級に重要な課題だった。


「みんな、今回の作戦に納得言ってないところもあると思う。それは当たり前だし、ランスロット卿に殺された私たちの仲間だって沢山居る。あなたたちが、憎しみを押し殺して参戦してくれるこの作戦はとても意味のあるものだわ。どうにか皆で戻ってきましょう! 出陣よ!」


 美久は大袈裟なまでに、大胆に右手を振り上げる!

 すると、周囲の仲間が続々と雄たけびをあげる。地下水路の水がそれに呼応するかのように、唸りをあげた。

 ソリューションの作戦に対するモチベーションは最高潮に達していた。

 歩みだす和志に、律は心配そうに駆け寄る。


「なぁ」

「ん、なんだよ?」


 そっけなく言う和志に、律は顔を伏せて胸に手をあてる。

 見ているものの心を締め付ける、そんな苦しいものを感じさせる仕草。


「あんた格好つけて、戦うなんて言うてたけど、名誉階級の人間がでてきたら一人止めるだけで精一杯やろ? ランスロット卿一人止めるのだって精一杯やって言うてたのに……。一昨日の戦いで、円卓の騎士団は奇襲を警戒しとると思う。だから……」


 耳に深く残り覚悟を抱いた人間の心を揺さぶる言葉が紡がれる前に、和志はあくまで能天気に、元気良く律に振り返って告げた。


「あんま覚悟鈍らせるようなこと言うなよ。俺は死ににいくんじゃねぇ、仲間になる蒼を迎えにいくんだよ」

「どうしてそんな、知り合って間もない人間に必死になっとるん?」


 この作戦に出向くということは、蒼の価値をそれだけ認めたことになる。

 律の知っている数は、円卓の騎士団を憎んでいるはずだ。ランスロット卿は円卓の騎士団に所属する憎むべき敵だろうに、それを仲間に迎えると言っている。


「なんていうかさ、インスピレーションっつうのがきたっていうか。あいつの本音の言葉を聞いた時、友達に、親友になれそうだなって気がしたんだよ。それだけが理由だ」


 言い放たれた言葉に、律は伏せていた顔をあげて和志を見上げる。

 覚悟の灯った決意の眼差しが、律を捉える。

 なんて能天気で、考えなしの言葉だろう。感性だけで物をいう一種の馬鹿の極みであるはずなのに、不思議と真実味を帯びた言葉のように感じてしまう。

 律は苦しげな表情を潜めて、変わりに嬉しそうな微笑みを浮かべた。


「そっか。あんたはそういう奴やったな。じゃ、うちは待っとくよ。ちゃんと戻ってこな承知しいひんで?」

「わぁってるよ」


 和志は簡単なことを言うように言い、悠然と歩きだして自らの戦場へ向かった。

 もしかしたら友になれるかもしれない、そんな直感だけを決意に乗せて。


 ……


 暖かな空気が残る深夜。

 薄らぼんやりと光る月と人々が寝静まる午前零時四十分に、戦いの火蓋は切られた。

 満天の星が煌く夜空に一筋の煙があがり、戦闘が起きたことを円卓の騎士団に知らせていた。

 蒼はその光景を辛そうに自室の窓から見つめる。


「あの煙、敵はソリューションか……」


 確証があるわけではないのだが、自然とそう思うことができた。


「ソリューションは一昨日の大攻勢で戦力を大分失ったはずだ……死んでいなくとも、怪我の治療が一晩でできるわけがない……なぜ、このタイミングで襲撃した……?」


 虚空の空に問いかけるが、誰も答えてくれるものはいない。蒼には、それが寂しく感じられた。

 今まで疑問を浮かべれば、誰かが答えをくれた。

 自分で最善の物事を選び、選択する。

 それは人が当たり前にしていることでありながら、とても難しいことだ。

 どの道も光差す希望の未来へ繋がっているわけではなく、荒れ狂う波、絶望の未来へ迫る選択を選んでしまうこともある。

 だが、自分で選んだ選択は、誰にも譲ることの出来ない責任となって、選んだ人間に重くのしかかる。


「今まで俺はどれだけの他人に依存して生きてきたのか……」


 これからは道の行き先を自分で考えて、行動しなければいけない。

 それなら、このチャンスを逃す手はない。自分の決めた道を後悔する前に進むとしよう。

 人はいくらでも迷える生き物だ。だから、それが起こる前に突き進む。目の前に立ちふさがる壁を突っ切って。


「行くか」


 本当は朝、円卓の騎士団とは決別し、ソリューションへ合流しようかと思っていたが、ソリューションは待ってくれないらしい。

 蒼はいつものように純白のマント、仮面、帽子を着用しようとして、思いとどまる。

 長年愛用してきた白く、清く正しい騎士を思い浮かばせるマントだが、それとも決別する時だろう。マントを羽織ろうとした手を止めて、仮面に手を伸ばした。

 仮面はソリューションへ合流する際に被らなければ、素顔からこちらの身元が割れてしまう危険性がある。

 蒼の素顔を知っている人間は円卓の騎士団にそれほど居らず、仮面は十分、素顔を隠すのに役立つ。

 帽子も気休め程度に手に取る。

 仮面と帽子を着用したランスロット卿は、再びマントを見つめた。

 窓から入る春の風にゆらゆらと揺らめくマントは蒼を楽な道へ誘っているかのようだった。

 このまま円卓の騎士団に居続ければ、何も考えることなく、穏やかと言わずとも人間として楽な生き方ができる。

 川のようにただ流されるがままに一生を終えることができるだろう。

 そんな怠惰な暮らしを望む象徴だったのが、このマントだ。

 他の名誉階級とは特に変わらない、普通のマントだが、蒼が名誉階級を授かってからずっと着用してきたもの。

 このマントに眠っているのは、決断を迫られても他人に全てを委ねて、責任を放棄した蒼だ。

 欲望がない、ただの意思があるだけの人形。

 そんなものには、もうならない。

 いや……なることができない。


「俺はもう、欲望を、為すことを手に入れた……だから、お前とはさようならだ」


 決意がこもりながらも、風に乗せられるように呟かれた一言はマントを通り過ぎる。

 蒼は、確固たる決意を胸に戦場へ歩みだした。


 ……


 円卓の会議場の通路、天井からの照明が辺りを明るく染め上げていた。

 騎士が歩む道として、バラを思わせる赤い絨毯が敷かれていて、どこか中世めいたものを思い浮かばせる景色が果てしなく続いている。

 蒼はその道を急ぎ足で歩き続けて、一人の人間と出会った。

 白い帽子、円卓の騎士団制服を身に纏い、少年のように華奢な体躯をした人間が居た。

 呼吸に合わせて細やかに揺れる黒髪に、好奇の視線を向ける黒の瞳、顔つきは男らしいというより、子供のように見える。

 どこをどう見ても蒼より年下の子供で、国防組織には到底似合わない、そんな優しい雰囲気をしている少年。

 蒼はその風貌で感づき、検討をつけた。

 おそらく、一昨日の奈良での戦いで蒼に伝令を伝えにきた兵士だろう。

 体から発せられる雰囲気と言ったものが、あの時の少年そっくりなのだ。だが、それがなんだ、と蒼は少年を気にも留めず通り過ぎるが、後ろから少年は追いすがってくる。

 ひたすらに前を見て自分のペースで歩き続ける蒼に、少年は必死についてくる。

 蒼が一歩進めば、少年は二歩進んでいる。

 しばらく、無言と足音だけが空間を支配した。

 蒼は一心に目的の場所へ進む。少年もそのようで、蒼がペースをあげればさらにペースをあげる。

 蒼が二歩進めば、少年は四歩進む。

 四歩進めば、八歩進んでいる。

 いつしか、少年は蒼の隣に並んで、口を開いていた。


「あ、あの、ランスロット卿!」


 純粋で、物語にでてくる清廉潔白な天使のような、穢れをしらない声が、先の見えない廊下に響き渡り、間隣の蒼へ届けられる

 蒼は一度少年を横目で見たあと、再び間抜けなほどの広がりを持つ通路を見て、そっけなく言った。


「……なんだ」


 蒼の返事を聞いた少年は、好奇心あるきらきらとした瞳を蒼に向ける。

 ひたすらに純粋で、ただひたすらに純白のように真っ白で、無が広がる大海のような瞳。

 その深遠は覗こうとしても、覗くことはできない。無の領域、そこにはただひたすらに純粋なものしかないのだから。


「僕がランスロット卿のようになるには、どうすればいいですか?」


 その言葉に、蒼は苦虫を噛み潰した気分になり、顔を俯かせる。

 ランスロット卿のようになるには――つまり、ただひたすらに命令を聞く人形になるにはどうすればいいか。

 この少年はそんなことを聞いているのだ。自分を捨て去り、ただ生きることだけを目的とする人間としては失敗した生き物になりたいと、そう言っている。

 蒼が脳で思考していると、少年は何を思ったのか、嬉々として語りだした。なぜ、自分がランスロット卿に憧れているかを。


「戦場で見たあなたはとても、強かった。以前からランスロット卿のことは聞き及んでいましたが、実際のものを見て、さらに力強い方だと思いました! 何をしていても冷静で、触れれば切れる刃のようで、その時、思ったんです。ああ、僕もこの人のようになりたいと! 命令があれば動き、着実に作戦を遂行する。人を殺せと言われれば頷き、殺して帰ってくる」


 心底嬉しそうに語られる言葉に、蒼は驚き少年を盗み見た。

 純粋に見えた瞳は濁っていない。なんの不純物もなく、ただひたすらに無の思考が広がっているように感じられた。

 よく見てみると、少年の口元は不自然なまでに釣りあがり、不気味なまでの笑顔を形作っていた。

 蒼は、この少年に初めて本能的な恐怖を覚えた。

 外見だけを見たらどこにでもいる心優しい普通の少年のようなのに。しかし、語り始めた姿は狂気の一端を発していた。

 少年は蒼の歩きについていきながら、身振り手振りでいかに自分が感動したかを表す。


「ああ、なんて素晴らしい任務への遂行心だろう! 記録として、ランスロット卿になった当時の戦況を見ましたが、一人が殺す人数としては異常なまでの人数をあなたは殺している! 並大抵の人間ができることではない、あなただからできたことなんですよ! 僕はあなたのようになりたい! ただ人の命令を聞きこなすだけの存在になりたい!」


 純粋に狂っている。

 そう言う他ない少年を見たまま蒼は、苦しげに口を開いた。


「ランスロットは……憧れるようなものではない。あんなただの人形は、人として形を成していない。成ろうとして成るようなものでもない。何も思わない、思えない人間に成るのは、やめておけ」


 少年は首を傾げて、何がおかしいのかカラカラと笑った。


「なんですか、それ。あなたは強い、絶対的に強いんだから、誇ってもいいことでしょう? 僕はそんなあなたに憧れているのですから」


 純真な眼差しが、蒼を苦しめる。一片の迷いと言った感情も少年から感じとることはできない。

 これまでの話から、少年はランスロット卿を熱烈に崇拝していることが理解できた。

 いくら理屈を並べようと、この少年の心には届かない。少年が思い描くランスロット卿が偶像と化してしまっているから。

 話していたら、いつの間にか円卓の会議場正面玄関に到着。

 天井には部屋を照らす豪華なシャンデリアが鎮座して、蒼たちを見下ろしていた。

 まるで高級なお屋敷に思える景色を通りすぎて、蒼は重い鉄製の扉を開く。

 その瞬間に飛び込んできた広がる夜天。静かに瞬く星を尻目に、地上では戦火が近づいていることを風に乗って流れ込んでくる声が告げていた。

 どちらが優勢かは音声だけで判断がつかないが、名誉階級の人間も多くでているであろう戦況では、ソリューションが危ない立場なのは間違いない。

 急がなければ。


「戦場へ赴くんですね! 私はまだ伝令兵ですから戦場へ参加できませんが、戦火を期待しています!」


 少年の言葉が紡がれるたびに、蒼の心を無慈悲に抉る。

 決断できない頃の自分がまだそこにいるようで、決断をするな。楽な道を進めと言われているようで、辛くなる。

 まだ選択としては、円卓の騎士団に戻れるところなのだ。分岐点に居るだけで、今後を左右するのは自分の意思。

 もう心が決まっているなら、どれだけ抉られようとも、辛くなっても構わない。

 蒼はそう自分を納得させて、口を開いた。


「素は風、アクセル」


 自身を加速させる風の基礎魔法を使用し、正面を見据える。

 このまま走り出せば、戦場へはすぐに到達する。

 ここで発言するのも、この少年に会うのも最後かもしれない。深呼吸してから後ろにいる少年に、口を向けた。


「お前は俺のようにはなるな。迷いを持ち、欲望を持つ。それこそが人間である由縁の証だ」


 それだけを言って、蒼は自らの戦場へ向かって走りだした。

 一人取り残された少年は、不機嫌そうに奥底に黒ずんだものが滲む純粋な瞳で、開け放たれた扉から夜空を見上げた。


「人間の証……? なんだよ、それ。迷いなんて、欲望なんてないほうがよっぽどいいじゃないか。あんな、人の心を乱すものはなくていいんだよ……!」


 心からの慟哭は誰に聞こえることもなく、何もかもを飲み込む夜空に吸い込まれていった。


 ……


 ソリューションと円卓の騎士団の戦闘が開始されてから、およそ一時間が経過していた。

 当初、奇襲によって優勢に立っていたソリューションは時間が立つにつれて、優勢だった状況を失い始めていた。

 円卓の騎士団が保有する全戦力の三割程度を担う名誉階級の人間たちがこぞって戦線にでてきており、このまま戦い続ければいずれソリューションは敗戦するだろう。

 現時点で円卓の騎士団の損害率が一割にも満たないことに対して、ソリューションは一割強の損害を出している。

 あまり差が開いていないように思えるが、この差は時間が立てば立つほど広がっていくばかりで、不利になることを如実に証明している。

 さらに円卓の騎士団は包囲網を着実に完成させており、ソリューションは撤退を余儀なくされる寸前のところまできていた。

 そんな戦場から目と鼻の先ほどにしか離れていない区域で、美久はあらゆる場所に無線機で覇気のある指示を飛ばす。

 いつもは律が操作する無線切り替え用のものを自分で操作しなければならないから尚のこと大変だ。


「全員、陣形を崩さずに戦って! 時間が稼げればいい、私たちがもっとも得意な、時間稼ぎの戦いよ! もう少しで増援もくる、少しだけ耐えて! 紗綾、そっちは回復した!?」


 無線機を切って、すぐに後方で治療を行っている紗綾たち衛生兵に振り返る。彼女らはソリューションの中でも回復魔法に特化した者たちであり、軽症を負って撤退してきた者たちを魔法で治癒していた。


「五名回復できました! すぐにいけます!」

「俺はどこにいけばいい?」


 負傷者として手当てを受けていた和志が、美久の隣に並んで戦場を見渡した。


「和志、あんたは正面の名誉階級を、できたら一人で抑えて。危なかったら何人かその場で見繕ってもいいわ」


 無茶とも言える指示に、和志はなんでもないことのように頷く。

 名誉階級を一人で抑える。それは戦闘のエキスパートと対等に渡り合えと言っているようなものだ。

 安易に頷けるものでは、到底ない。

 それに作戦としての目標は既に達成していると言っても、過言ではないのだ。ソリューションが一昨日の作戦から一晩で動けるようになった事実は、円卓の騎士団に重く伝わっているはずだ。

 ソリューションの力を示し、円卓の騎士団が地方ごとに割いている戦力をさらに増やし、本部の防衛をある程度減らすというのは、ここまで攻め込めば十分達成できている。

 本当はこの時点で撤退するのが戦力を失うこともない、最善の策だ。

 しかし、和志はここまできて退くことはできないと考えている。彼にとって一番の目的は、創崎 蒼がこちらに加入することなのだから。

 もしかしたら加入しないかもしれない、でもその可能性は和志の頭から抜け落ちていた。


「もう一個確認したいんだが、セイクリッドと武はまだか?」


 美久は和志の言葉を聞きつつも、見える範囲の戦場を確認して魔法を唱える。


「灯火の光! ライトブロック……エクステンション!」


 しかし、戦場には何も起こらない。ただ何が変わるわけでもなく、戦場はそのまま動き続ける。

 その光景に和志は何も言わなかった。どうしたのか、知っているからだ。

 美久は一息ついて、和志の質問に答える。


「ふう……セイクリッドと武には連絡がついたわ。最優先で向かってもらってるけど、どれくらいかかるか神のみぞ知るってところね」


 運命に任せると言っている美久に、和志は笑顔で答える。

 セイクリッドと武、二人はソリューション戦力の一端を担う。その二人がこないかもしれないということは、絶望的な状況に違いないはずなのに、あくまで笑顔だ。


「一番の目的の蒼もこねぇけどな。ま、あいつらのうち誰かがくるまで、俺がなんとか持ちこたえさせるから任せとけ!」


 美久は、能天気にも見えるガッツポーズをした和志に、緊張して張っていた顔を緩ませる。

 どうやら、和志の一言で、気がいい意味で緩んだらしい。危機感ある状況でも、前を向き続けられるのは和志の良いところだった。


「ふふっあんた、怪我しといて何言ってんのよ。いいわ、言ったからには本当に抑えてもらうわよ」

「おう! 男は一度言ったことは必ず守るもんだぜ!」


 張り切って戦場へ進もうとする和志を、紗綾が呼び止める。


「お兄ちゃん、頑張ってね」


 足を止めた和志に、後方から激励の言葉。

 それだけで、和志の気力はさらに膨れ上がる。誰にも負ける気がしない。

 前を向き、右手だけをひらひらとあげながら紗綾に返事を返し、和志は自らの戦場に走る。

 名誉階級の一人、トリスタン卿――火光 真地が猛威を振るう戦場のど真ん中に、一筋の希望――仲間がくることを信じて、進む。


 ……

 …


 ソリューションは、扇形に戦力を展開していた。隣の人間と共同で敵にあたり、進行を許さない陣形。

 もし前方を破ろうととして、前衛が怪我をしても、また新しい人間が奥からでてくる。

 そして怪我をした人間は撤退し、衛生兵に回復してもらう。魔法の応急手当によって、まともな回復ができるからこそ為せる戦法だ。

 しかし、これを続けるのにも限度というものがあり、ソリューションの眼前には、左右前方に敵がおり、ソリューションは段々と劣勢になってきている。

 扇の中で、もっとも突出した部分である頭頂部では、激戦が繰り広げられており、火光 真地が名誉階級の特徴である白いマントを月光で輝かせ、荒々しく戦闘を行っていた。

 ソリューションの兵士三名が、火光 真地を前方に見据える。

 真地は、白仮面の下にある口の端を吊り上げた。戦いこそが、彼を盛り立てる。


「ふん、また雑魚どもか……。いくらお前たちが攻めてこようと俺は討ち取れんぞ。とっとと負傷して後退でもしてろ、腰抜けが!」


 戦場で戯言を吐く真地を無視し、ソリューション兵士の三人は魔法で水剣を生成して、突撃。

 攻撃タイミングを数秒ずつ遅らせながら、一人ずつ襲いかかる。

 一人の攻撃が避けられても、次は他の二人から攻撃を飛ばす。反撃の隙を与えない見事な連携行動。

 流れるような攻撃を真地は上半身を捻ったり、屈んだりしながら、避けまくる。反応が追いつかなくなりそうなら、右手に持った炎を纏う魔法の剣――フレイムソードでガードする。

 名誉階級だけあって、魔力の練りこみが強く、魔法属性上、不利な水属性の剣を相手にしても炎は決して種を枯らすことはない。

 防戦一方になりつつ、真地は心底楽しそうに声を荒げる。


「雑魚と言ったのは取り消してやろう! 目標を絞らせない、見事な連携だ。だが無意味だ!」


 真地が集中すると、フレイムソードに追加の魔力が注がれて、纏った火が拡大する。それを一振りするだけで、皮膚を焦がす熱気が水の剣を蒸発させた。

 いや、蒸発したように見えただけで、元は魔力の塊だったそれが、空中に霧散しただけだ。

 ソリューション兵士は一瞬のことに驚き、動きを止めてしまう。絶望的な力の差、連携だけでは覆すことのできない、圧倒的力がそこにあった。

 真地が容赦なく迫る。


「……戦場で止まったものは、おしまいだ」


 振り上げるのでなく、あくまで敵を殺すのに最適化された動きで、突きの動作。このままいけば、三人の命は数秒後には存在していない。

 あの火に触れてしまったら、体ごと燃やしつくされてしまう。

 雲が月光を遮り、闇と化した瞬間、彼は現れた。


「うっおおっぉぉぉぉぉぉぉー!」


 夜空に木霊する声量で、真地に突っ込んでくる。

 気配と声の場所から突きの動作を瞬時にやめて、上半身を捻り、加速してやってくる物体に刃を走らせ、鍔迫り合う。

 使用者自身が、火傷しそうになるほどの熱量を持ったフレイムソードと、風によってあらゆるものを切り裂くウィンドアックスが相対する。

 雲に隠された世界が再び月光に瞬く。 

 ソリューションの制服に身を包んだ男――藤幹 和志だ。

 和志はフレイムソードを必死に受け止めながらも、仲間を視界に入れて、叫ぶ。


「早く逃げろ!」

「あ、ああ! 助かった!」

「ありがとう!」

「すまんが、任せた」


 三者三様に帰ってくる返事を心で受け止めながら、和志はアックスをさらに押し込む。それだけで、フレイムソードは倍の速度で風を吸い込むように火を滾らせる。

 真地は馬鹿を見るような目で、勝手に拡大する自身の火と、和志を視界に捉えた。


「火は風を吸い込み成長する……なぜこんな馬鹿なことをしている? ソリューションとはそこまで馬鹿な集団だったか」

「俺はお前をここで足止めしなきゃならなくてな! タイマンだぜ!」


 喋りながらも、仲間が完全に離脱したのを確認してから、和志は後ろに飛び退いた。

 真地はその甘い行為を鼻で笑って、言葉を紡ぐ。


「はっ、心配しなくとも逃げ出した腰抜けなどに用はない。それより、いいのか? 火はお前のおかげで、強化されたぞ」


 右手に持った剣を差し出すようにして、和志に見せつける。

 刀身自体が見えないまでに肥大化した火が夜風に揺らめく。あんなものに触れられたら、一寸の狂いもなく溶断されてもおかしくない。

 それを見ても尚、和志は戦う姿勢を崩さない。

 一つやると決めたことをしっかりと見据える、人間としては些か正直すぎる心のあり方を和志は示す。


「はっ強化されたからってなんだよ。俺はお前を止めるだけだぜ。それが約束したことだからな」

「戦場で約束などと、吐き捨てるほどに甘いな。幻想を抱き続けて、骸になれ」


 それ以上の言葉は、どちらも紡ぐ気がないようだった。

 一陣の風が、後押しするように真地を押し上げる。

 真正面からの突撃。

 風の後押しもあってか、初速から最高速までそれほど時間はかからない。フレイムソードを正面に構えて、レイピアのように突きだして突進する。

 本来、剣で突くというのはご法度で、突いた瞬間に相手の筋肉が収縮し、締め付けられて剣が抜けなくなってしまう。

 しかし、フレイムソードは火を纏った剣である。突いてしまえば、相手を内部から焼き尽くし、文字通り骸にしてしまうだろう。

 和志は、左に飛んでフレイムソードを避ける。

 真地も避けられることは理解しており、和志が左飛びした瞬間、進路を柔軟に変更して追い迫る。

 フレイムソードを突き出すのをやめて、小さく一振りできるように持ち直す。

 風のおかげで、極限まで火の勢いはついている。その勢いが切れる前に、殺しきる。

 着地した和志は、次の攻撃が避けられないと判断してウィンドアックスを真地に投げつける。

 しかし、それも一振りされたフレイムソードに弾かれて、戦場のどこかへ飛んでいってしまう。


「はっ! もう万策つきたか!」


 自信ありげに勝利宣言する真地に、和志は仮面の奥でニヤっと笑う。

 得物もなく、体内に魔力はあるものの生成する時間はない。あと数秒もすれば、心臓を突かれて死ぬだろう。そうでなくとも、肥大化したフレイムソードから逃れることはできなように感じられる。

 それでも、和志にとって、その時間は走馬灯が映るような絶望的な状況ではなく――むしろ、月光に照らされて希望の光が見えた。 


「"俺たち"の勝ちだ」


 苦し紛れの言葉としか捉えられないものを和志が呟いた瞬間、フレイムソードが忽然と姿を消した。

 実際にはそのように見えただけで、辺りに火が発生させた水蒸気がばら撒かれている。

 水の魔法、ウォーターソードと、火の魔法であるフレイムソードが同等の力を持って互いに激突したせいだ。

 真地が状況を把握した時、それと同時に、目の前へ降り立つ一人の人間。

 円卓の騎士団特有の白い服を着込み、白い帽子、仮面をつけている。

 すべてが月光に照らされたその姿は、どこか神秘的にすら思えた。

 真地は驚きに目を見開き、その人物を凝視する。

 この人物が誰か、身のこなしだけで理解できてしまった。真地の力を破るほどの魔法力の練り込みを持つ人物は、彼が知る限り二人しか存在しない。

 一人は武神として恐れられている円卓の騎士団、名誉階級第二位のガウェイン卿こと、縁李 無頼。

 もう一人は、円卓の騎士団でも最高の力量を持つとされている名誉階級第三位のランスロット卿――創崎 蒼だ。


「お前は……ランスロット卿か」


 一言一句、確認するように紡がれる威圧感ある言葉に蒼は飄々とする。


「……」

「あくまで答える気はないということか……。我が火燃えろ! フレイムランス!」


 先ほどとは違う、ランス状の物体が真地の手に現れる。槍の頭頂部には、火が渦巻いていて、相手を貫くことを待っているように見える。

 蒼は淡々と戦場を見渡して、真地に一言述べる。


「トリスタン卿、時間切れだ」


 紡がれた言葉の意味を図りかねる真地だが、蒼と同じように周囲を確認すると、左右の戦力が一点を崩されて、崩壊を始めていた。

 今回の作戦は、ソリューションは蒼が来るまで、または円卓の騎士団にまだ攻められる戦力があると嘯(うそぶ)いて知らせるためのものであり、制圧を目指したものではなく防戦にならざるを得なかった。

 円卓の騎士団は攻めてこられたのなら、対処をしなければならず、防戦するソリューションに攻勢を仕掛けていた。

 守りは一点を崩されれば脆い。だが、攻める側も陣形の一点を崩されれば、脆いのだ。

 強大な力が一点の奇襲を掛ければ、当然戦線は崩壊する。

 ソリューションが、当てにしていた戦力が到着したのだ。


「……左右の編隊が崩れていくだと!?」


 驚愕する真地に、和志は耳に仕込んでいるイヤホンの通信を聞いて、蒼に呼びかける。

 もう味方であるのが当たり前のように、振舞う。


「撤退だ!」

「……わかった」

「っ! させるか!」


 真地はフレイムラインスを力強く握り、撤退しようとする蒼と和志に駆けだす。

 しかし、追いつくことはできない。

 円卓の騎士団とソリューションを阻むように現れた壁があったからだ。

 可視化できないそれに、円卓の騎士団は多少なりとも反応が遅れてしまう。戦場から撤退するには、その数十秒の遅れだけで十分だった。

 ライトブロック、そう呼ばれている光属性の防御魔法だった。

 壁としての性能は耐久面から決して高くないのだが、認識できない壁というものにはさすがに対処が遅れてしまう。

 真地は壁を破り突破しようとするが、時既に遅く、このまま追っても追いつかないと判断して、フレイムランスを瓦礫に突き立てる。

 自分の手から離れた魔法は、数秒で自壊を始めて魔力結合を解除していく。次第に、フレイムランスが空気中へ散らばるように霧散する。


「……もう少しだったものを」


 独り言を述べたそこに、名誉階級第二位のガウェイン卿こと縁李 無頼が現れた。

 遠のいていくソリューション――いや、創崎 蒼を見つめながら、嬉しそうに呟く。


「あいつは、行ったか」

「ふんっランスロット卿の離反はお前の入れ知恵か。……アーサー王がどう言うだろうな」

「アーサー王は既に結論をだしている」


 真地はゆっくりと振り向いて、円卓の会議場を見上げる。

 無頼の言った結論をだしている、というのは、アーサー王はランスロット卿が離反することを知っていたということになる。

 どこにいるかもわからないが、確実に中にいるアーサー王を親の仇であるかのように睨みつける。

 もう少しで仕留められていたかもしれない……そう思えばこそ、睨みつけるしかなかった。


「アーサーは何が目的だ? こんなことをしても、俺たちに得はないぞ? むしろ敵対勢力が増長し、俺たちがやり辛くなるだけだ」


 真地が毒を吐くみたいに強気な言葉を紡ぐものの、無頼はそれをさらっと受け流す。余裕が感じられる振る舞いだ。


「どれだけ疑問を持とうと構わん。だが、俺たちはアーサー王の決定に逆らうわけにはいくまい? 円卓の騎士団を裏切ったランスロット卿を脱退と見なす。そして、身元がわかっているからと襲いかかるのも禁止だ。わかったな?」


 無頼は念を押すように、真地へ決定事項を告げる。


「……理由を聞いても無駄なんだろうな」

「全てはアーサー王の意思だ」


 真地は目を瞑り、考える。

 ランスロット卿の離反を許す理由が円卓の騎士団にはなく、離反したのであれば、とっとと叩き潰すのが一番だ。

 円卓の騎士団でも最大の技量を持つと思われる兵士が、敵対勢力に組してしまったのだから、脅威になる前に殺すべきなのに、それをするなとアーサー王は言っているようだ。

 しかし、と真地は考え直す。

 己の目的はなんだ?

 ここでいくら異議を申し立てようと、全ては決定されたことで、もう意味がない。ならば、視点を変えてことに目を向けるべきではないか。

 一重に真地がここにいる理由は、火光流を広め、自分の力を認めてもらうことだ。

 ならば、敵として殺せば功績を残せる人間が増えたのは良いことではないだろうか。

 何も問題はない。ランスロット卿が裏切ったのなら、力で叩き潰せばいい。

 力を示し、火光流を世に最強の剣術だと知らしめる。

 それが、真地を心の奥底から動かす欲望だった。


「理由の詮索はもうしない。俺は戦えれば、それでいい」


 月光の夜空に、独り言が吹き抜けた。


 ……


 散乱した瓦礫に足を取られないように、蒼と和志は撤退していた。

 両者共に、風の魔法アクセルを使用していることで、速い。あと数分もすれば後方の部隊に追いつくことができるだろう。

 アクセルは、自身の身体能力強化が主な役割であり、その強化項目は速さの向上だ。全体的に過敏な動きが可能になるが、思考速度が速くなるわけではないので、体を制御しきる力が必要な魔法だ。故に、少し油断をするとまばらに散らばって足元を邪魔する瓦礫に捕まってしまう。


「おっとと……」

「……」


 右足先を瓦礫に引っ掛けた和志に、蒼はちらっと目線を向ける。

 躓いているものの、フォローとして左足を瞬時に反応させることで転がるのを回避したようだ。並大抵の反射速度では為せないことだ。

 確認のために少しペースを落とした蒼に、和志はすぐに追いつく。


「なんで助けてくれなかったんだよ?」


 口をへの字にして、不満を口にする和志に、蒼は応じる。


「……お前なら助けなくても、問題ないと判断した」


 その言葉に、和志はしばらく考え込んで俯く。

 少しの段差がある瓦礫を飛び越えて、緩やかに接地しながらさらに地面を蹴る。

 幾分かその動作をしたあと、和志は顔を上げた。


「それは信頼してもらってるってことか?」


 自信気な顔を浮かべて、問いかけてくるが、蒼は思ったことを口にする。


「戦闘や技術の面ではな」

「人となりは信用してねぇってことか。昨日あったばっかだからしゃーねーよな」


 そもそも、なぜ昨日会ったばかりの人間にそこまで馴れ馴れしいのかと思うのだが、和志はそういう人間だった。

 自分がいいな、と思った人間とはとことん仲良くなる、そんな性分。

 さらにしばらく歩を進めていると、唐突に和志がアクセルの魔法を解除して減速した。


「確か、この辺だな……創崎!」


 巨大な建物の骨組みが無残な姿のまま残る地点で、和志は蒼を呼び止めて、周囲を探るようにしゃがむ。

 蒼もアクセルの魔法結合を解除して、減速してから、和志のところまで戻ってくる。


「止まるならもう少し早く言え」

「すまんすまん。ちょっと待っててくれ」


 蒼が見下ろすなか、和志は瓦礫を手で触り"ここは違う"やら"もうちと右だったか?"とか言いながら、何かを探しているようだ。

 手持ち無沙汰になった蒼は周辺を確認して、円卓の騎士団が追いついてこないか確認する。


「……まだか?」

「わーてるから少し待て! っと、あったぜ」


 和志が探し当てたのは、周辺の瓦礫とはなんら変わりないただの物言わぬ平らな瓦礫なのだが、上部を左にずらすと一から九までの番号からなるコンソールが出現した。

 どうやらパスワードを入力するらしい。和志はテキパキと番号を入力して、ずらした上部を戻す。

 すると、勝手に瓦礫が持ち上がり、地下へ続く梯子を現した。円形状の筒にくっつくそれは、マンホールの中と言えば非常に分かりやすいだろう。


「ほら、敵が追いついてくる前にとっとと入れ」

「ああ……」


 蒼は和志に促されて、梯子を降りる。さわやかな外気が湿気を含む、どろっとしたものに変わり、体にまとわりつく。

 そんなことはお構いなしに、蒼は思考していた。

 今回のソリューションは突然の奇襲を仕掛けてきた。しかも総人数は軽く見積もっても五十人以上の大部隊で、だ。

 部隊をある程度ばらばらに配置して終結しても、さすがに円卓の騎士団の見回りに途中で気づかれてもおかしくなかったのだが、どうやらこの地下から大量に出没したようだった。

 和志は、周りに敵がいないかを確認してから、細工された瓦礫の裏蓋を手に持ち、中に入ると同時に蓋をする。

 これで、外から見れば完全に他の瓦礫と同化してわからなくなった。

 きちんと閉まったことを確認するために、上下に揺らす。やがて満足した和志は蒼を追って梯子を降り始める。

 蒼が梯子を降りていくたびに、段々と耳をつんざくかのような水の反響音が近づいてくる。和志が出口を閉じて月明かりもなくなったために、夜目も効き辛く前後左右がわからなくなる。

 頼りになるのは自分の感覚だけで、踏み外せばどこまで落ちるかわからない状況で、下を向くと、いつの間にか光が差し込んでいて、足をしっかりと着けられる地面まで到着していた。

 振り返ると、しばらく暗闇に居たせいか、光が眼光を刺激して思わず目が細まる。

 しかし、吸い込まれるように、体が意思を無視して光を浴びにいく。

 そこへ行け、そこから全てが始まる。

 光につけば、お前は生まれ変わる。そう光に言われているようだった。

 幻想的に光が支配する場所に近づくにつれて、何かが輪郭を為す。最初はぐにぐにとしていて何者かもわからなかったそれは次第に形を成して蒼の目の前に現れる。

 照明が地下水路を輝きに埋め尽くすそこに、太陽のような紅の髪をした少女が手を差し伸べていた。

 火のように燃え上がる赤い瞳、微笑みかけてくる優しい表情、どれをとっても、紅 美久は蒼を歓迎しているようだった。 

 後方で待機しているソリューション連中の中で、律は蒼を見つけた途端に、手を振って挨拶していた。しかし、大多数の人間はあまり歓迎する気はないらしい。

 元々命のやり取りをしていた敵だったのだから、当たり前のことだろう。どこかで折り合いをつけようとしても、まだ折り合いをつけれるような時期ではない。

 美久は後方を気にせず、戦場に立つ指揮官として、快活で凛々しい声を地下水路に響き渡らせる。

 

「ソリューションにようこそ、創崎 蒼!」


 蒼は差し伸べらている手を見て、自分の手と見比べる。

 差し伸べられた手を握れば、それは以前の蒼へ戻ることができないことを意味していた。

 人形である自分と決別する。

 己の欲望を肯定する。

 今までの自分とはまったく違う別の誰かになってしまうことに、もう恐れはない。

 無頼には己の信じる道を行けと言われた。そのことが、深く心に刻み込まれている。

 ならば、手を跳ね除ける理由はない。

 蒼は手を差し出して、美久と握手する。


「……宜しく」


 美久は、満足したように頷く。

 

 蒼は自らが望む最初の一歩を、やっと踏み出した。

 欲望のなかった人間が、欲望を手に入れて自らを動かすために、羨むものを手に入れるために、蒼は果てのない欲望を叶える路線に乗った。

 その路線の最後がどうなるのか、今は分からないことだらけだが、停滞していた欲望の心を動かし始めた人間を止められるものは誰もいない。


 人は誰しもが欲望を持って生きる。自分の生き方をそれで決定していく。


 人間の善と悪の欲望を伴って、いくつもの歯車は果てしなく回る。


 欲望が、世界をさらに加速し始めた。


 邂逅編完結


 亡霊編へ続く

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